傾国の再来は隠される

ひづき

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 その辺は爵位と一緒に引き継いでおいて欲しかったと、ジェルヴェは嘆く。

「身を売って欲しいと交渉してくる人が絶えないというだけですよ。いい加減入浴したいので下がっても宜しいですか?浴室はアルフゼット様の残り湯を頂いても?」

「あ、ああ…」

 アルフゼットは目を丸くして固まったまま、ぎこちなく頷いた。これ幸いとばかりにお辞儀をして近くの自室に引っ込む。本来なら使用人なので使用人用の浴室に行く必要があるのだが、アルフゼットの許可はとったし、何より先程の簡易的な処置では出し切れなかった胎内に残る子種を掻き出す必要があるので使用人用の浴室だと都合が悪い。

 必要な物品だけを持ち、目の前にある浴室に入る途中、ちらりと様子を覗いて見たが、アルフゼットは未だ固まっているようだった。



 □□□□□□□□



「見て、ジェルヴェ」

「…なんでしょう、奥様」

 初夜の一件以降、何故か実姉に懐かれた。

 そのせいで周囲から夫人の愛人かと誤解されたが、実の姉弟だと説明すると、確かに容貌が似ていると納得され、それ以降変な誤解をされることはなくなった。それもあって最早実姉は遠慮をしない。

「まだ姉上と呼んでくれないの?」

「勤務時間中ですので」

「そんなこと言って、本当は人前で呼ぶのが恥ずかしいだけでしょう?」

 正直面倒くさい。どんな反応を返してもポジティブな解釈をされるあたりが面倒くさい。もっと人形のように無感情な人間だと思っていた。記憶の中の彼女とは別人だ。

「ルヴェ。…ああ、君もここにいたのか」

 アルフゼットは書類上の妻の姿に驚いたものの、すぐに平静を装う。実姉も書類上の夫を前に一瞬顔を強ばらせたが、すぐに笑みを取り繕った。

「まぁ、あなた!私の弟がご迷惑をおかけしてませんか?」

「いや全く。優秀過ぎて俺の方が煽られるくらいだよ」

 書類上の夫婦は表面上のみ取り繕う仮面夫婦として仲睦まじい姿を披露する。その際に利用されるのが定番となってきたジェルヴェは密かに溜め息を吐いた。

 夜になれば夫婦揃って仲良く夫人の寝室に入り、すぐにアルフゼットは内扉から主寝室に戻ってきてジェルヴェに抱き着く。ここまでがセットだ。偽装夫婦はとにかく疲れるようで、実姉が迷惑をかけている立場としては、これでアルフゼットが癒されるならとされるがままである。

「…アルフゼット様、そろそろ離して下さい」

 今夜は異様に抱擁が長い。違和感を覚えて声をかけるが、アルフゼットがジェルヴェを離す様子は無い。

「───そろそろ、妻の妊娠を公表しようと思う」

 安定期に入ったら、初夜で授かった子として、つまり仮面夫婦の間に出来た子だと偽りの公表をするつもりだと事前に聞かされていた。だからそんなにジェルヴェは驚かない。調べたところ、子供の父親は伯爵家に出入りしていた行商人の荷運びをしていた青年で、既に伯爵により始末されたのか行方はわからない。実姉に1人で子供を育てられるとは思えない。だったらいっそ、という結論に至ったわけだ。

「そうですか」

 腹立たしいと思うのはジェルヴェでは彼の子を産んであげられないからだ。実姉にはそれが可能なのに、出てくるのは別の男の子供。正直忌々しいと思っている。

「だが、例え安定期に入ろうと、出産を終えようと、俺は彼女を抱くつもりはない」

「…子孫を残すのも当主の義務でしょう。妾でも取るつもりですか」

 芽生えた希望は浅ましくて醜い。そんな心に蓋をし、彼に仕える身として彼を諌めた。

 そんなジェルヴェのシャツのボタンを、後ろから抱きついたままのアルフゼットが外し始めた。カッと、肌が紅潮する。

「何を───」

 戸惑っていると、チュッとうなじに吸いつかれ、ちくっとした痛みに言葉が詰まる。開けたシャツの間から入り込んだアルフゼットの手が胸筋を確かめるように揉み始め、ジェルヴェの鈍い頭は抵抗しなくてはと思い至る。一方で期待に震える自分がいて、ジェルヴェは混乱した。

「改めて抱かせて欲しい」

「まさか!また媚薬を盛られたんですか?」

「ふふ…っ」

 理性でも失わない限り、彼が自分を求めるなど有り得ない。ジェルヴェはアルフゼットの身を案じて慌てた。アルフゼットが声を押し殺して笑う。抑えきれなかった笑いが吐息となってジェルヴェの首筋を刺激した。

「んんッ」

 不埒な指が乳輪をなぞり始めて。ゾワゾワと身体の奥底から呼び起こされる熱にジェルヴェはイヤイヤと身を捩る。

「乳首、触って欲しい?」

「そんな…っ、ひ!」

 乳頭を摘まれ、驚きに声を上げる。

 抵抗しなければと思うのに、思うだけで身体は動かない。性的興奮に呼吸が荒くなり、脳が空回りする。こうしている間にも乳頭周辺を中心に熱が広がり、体温が上がっていく。慣れ親しんだアルフゼットの臭いに、このまま抱かれたい、抱かれてしまいたいと、本音が、身体が訴えて、力が入らない。

「あ!」

 優しく寝台に横倒しにされても、最早逃げるという選択肢は頭に浮かばず、衣服を脱ぎ出したアルフゼットを仰ぎ見るだけ。上半身を晒し、情欲に濡れた眼差しがジェルヴェを見下ろす。目を合わせることが出来ず、ジェルヴェは顔を背けた。

「目を逸らすな。誘っているようにしか見えなくて、困る。乱暴に暴きたくなるだろ」

「そんな…、何を言って」

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