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第三話 ふたりきりの一日④
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「わっ」
食事を終えると、手の上に居た鳥が飛んで俺の耳に止まった。どうやらそこで毛繕いをしているようだ。
「うう……爪と時々当たる羽根がくすぐったい……」
耳を動かして別のところに移動させたい衝動をぐっと我慢する。と、アルが指を俺の耳の上に持ってきて、小鳥をアルの指に跳び移らせた。アルの真っ白な指の上で、青い鳥が毛を整えている。視線はそのまま隣にいるアルの顔に移った。
長い睫毛に縁どられた金色の瞳と、緩やかな山をつくっている鼻、印象的な赤い唇、真っ白の直毛とその間から覗く耳、そして頭の上から生えた巨大な角――初めて見た時恐ろしいと思ったその姿に、見惚れた。こんなきれいな生き物がいるのだ、と。
アルの掌で啄んでいた小鳥も食事を終えたのか、やがて窓の外に飛び立っていった。アルは鳥達が羽ばたいていくのを、見えなくなるまで見詰めていた。
ふとアルのお尻の上の辺りの服が少し盛り上がっていることに気付いた。
「アル尻尾あるじゃん!」
手を伸ばそうとした瞬間、さっと正面を向き後ろに隠されてしまう。一瞬見たところ手のひらサイズくらいの小ささだった。もしかしたら、他の羊族のように、尻尾はふわふわしている可能性がある。
「ね、見せて! 触らせて!」
「何故だ」
「ちょっとくらいいいじゃん! 減るもんじゃないし!」
他の種族の尻尾がどんなものか気になるし、昨日俺の尻尾を「狸」みたいだとか言ったのを忘れていなかった。本当は不格好だから服の下に隠しているのではないかと疑っていた。
「……ならば、ロポから触らせるべきではないのか。減るものではないのであろう」
「え……いや……」
ズボンの穴から顔を出している尻尾を手繰り寄せて、毛を撫でる。昨日水で濡らした布で拭いたから、べたつきは無かった。
「……うん、いいよ。アルなら」
本来尻尾は親しい人にもなかなか触らせないのだが、自分がそんなことをアルに要望したのだから仕方ない。ふわふわの毛に触る楽しみが待っていると思って我慢しよう。
意を決して背中を向けると、尻尾の先にアルの指先が触れるのが分かった。
「……っ……うぅ……くすぐったい……」
ぞわぞわと尻尾の先から耳の先端まで何とも言えない感覚が上ってくる。アルの手が尻尾を撫でるとびくっと身体が震えた。
「んっ……これ、やっぱだめ……っ」
と、アルの手が離れる。そしてそのまま真っ直ぐに下に向かう階段がある扉の方に歩いて行った。
「何をしている。早く入れ」
「い、いえっ、しかし……!」
アルが扉を開けて、少ししてスウードが顔を出した。なぜだが顔が真っ赤だ。
「お帰りスウード!」
笑顔で駆け寄り俺と目が合うと、混乱したようにアルと俺を交互に何度も見る。
「何を勘違いしているか知らぬが、まあ良い。木の実は採ってきたのだろうな」
「あっ、はい! ここに」
スウードは手に持っていた袋の口を開けて見せた。一年分はゆうにあるだろうたくさんの森の木の実が入っていた。
「ありがとう、助かった!」
早速一粒取って食べる。苦い味が口の中に広がった。
「いえ。陛下もロポ様も変わりないようで、僕も安堵致しました」
アルはスウードに着替えて来るように言って、上の階に上っていく。恐らく朝食を取るのだろう。俺はその後ろを追いかけて階段を駆け上がった。独りで食べるのは味気ないから。
「あっ! アル、尻尾は?」
「……誰も触ってよいとは言っていない」
「何それ、ずるい! 俺の尻尾触ったくせに!」
不意打ちで触ろうとしたけれど、さっとかわされてしまった。そもそも服を脱がさないことには触れないことに気付く。アルの尻尾さわさわへの道はなかなかに険しい道のりになりそうだ。
食事を終えると、手の上に居た鳥が飛んで俺の耳に止まった。どうやらそこで毛繕いをしているようだ。
「うう……爪と時々当たる羽根がくすぐったい……」
耳を動かして別のところに移動させたい衝動をぐっと我慢する。と、アルが指を俺の耳の上に持ってきて、小鳥をアルの指に跳び移らせた。アルの真っ白な指の上で、青い鳥が毛を整えている。視線はそのまま隣にいるアルの顔に移った。
長い睫毛に縁どられた金色の瞳と、緩やかな山をつくっている鼻、印象的な赤い唇、真っ白の直毛とその間から覗く耳、そして頭の上から生えた巨大な角――初めて見た時恐ろしいと思ったその姿に、見惚れた。こんなきれいな生き物がいるのだ、と。
アルの掌で啄んでいた小鳥も食事を終えたのか、やがて窓の外に飛び立っていった。アルは鳥達が羽ばたいていくのを、見えなくなるまで見詰めていた。
ふとアルのお尻の上の辺りの服が少し盛り上がっていることに気付いた。
「アル尻尾あるじゃん!」
手を伸ばそうとした瞬間、さっと正面を向き後ろに隠されてしまう。一瞬見たところ手のひらサイズくらいの小ささだった。もしかしたら、他の羊族のように、尻尾はふわふわしている可能性がある。
「ね、見せて! 触らせて!」
「何故だ」
「ちょっとくらいいいじゃん! 減るもんじゃないし!」
他の種族の尻尾がどんなものか気になるし、昨日俺の尻尾を「狸」みたいだとか言ったのを忘れていなかった。本当は不格好だから服の下に隠しているのではないかと疑っていた。
「……ならば、ロポから触らせるべきではないのか。減るものではないのであろう」
「え……いや……」
ズボンの穴から顔を出している尻尾を手繰り寄せて、毛を撫でる。昨日水で濡らした布で拭いたから、べたつきは無かった。
「……うん、いいよ。アルなら」
本来尻尾は親しい人にもなかなか触らせないのだが、自分がそんなことをアルに要望したのだから仕方ない。ふわふわの毛に触る楽しみが待っていると思って我慢しよう。
意を決して背中を向けると、尻尾の先にアルの指先が触れるのが分かった。
「……っ……うぅ……くすぐったい……」
ぞわぞわと尻尾の先から耳の先端まで何とも言えない感覚が上ってくる。アルの手が尻尾を撫でるとびくっと身体が震えた。
「んっ……これ、やっぱだめ……っ」
と、アルの手が離れる。そしてそのまま真っ直ぐに下に向かう階段がある扉の方に歩いて行った。
「何をしている。早く入れ」
「い、いえっ、しかし……!」
アルが扉を開けて、少ししてスウードが顔を出した。なぜだが顔が真っ赤だ。
「お帰りスウード!」
笑顔で駆け寄り俺と目が合うと、混乱したようにアルと俺を交互に何度も見る。
「何を勘違いしているか知らぬが、まあ良い。木の実は採ってきたのだろうな」
「あっ、はい! ここに」
スウードは手に持っていた袋の口を開けて見せた。一年分はゆうにあるだろうたくさんの森の木の実が入っていた。
「ありがとう、助かった!」
早速一粒取って食べる。苦い味が口の中に広がった。
「いえ。陛下もロポ様も変わりないようで、僕も安堵致しました」
アルはスウードに着替えて来るように言って、上の階に上っていく。恐らく朝食を取るのだろう。俺はその後ろを追いかけて階段を駆け上がった。独りで食べるのは味気ないから。
「あっ! アル、尻尾は?」
「……誰も触ってよいとは言っていない」
「何それ、ずるい! 俺の尻尾触ったくせに!」
不意打ちで触ろうとしたけれど、さっとかわされてしまった。そもそも服を脱がさないことには触れないことに気付く。アルの尻尾さわさわへの道はなかなかに険しい道のりになりそうだ。
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