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 ミーシアは周囲から魔王と呼ばれている。

 魔王は孤独だ。周囲と親しく打ち解けたいと思って話しかけても皆萎縮して会話にならない。

 どうも魔族と呼ばれる者達は生まれ持った魔力量で優劣を決めるらしい。最初にそれを聞いた時、魔王と呼ばれる自身の魔力量はどれだけ膨大なのだろうと想像した。想像はしたが、現実は残酷である。

 ミーシアには魔力がない。

 これっぽっちもない。全くない。無である。

 この世界に生きる以上、昆虫でさえ微細な魔力を持っているのに、ミーシアにはない。それが不気味だと恐れられる。誰もミーシアに近づかない。

 小動物どころか昆虫以下…。つまり、それは一体どういうことなのか。

「貴方が唯一無二の存在だと言うことです」

 黒曜石のようなツノを2本、額と黒髪の生え際の間から左右対称に、それこそ天に向かって双翼を広げているかのように生やした男が微笑む。

 実際に彼はミーシアを微笑ましいと思っているのだろう。血が通っているのか疑わしいくらい白すぎる肌、絵画のように整った容貌の、滅べと言いたくなるくらい美しい男がとろりとした目で見つめてくる。色々勘違いしそうになるくらい甘い視線で胸焼けしそうだ。

 小麦色の肌に、茶色の色素が強い黒髪の小柄な青年でしかないミーシアなどより、彼の方が王に相応しい。

 彼はアゼル。記憶のないミーシアを拾い、魔王の椅子に座らせた張本人。尚且つ、先代の魔王。この世で最も強い魔力を持つ男である。そんなアゼルは現在、魔王補佐官を自称している。あくまで自称なので周囲の魔族達は先代様と呼ぶ。

「今日の業務は先程の謁見で以上です」

「おわったー」

 身体をすっぽりと覆うほどに大きな玉座に座ったまま、ミーシアは力を抜き、だらしなく姿勢を崩した。

 魔王の仕事で一番多いのが謁見だ。陳情、というか、種族間の揉め事の仲裁が多い。魔族といっても種族は多種多様、価値観も千差万別。で、揉めたら、取り敢えず魔王に相談する。魔王が言うならって感じで双方納得してしまう。そんなんでいいの?って、いつも思う。話し合って折り合いがつくようなルールを自分達で決めないの?と問いかけたこともある。自尊心が高い故に争いに発展して相手の種族を滅ぼすまで終わらなくなる、とのことだった。───じゃあ、仕方ないか、と。ミーシアは考えるのをやめた。魔王さえ正しく機能すれば魔族領は平和だ。

 他の経済状況が云々とかは各部署の魔族達が片付けてくれるので報告書に目を通すだけ。その辺は意味の分からないものばかりなのでアゼルの丁寧な説明が頼りになる。

 繰り返しになるが、魔族は自尊心が高い。その為、ひとつの部署をひとつの種族に任せると、種族の名誉に賭けて全力を尽くしてくれるので不正などは発生しにくいそうである。ちなみに、複数の種族が同じ部署にいると反発しあって業務が滞ったらしい。先代魔王の苦労が垣間見えた。



 そんな感じで、ミーシアは普通に仕事をして、平和に暮らしていた。

 納得がいかないのは寝室どころか寝台までアゼルと一緒なところくらいである。

「いや、ほんと、何で…」

 広いはずの寝台で「落ちたら大変ですから」とか言われて抱き枕にされている。「寝ている時が一番無防備なのですから護衛は必須でしょう!」と押し切られたので、寝室が一緒なのはまだ納得できるのだ。寝台まで一緒にする必要はないのでは?…そう思うのに、空調の効いた部屋でアゼルの温もりに包まれていると驚く程眠れるのだ。夢を欠片も見ないで熟睡出来る。その心地良さといったら!悔しいが一度経験したら辞められない。

 だが、まぁ、それでも眠くならない時もある。身体を捩り、背中側から抱き締めてくるアゼルと向き直ろうとモゾモゾ動く。それだけで察したアゼルが覆い被さってきてミーシアの望む物をくれた。唇と唇を触れ合わせる気持ち良さ、それを教えたのもアゼルだ。

「ふ、んぁ、」

 口を薄く開ければ心得たとばかりにアゼルの舌が入り込んでくる。舌を絡める生々しさもアゼルから教わった。

「誘っていると解釈しても?」

「えー、俺はキスだけでいいんだけど」

「………承知しました」

 セックスは気持ちいいけど疲れるから困る。軽く戯れる程度がちょうどいい。不満を呑み込み、触れるだけの口付けを繰り返し与えてくれるアゼルは優しい。アゼルはミーシアに甘い。たまには無理強いしてくれても良いのに、と物足りなさを覚えるミーシアは自身の強欲さを自覚してクスクスと笑いを零し、アゼルの頬に首筋に口付けを送り返した。

「気が変わった」

 ミーシアは身体を起こしアゼルを跨ぎ、豪快に寝巻きを脱ぎ捨てる。下衣も下着ごと床に放り捨て、呆れを隠さないアゼルの下衣から男性器を無造作に取り出し、それが萎えていることを確認するなり、ミーシアは両手で包むように握って雑にしごき始めた。本当は自身の陰茎と合わせ、まとめて擦りたいところなのだが、如何せん、アゼルのそれが太いせいで2本一緒には包めないのは以前学習済みである。

「はぁ───」

 溜め息のような、呆れのような、やや熱を帯びた吐息がアゼルの薄い唇から零れる。

「ふふ、硬くなってきた」



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