オメガの城

藤間留彦

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第一章 第一の秘密

第一話

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 ──俺には、二つ「秘密」がある。

 終業後、誰も居ない工場でベルトコンベアの点検をしていると、まだ残っていたのか、太って頭皮が薄い眼鏡の工場長が駆け寄ってきた。俺が工場の鍵を任されているので、居なくてもいいし、正直就業時間にも居なくてもなんの問題もない男だ。

 俺は機械の部品や組込機器、電子装置などを作る工場の機械整備士として働いている。
 しかし、この工場には機械整備士が俺一人しか居ないから、工場の稼働が終わる夜九時から明け方にかけて全ての機械の点検をしなければならないため、とても忙しいのだ。

「エイク君、エイク君! ちょっといいかな!」
「ああ、はい! なんでしょう?」

 だから、途中で仕事を中断させられることほど苛立つことはない。

 だが、相手は工場長。城の工場統括管理責任者に、変な報告をされてしまえば、念願だった機械整備の仕事から、最悪の場合養豚場の排泄物処理係に回されてしまう。

 顔が引き攣りそうになるのを必死に耐えながら精一杯の笑顔で、工場長を振り返る。

「あのねぇ、今日の作業でねぇ、城に納品する機械が組み上がったんだけどぉ……見たい?」

 ちょっと走っただけで眼鏡を曇らせ、はあはあと荒い呼吸を繰り返している。その上、俺を見詰めて明らかに下心がある笑みを浮かべているのだ。五十オーバーで二十そこそこの男に下心ありありで近付いてくるって、はっきり言って思うと気持ち悪い。いや、生理的に無理。

「本当ですか! 見たいです!」

 それでも、本能的な拒絶反応を乗り越えるくらいには俺はメカオタクだった。機械のチェックシートをその辺に放り出し、自前の工具を手にする。

「うふふ、そう言うと思ったよぉ! 向こうにあるから行こうか!」

 工場長に汗をかいた掌でがっちりと手を握られて引っ張られる。ぬるぬるとした感触が気持ち悪すぎるが、しかしいつでも笑顔で、たまに工場長に色目を使っておけば、こうやって度々特別扱いを受けられる。しばしの辛抱だ。

 工場の出荷用の倉庫の床に、ビニールシートに覆われたものが置かれていた。工場長がそれを捲ると、大型の機器が目の前に現れる。

「す、凄いです! これ、何に使う部品なんですか?」

 隙を見て、さっと工場長の手を振り払い機械に飛び付く。

「さあねぇ。城から来た設計書通りに組んだんだけど、かなり大きな機械を同時に多数動かせる何か、としか……あ、最近城の機械も老朽化してるみたいで、取り替えのために各部品工場に発注がたくさん来てるらしいよぉ?」

 パッと見た限りだと、複数の制御装置が組み込まれていて、今まで見た組込機器の中で一番複雑で巨大だ。装置一つ一つを調べれば、何の機械に取り付けるものか分かるかもしれないが、それには──

「……一部分解して拝見してもいいでしょうか?」
「えー! ダメだよ! 明日の朝には納品しなきゃなんだから!」
「そこをなんとか……! 必ず朝には元に戻しておきますし、残りの機械の点検もしっかりしますので!」

 工場長に必死に追い縋って懇願すると、「どうしようかなぁ」と言いながら、工場長が俺に身を寄せてきた。かと思うと、俺の尻をいやらしい手つきで撫で回し始めた。
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