美しい怪物

藤間留彦

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第2話 運命の出逢い16

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「確かにこの方の仰る報復には同意できません。だが、この者に責任が無いとは思いません。当然咎を受けるべきです」

 と、静かに座っていた兵士の男の一人が、僕と男の間を隔てるように立ち塞がる。

「お前は即刻この城――いや、オイレンベルク卿の領内から出て行ってもらおう。閣下が城にお戻りになったとしても、そもそもお前は逃亡を選択したのだから、ここに戻っていい理由は無い」
「彼にまた浮浪の身に戻れと仰るのですか? それは余りに酷では……」

 と、また別の男が立ち上がる。恐らく侍従長だろうか。身なりが他の者に比べていい。

「いいえ、元の暮らしに戻るというだけです。命を奪われるより良いでしょう」

 この者は知っているのだろうか。彼がそもそも領民ではないのだということを。そしてヴェールマン伯爵との火種になり得るということを。知っているなら、「ミロ」に領内に留まって欲しくないという気持ちが働いても可笑しくはない。

 「ミロ」は侍従長の指示で外に出され、荷車に載せられてそのまま何処かへ連れて行かれてしまった。僕の予想通りなら、昨日通ったヴェールマン伯爵の領地に続く街道だろう。

 残された我々に敵意が向けられるのも時間の問題に思えた。彼が立ち去った今、最早ここには用はない。退散するに限る。

「捜索に協力したいのですが、これ以上自領を空けておくわけにはいきません。申し訳ありませんが、私達は一旦帰らせて頂きます。必要とあれば、捜索のため兵を送ります」

 執事長は「ありがとうございます」とは言ったものの他領の兵を受け入れるつもりは無いだろう。

 僕にその気がさらさらないとしても、向こうはそうは思わない。城主不在のこの機に攻め入らないとも限らない。だから、これ以上捜索に関わせることはしないと分かっていながら、ただ相手に真摯な態度を示すためだけに言っただけだった。

「申し訳ないのですが、昨夜と同じ街道を森の辺りまでで構いませんので、通って頂いても良いでしょうか? オイレンベルク卿が森を抜けた可能性もあるかと思うのです。何か手掛かりが見つかるやもしれません」
「承知致しました」

 御者に頼み、帰路を変更する。本来オイレンベルク卿の領から北東に抜ける街道が近道なのだが、北西の街道から森を迂回して北東の街道に合流する道を取ることになる。
 馬車が走り始めると、平静を保つのが難しくなった。まもなく彼が、僕のもとに来ることになると思うと。

 途中自警団の捜索隊の一部とすれ違った。様子を聞いたが、手掛かりも掴めないらしい。一応彼にはある程度の偽装工作を頼んでおいたのだけど、それすらまだ見つからないとなると長期戦になってしまいそうだ。予想が外れたが、まあ分かりやす過ぎても不自然だし、くまなく探せばそのうち見つかるだろう。

 森を横目に通り過ぎる。オストゼンケ領、もしくはヴェールマン伯爵の領へ続く街道に入って、しばらくして馬車が止まる。不自然に道を逸れたところに轍ができており、御者が「人が居ます」と木の陰に蹲る人影を見付けて走っていった。恐らく男爵ではないかと思ったのだろう。僕も馬車から降りて木の側へ駆け寄る。
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