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第3話 罪と罰⑤
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初めての犯行は誰にも気付かれなかった。身寄りが無かったのか、それどころではないのか、墓参りにくる人が一人もいなかったためだ。訪れた人も次の墓穴を掘るのに必死で、気付いていなかった。
二度目の犯行はそれからわずか一週間後だった。先の肉を食らってから四日ほどで身体がまた痛みだして、一週間で我慢ができないほどになった。
また村人が寝静まった頃に墓地に向かうと、ちょうど新しい墓があった。昨日今日掘られたばかりのようで、簡単に棺を掘り起こせた。
蓋を開けると俺と同じか少し小さいくらいの少女がほとんど生前と変わらない様子で横たわっていた。原形が残っている死体は初めてで罪悪感が増し、躊躇したが、自分の身体がまた崩れていくのを感じて、目を閉じて頭から食らいついた。
新鮮な肉だったからか、子供だったからか、柔らかかった。一週間前の死肉よりも食べるのに苦労せずに済み、身体の回復も早かった。
しかし、その罪は翌日には知られてしまっていたのだろう。三度目、夜中に墓を訪れると墓守が居て、姿を見られてしまったのだ。
村人は松明と鍬や鎌、フォークなどの農具を持ち、俺を殺そうと追い立てた。命からがら身体が崩れ落ちていくのも痛みも忘れて逃げ出し、山を越えたところで力尽きて眠った。
夢の中で、二度目に食べた少女が光の無い目で俺を見詰めていた。
「ねえ、君、大丈夫?」
声が聞こえて目が覚めた。飛び起きると、この世のものとは思えない美しい少年が木の根っこで眠っていた俺を心配そうに覗き込んでいた。きっと彼は天使で、俺は死んだのだ、とそう思った。
少年は俺の姿を恐れることなく話し掛けた。それだけではない。ずっと人々が小さく見えていたのに、少年を見上げていることに気付いた。
「俺、今どんな姿?」
「君は……うん、事情は聞かないけど、服は着た方がいいよ」
少年は羽織っていた上着を脱いで「少し待っていて」とどこかへ走っていった。身体は相変わらず痛かったので、動けそうになかった。
しかし、俺は自分の手を見て驚いた。さっきまでは真っ黒な恐ろしい手だったのに、今は青白いが、普通の手だった。脚も二本だし、顔も身体も元通り――違う。
脚の間にあった陰茎が無かった。手足も小さくなっているし、髪も長く、波打つブロンドだ。
思い出したのは、十日前に食べた少女の姿。もしかして、俺は今少女になっている? どうして姿が変わった?
理由は解らなかった。ただ、目覚める前少女の夢を見たことを思い出した。それが関係あるのだろうか。
少しして少年が戻ってきて、俺にシャツとズボンを着せてくれた。もう着られなくなったものだと言っていたが、少女の身体にはそれでもぶかぶかだったが。
「酷い目に遭ったね。これでも食べて」
酷い目、とはどんなことだろう。少女が裸で山に捨てられたと思ったのだろうか。今目の前にいるのは、山向こうの村からやってきた人の肉を食らう怪物なのに。少年は親切に服だけでなくパンと水をくれた。
「あんたはここで何してる?」
「僕はね、この先の山小屋で父さんと暮らしているんだ。父さんは木こりで、僕はその手伝い」
二度目の犯行はそれからわずか一週間後だった。先の肉を食らってから四日ほどで身体がまた痛みだして、一週間で我慢ができないほどになった。
また村人が寝静まった頃に墓地に向かうと、ちょうど新しい墓があった。昨日今日掘られたばかりのようで、簡単に棺を掘り起こせた。
蓋を開けると俺と同じか少し小さいくらいの少女がほとんど生前と変わらない様子で横たわっていた。原形が残っている死体は初めてで罪悪感が増し、躊躇したが、自分の身体がまた崩れていくのを感じて、目を閉じて頭から食らいついた。
新鮮な肉だったからか、子供だったからか、柔らかかった。一週間前の死肉よりも食べるのに苦労せずに済み、身体の回復も早かった。
しかし、その罪は翌日には知られてしまっていたのだろう。三度目、夜中に墓を訪れると墓守が居て、姿を見られてしまったのだ。
村人は松明と鍬や鎌、フォークなどの農具を持ち、俺を殺そうと追い立てた。命からがら身体が崩れ落ちていくのも痛みも忘れて逃げ出し、山を越えたところで力尽きて眠った。
夢の中で、二度目に食べた少女が光の無い目で俺を見詰めていた。
「ねえ、君、大丈夫?」
声が聞こえて目が覚めた。飛び起きると、この世のものとは思えない美しい少年が木の根っこで眠っていた俺を心配そうに覗き込んでいた。きっと彼は天使で、俺は死んだのだ、とそう思った。
少年は俺の姿を恐れることなく話し掛けた。それだけではない。ずっと人々が小さく見えていたのに、少年を見上げていることに気付いた。
「俺、今どんな姿?」
「君は……うん、事情は聞かないけど、服は着た方がいいよ」
少年は羽織っていた上着を脱いで「少し待っていて」とどこかへ走っていった。身体は相変わらず痛かったので、動けそうになかった。
しかし、俺は自分の手を見て驚いた。さっきまでは真っ黒な恐ろしい手だったのに、今は青白いが、普通の手だった。脚も二本だし、顔も身体も元通り――違う。
脚の間にあった陰茎が無かった。手足も小さくなっているし、髪も長く、波打つブロンドだ。
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理由は解らなかった。ただ、目覚める前少女の夢を見たことを思い出した。それが関係あるのだろうか。
少しして少年が戻ってきて、俺にシャツとズボンを着せてくれた。もう着られなくなったものだと言っていたが、少女の身体にはそれでもぶかぶかだったが。
「酷い目に遭ったね。これでも食べて」
酷い目、とはどんなことだろう。少女が裸で山に捨てられたと思ったのだろうか。今目の前にいるのは、山向こうの村からやってきた人の肉を食らう怪物なのに。少年は親切に服だけでなくパンと水をくれた。
「あんたはここで何してる?」
「僕はね、この先の山小屋で父さんと暮らしているんだ。父さんは木こりで、僕はその手伝い」
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