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しおりを挟む「ま、まさかあの男、血の繋がりがある異母兄を性的な対象として見ているとは…!」
驚愕に続き「お労しい!!」という嘆きが聞こえてきたため、イーリオはそっと視線を逸らした。まさかここで自分は偽物ですと主張するわけにもいかない。加えて合意の上ですなんて言ったら卒倒されるか激昂されるかわからない。
「わかったら、服を寄越せ」
「探して参ります」
メイドを人質にしている男とは別の人物がそれだけ告げて離れる。
これでどのくらい時間が稼げるだろうか。床に倒れている侍従を早く医者に見せたいが、かといって易々と連れ去られるわけにもいかない。
「ところで。お前たちは名乗りもせず俺を利用するつもりなのか?」
フードの下で、男が満足そうに微笑む。
「そうですね。いくら天の助けとは言え、アレス皇子ともあろう方が無条件に我々を信用するはずがありませんでした」
誰も天の助けとは思っていない。その自信はどこから来るのかと、イーリオは鼻で笑う。
「俺をバカにしているのか?」
「とんでもございません。ご立派になられ感極まっております。よくぞご無事で…!ご安心下さい、我らはグラナル公爵家の配下でございます」
グラナル公爵家。それは亡きアレス皇子の母親の実家だ。亡きアレス皇子の祖父が今も当主なのだろうか。
「───公爵家の皆様はご健在か?」
「えぇ。もちろんでございます。旦那様はアレス皇子のご生存を信じ、お嬢様の仇を討つべく力を蓄えて参りました」
目の前の男も、この男が心酔する旦那様とやらも、両者ともにあの女の罪を欠片も信じていない。
死産だった我が子を偽物と入れ替えたという罪状を受け入れているならば、大人しくアレス皇子の死を弔ったことだろう。アレス皇子の生存を信じ、その成長を喜ぶ彼らは、イーリオという犠牲があったことに気づかず、今も尚イーリオという人間を黙殺している。
信じたいものを信じる。信じたくないものは否定する。そんな彼らの妄執はどこまでも人間らしいもので、本物のアレス皇子が無事に生まれていたとしても龍の特性を受け継いでいたかは怪しい。
「お爺様は実に人間味溢れる方だな」
「アレス皇子のお姿を前に感涙なさることでしょう」
「うむ…」
それは心底嬉しくない。
うっかり口を滑らせそうになったタイミングで、衣服を探しに行った男が戻ってきた。時間稼ぎも潮時らしい。
イーリオに執着するエストールのことだ、恐らく定刻毎にイーリオの状態を報告させていただろう。その報告が途絶えれば即刻駆けつけるはず。何だかんだで半刻は時間を稼げただけ良しとするしかない。
「こちらをお召しになって下さい」
高貴な立場の人間は着替えすら一人では行わない。それを忘れていたイーリオは、バスローブを脱がせようとする男に思い切り顔を顰めた。
「触れるな。奥で着替えてくる。手伝いは不要だ」
「で、ですが───」
服を持ってきた男が狼狽える。イーリオはメイドを人質にとっている男を見遣り、睨みつけた。
「おい、お前。俺の脚を見たならわかるだろ?察しろ」
鏡で確認していないが、恐らくバスローブの下は全身にキスマークがある。嘘でも誇張でもなく事実なので、見られればお互いにさぞかし気まずいだろう。相手もそれを思い出したらしく、服を持ってきた男の首根っこを掴んでイーリオから引き離した。
「───ぶ、部下が大変失礼を致しました。いや、ですが、しかし………」
「お前たちが真にお爺様の配下だというのなら、俺に逃げる理由はない。まぁ、確かに、お爺様の配下だと信じられる要素は今のところないが、な」
探るような目を向け、挑発的に笑う。男は迷わず頷いた。
「我らは、グラナル公爵家に絶対的な忠誠を誓っております」
「なら、それは誰に対する人質だ?見苦しい。気絶でもさせて転がしておけ」
未だに怯えているメイドを指差す。最早顔に血の気がない。
「公爵家の名を聞かれているのに殺さぬと?」
メイドを哀れに思う気持ちはあるが、顔には出していないはずだ。それでも違和感を覚えさせてしまったらしい。焦ることなく、イーリオは嘲笑した。
「臆病なエストールのことだ。常にお爺様の動向は見張っている。どうせ動きがあればすぐにバレるさ。それとも他に何か殺すほどの価値がある女なのか?」
「───それもそうですね」
音もなく腹部を殴られ、メイドは昏倒する。もっと上手に助けられれば良かったのだが…、申し訳ない。
「着替えてくる」
「畏まりました」
渡された着替えを手に浴室に入り、ドアを閉めて、鍵も締める。そこまでしてようやく安堵でき、思わず大きな溜め息が溢れた。
果たしてアレス皇子らしく振る舞えただろうか。幼い頃の自分の延長線上を演じるというのは、何も知らなかった頃の自分をなぞるということで。羞恥心で死にたくなるので勘弁して欲しい。
時間を稼ぐにしろ、逃げるにしろ、連行されるにしろ、バスローブ姿では動きにくいため、取り敢えず渡された服に着替えることにした。広げてみると、サイズからしてエストールの衣服のようだ。
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