オメガの城

藤間留彦

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第三章 反乱因子

第二十四話

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「でも、実際どういう状態なのか僕にもよく分からない……君が本当にΩなのかどうか」

 本来Ωとβなんて間違われることなどないはずだ。俺がもし生まれた瞬間にΩだったとしたら、思春期の頃に発情期が始まっていただろう。
 今の今まで何も起こらずに、また誰にも気付かれずに過ごせていた――ということは、あの入隊式で起こったことと関係があるとしか思えない。

「ユンはあの時、女王オフィーリアの歌を聴いたか?」
 今ようやく冷静になって、あの時のことを思い出し、引っ掛かることがあった。

「ああ、聴いたよ。入隊式で歌うだなんて、聞かされていなかったから驚いた」
「あの歌声……変じゃなかったか?」

 ユンは「変?」と首を傾げる。俺がまともに聴いたのは、一小節くらいだけ。その後は身体に変化が起こってそれどころじゃなかったし、乱痴気騒ぎが始まってから壇上を見た時には総帥と女王の姿は無かったように思う。
 あの事態を収めることもなく立ち去ったのだ。まるで、全てを知っていたかのように――。

「……あれは、人の声じゃなかった」

 俺の言葉に驚いたようだったが、思い出すように顎に手を当てる。

「いや、正しくは人の声に何か……電子音のようなものが重ねてあった気がする」

 どんな声だったかの記憶は無いが、その声を思い出すと違和感を覚えた。その声に混ざった音が耳に入った瞬間に、身体に異変が起こったのだ。恐らく、あの場にいたΩも同様に。

「確かに……今冷静になって考えると、Ωが一斉に発情するなんて聞いたこともないし、その現象が起こったのは女王が歌い出したタイミングだ。何か発情期を誘発する音が、声に含まれていたと考えるのが妥当だろうね」

 こんな時にユンが賢いやつで良かったと思う。あの混乱した状況の中でも、何が起こっているのかを把握しようと努めていた証拠だ。
 そして発情期のΩを前にして、俺を救うという選択をできたのも、普段から冷静に物事を見る人間だったからだろう。

「ああ、あれは城が仕組んだことだろうな。毎年入隊式であんなことをしてきたのだとしたら……目的はなんだと思う?」

 新兵を発情したΩと乱交させるなどどうかしているとしか思えないが、しかし城が面白半分であんなことをするとは思えない。物事を整理するには、ユンとの対話が一番早いから、意見を求めてしまった。

「αは模範的な人間になることもだが、子を作ることを何よりも優先するように教育される。その中でも優秀な人間は、より強く求められるんだ」
「じゃあ士官ともなる人材なら、子供を作る能力が高い人間を選り分けて優先的にΩと性交させたいと考える、か?」
「城ならやりかねない。Ωとの性行為を高等教育のカリキュラムに盛り込むような人間達だからね。あの老人と言って差し支えない総帥ですら、未だに子供を作っている。自らの優秀な遺伝子を遺すことを、αにとっての誇りだとでも思っているのだろう」

 不思議だ。自分達は他の人間より優秀だ、子供を作れ、人類繁栄のために優秀な遺伝子を遺せ、と他のαと同じようにユンも教育されてきたはずだ。
 それなのに、彼は自分自身を過大評価せず、傲慢な振る舞いをしない。そして、自分の受けてきた教育の不自然さを感じ取り、城側の人間であるにも関わらず、城への不信感を抱いてすらいる。
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