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しおりを挟む実姉の言う〝お兄様〟というのは、幼いジェルヴェの教育を一任されていた長兄のことだと察せられた。次期当主になる存在として育てられてきた人物である。
「随分唐突ですね」
あと数年で代替わりする予定だったとジェルヴェは記憶している。準備期間を考えると、確かに今を逃せば他にタイミングがないとも言える。
「以前から考えてはいたらしいけれど、お兄様を推す親戚連中が邪魔だったみたい。お兄様が当主なら甘言でいくらでも操れるもの。都合が良かったのでしょうね」
「彼は今から己の人生設計をやり直さなくてはならないのか。大変だな」
アルフゼットは実に愉快そうに笑う。言っている内容と表情が合っていない。実姉も楽しそうだ。
「圧力をかけた張本人が何を言うのやら」
「圧力?俺はただ諸々の事実を報告しただけさ」
一体何を言ったのやら。
長兄がダメなら次兄が跡を継ぐのだろう。次兄の顔は今ひとつ思い出せない。我関せずという姿勢が母と似ていたような気がする。
そんなことを考えていたら、伸びてきたアルフゼットの腕がジェルヴェの腰を抱き寄せてくる。叩き落としても諦めないアルフゼットの手によって膝上に座らせられてしまい、ジェルヴェは慌てて実姉の顔を見た。実姉は呆れを隠さず苦笑している。
「何を気にしてるの?他人にバレなきゃ別にいいわよ」
「まぁ、屋敷の人間は大半私達の関係に気づいているしな」
それはそれで良くない。ジェルヴェは憮然とする。
「あとはこの子が〝公爵家の跡継ぎ〟として無事に産まれてくれることを祈るばかりね」
「父親似だったとしても隔世遺伝をでっち上げれば問題ないだろう」
それで良いのか、と思ったが、ジェルヴェも共犯なので最早何も言えない。初夜の偽装といい、実際にアルフゼットの夜を独占している事実といい、しっかり加担している。
「気にする事はないわ。貴族なんてどこの家もそんなものよ。体裁を取り繕ってでも家が続けばそれでいいの」
他でもない正式な妻が良いと言う。ジェルヴェとしても、婚約しながら別の男の子供を孕む女にアルフゼットを任せる気などはない。
「アルフゼット様の顔に泥を塗ったら許しませんからね、奥様」
「はいはい、わかってます。役割は果たすわ」
歪だとは思う。
しかし、これがジェルヴェの〝家族〟だ。
実家では家族がいても寂しくて心細かった。しかし、この家族はジェルヴェを放っておいてはくれないだろう。
幸せだと、ジェルヴェは頬を緩めた。
「────ジェルヴェ、その表情は私達以外の前でしたらダメよ。襲われてしまうわ」
「?」
「何がなんでも俺が守るさ」
[完]
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