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陽川花火編
第一話 始まり④
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自分にとって大半がそうだ。学校も、そこにある人間関係も、実家も、今住んでいるマンスリーマンションも、食事も、何もかもが「どうでもいい」ものであって、それ以上もそれ以下も無い。
両親については、きっと好ましいものであったはずだが、あの一件以来「どうでもいい」ものの一つになったような気がする。もう何にも興味が無くなった、と言った方が正しいのかもしれない。
「まだやってくのか?」
突然近くで声がして驚いて顔を上げる。少し離れた席に陽川花火が座っていた。
「勉強好きなんだな。俺は幼稚園でもうダメでさ」
いつからそこに居たのだろう。一応彼も何か読まなければと思ったのか、彼の座っているところには三国志の漫画が数冊置かれている。
学校司書の女性が戸締りを始めているのを見て、問題集を鞄に仕舞い、席を立った。
陽川花火が漫画を片付ける姿を横目に見、図書室を出る。昇降口で靴を履き替え足早に校門に向かった。が、そこで走ってきた陽川花火に追い付かれてしまった。
しかし、こうなったら言おうと思っていたことを伝えよう。そうしなければ、この面倒事が続くことになる。
「もう僕に関わるな」
「なんで?」
「……面倒事は沢山なんだ」
脳裏にちらつくのは、数か月前の出来事。これ以上何も問題を起こしたくはない。
「何が面倒なんだ?」
「君が邪魔だってことだよ。そうやって付き纏われると迷惑だ」
校門を出ても付いてくるので、道の脇に寄って足を止めた。
「俺のことが嫌いってこと?」
「……そうだよ」
僕は目を丸くしている陽川花火を見て視線を逸らした。嫌い、と言うほどでもないが、彼を遠ざけるには強い言葉が必要だ。ちらりと黙っている彼に視線を戻すと、「へえ」と言って笑った。
「別に嫌いでもいいけどな。気にしないし」
開いた口が塞がらない、というのはこういうことなのだろうと思う。「行こうぜ」と陽川花火が歩き出す。僕はその後ろを慌てて付いていく。勿論、抗議するためだ。
「僕の意思を無視するのか、君は」
「まあ、そうなるな? 俺がお前に一方的に話し掛けてるだけだから」
それならば、無視しても良いということになる。僕が彼の言葉に耳を傾けることも、答えることもしなけばいいだけの話なのだ。
――初めからそうしておけば良かったのに、何を今更。
「……僕に関わっても、何の得も無いのに?」
陽川花火は足を止め、振り返って、
「言っただろ、お前がどういう時笑うのか知りたいって」
と、夕陽を背に笑う。彼の表情は影が差してよく見えないのだけれど。
昨日もそう、言っていた。その言葉が、どうして僕の心に沁みるのか分からない。僕が、かつて好きだった人の気持ちを知ることが出来なかったせいなのだろうか。
「それにお前、自分に得かどうかで人と関わるかどうか決めるのか? そういうの、聞かされる方は良い気しねえから、あんまり嫌いな人間以外に言うなよ」
誰かに嫌われるように、などと意識的に考えたことは無かった。今僕は彼を遠ざけるために、嫌われるために言葉を尽くしているのだと気付く。意識しないようにしながら、意識してしまっている。無視をすることさえ、意識せずにはできない。他の不良達とは、明らかに異なった心理状態だ。
「ほら、帰るぞ」
君と帰るのは嫌だ。一緒に歩いているのを他の生徒に見られたくない。「そう」じゃない君が、ホモだと罵られる。僕のせいで迷惑が掛かる。そんなことをいちいち考えるのも煩わしい。だから僕は――独りでいたい。
僕は彼が嫌いではないのだ。だからと言って特別に好きなわけでもない――と思う。好ましいところを探すのと同じように嫌いなところを探すのも難しい。それはきっと、僕が彼をよく知らないからだ。だから、彼を拒絶するほどの理由が無かった。
両親については、きっと好ましいものであったはずだが、あの一件以来「どうでもいい」ものの一つになったような気がする。もう何にも興味が無くなった、と言った方が正しいのかもしれない。
「まだやってくのか?」
突然近くで声がして驚いて顔を上げる。少し離れた席に陽川花火が座っていた。
「勉強好きなんだな。俺は幼稚園でもうダメでさ」
いつからそこに居たのだろう。一応彼も何か読まなければと思ったのか、彼の座っているところには三国志の漫画が数冊置かれている。
学校司書の女性が戸締りを始めているのを見て、問題集を鞄に仕舞い、席を立った。
陽川花火が漫画を片付ける姿を横目に見、図書室を出る。昇降口で靴を履き替え足早に校門に向かった。が、そこで走ってきた陽川花火に追い付かれてしまった。
しかし、こうなったら言おうと思っていたことを伝えよう。そうしなければ、この面倒事が続くことになる。
「もう僕に関わるな」
「なんで?」
「……面倒事は沢山なんだ」
脳裏にちらつくのは、数か月前の出来事。これ以上何も問題を起こしたくはない。
「何が面倒なんだ?」
「君が邪魔だってことだよ。そうやって付き纏われると迷惑だ」
校門を出ても付いてくるので、道の脇に寄って足を止めた。
「俺のことが嫌いってこと?」
「……そうだよ」
僕は目を丸くしている陽川花火を見て視線を逸らした。嫌い、と言うほどでもないが、彼を遠ざけるには強い言葉が必要だ。ちらりと黙っている彼に視線を戻すと、「へえ」と言って笑った。
「別に嫌いでもいいけどな。気にしないし」
開いた口が塞がらない、というのはこういうことなのだろうと思う。「行こうぜ」と陽川花火が歩き出す。僕はその後ろを慌てて付いていく。勿論、抗議するためだ。
「僕の意思を無視するのか、君は」
「まあ、そうなるな? 俺がお前に一方的に話し掛けてるだけだから」
それならば、無視しても良いということになる。僕が彼の言葉に耳を傾けることも、答えることもしなけばいいだけの話なのだ。
――初めからそうしておけば良かったのに、何を今更。
「……僕に関わっても、何の得も無いのに?」
陽川花火は足を止め、振り返って、
「言っただろ、お前がどういう時笑うのか知りたいって」
と、夕陽を背に笑う。彼の表情は影が差してよく見えないのだけれど。
昨日もそう、言っていた。その言葉が、どうして僕の心に沁みるのか分からない。僕が、かつて好きだった人の気持ちを知ることが出来なかったせいなのだろうか。
「それにお前、自分に得かどうかで人と関わるかどうか決めるのか? そういうの、聞かされる方は良い気しねえから、あんまり嫌いな人間以外に言うなよ」
誰かに嫌われるように、などと意識的に考えたことは無かった。今僕は彼を遠ざけるために、嫌われるために言葉を尽くしているのだと気付く。意識しないようにしながら、意識してしまっている。無視をすることさえ、意識せずにはできない。他の不良達とは、明らかに異なった心理状態だ。
「ほら、帰るぞ」
君と帰るのは嫌だ。一緒に歩いているのを他の生徒に見られたくない。「そう」じゃない君が、ホモだと罵られる。僕のせいで迷惑が掛かる。そんなことをいちいち考えるのも煩わしい。だから僕は――独りでいたい。
僕は彼が嫌いではないのだ。だからと言って特別に好きなわけでもない――と思う。好ましいところを探すのと同じように嫌いなところを探すのも難しい。それはきっと、僕が彼をよく知らないからだ。だから、彼を拒絶するほどの理由が無かった。
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