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第2話 運命の出逢い11
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僕は両手を広げて歓喜の声を上げた。これが――きっと愛なんだ。生まれて此の方縁のなかったものだから、確証はないけれど。少なくともこの胸の高鳴りは、恋をしている者のものだ。
「……なん、で……俺が、恐ろしくないのか……?」
「恐ろしいなんてあるわけない! 僕は君が愛おしくて仕方ないんだ! こんな気持ち初めてだ!」
その美しい生き物に、僕は衝動的に抱き着いた。彼の涎が肩に着き焦げた匂いがする中、僕は恍惚感に浸った。
「……食べ、ない」
「え……?」
驚いて身体を離す。と、彼の身体の腐蝕が止まっていることに気付いた。人一人を食べた後は、しばらくは食べずに済むということなのだろう。
「それなら次の時が来たら食べてくれる?」
少しの沈黙の後、頭を横に振る。
「どうして? 僕不味くない方だと思うけどなぁ」
「……あんたを……食べたいと思わない」
少しの間でも対話をした人間だから彼なりに情が湧いたということだろうか。そうだとするなら、オイレンベルク卿も同じだったはずだが、最後は拒絶した彼を無理矢理犯そうとしたから、食べるという選択をしたのだ。
「そっか……残念。でも、それならせめて君が食べてもいいと思う日まで傍に居たいのだけど」
微笑み掛けると、赤い瞳が真っ直ぐに僕を見詰めたまま沈黙が続く。驚いているのだろうか。拒絶もしないなら勝手にいいように解釈してしまうけど。
「そのためには色々考えないとね。君が食べた人間はこの国の一領主だ。殺されたことが分かれば、何が何でも犯人を探し出して晒し首にするだろう。それが例え、人間じゃなくても」
一歩後退る。殺されるかもしれない恐怖に震えている。
「大丈夫、誰にも殺させやしないさ。僕が君を守るよ。命を懸けて」
とは言ってみたものの状況は悪い。オイレンベルク卿の死をできるだけ知られないようにしたいが、今オイレンベルク卿が戻らなければ、「ミロ」の関与を間違いなく疑われる。そうなれば、「ミロ」を追い掛けていくうちに様々な「人間の消失」事件も浮き彫りになって、「怪物」に行き着くのは時間の問題だ。
せめて、オイレンベルク卿の死を偽装できれば――。
「ねえ、君は誰の姿にもなれるの? さっきの少年以外にも……例えばオイレンベルク卿、とか」
「……あの人なら、多分……俺が食べた、記憶に残っている人間の姿には、なれる、から……」
「そうか、それは朗報だ。どうにかこの困難な状況を乗り越えられそうだよ」
辺りを見回すと幸いにも脱ぎ捨てられたオイレンベルク卿の服と少年の服が残されていた。
「では、君には日が変わるくらいまでオイレンベルク卿の姿になってもらう。その後は――」
僕は彼に思い付いた偽装工作とその計画を手早く伝えた。早く馬車に戻らなければ、いくら何でも心配した御者か従者が様子を見に来るだろう。
その巨体をどうしたらそうなるのか、彼は小さく身体を折り畳むように縮ませ、人間の皮で包むようにしてその中に納まった。目の前には全裸のオイレンベルク卿が立っている。目に光が無いのは、もう死んだ人間だからなのか。
「……なん、で……俺が、恐ろしくないのか……?」
「恐ろしいなんてあるわけない! 僕は君が愛おしくて仕方ないんだ! こんな気持ち初めてだ!」
その美しい生き物に、僕は衝動的に抱き着いた。彼の涎が肩に着き焦げた匂いがする中、僕は恍惚感に浸った。
「……食べ、ない」
「え……?」
驚いて身体を離す。と、彼の身体の腐蝕が止まっていることに気付いた。人一人を食べた後は、しばらくは食べずに済むということなのだろう。
「それなら次の時が来たら食べてくれる?」
少しの沈黙の後、頭を横に振る。
「どうして? 僕不味くない方だと思うけどなぁ」
「……あんたを……食べたいと思わない」
少しの間でも対話をした人間だから彼なりに情が湧いたということだろうか。そうだとするなら、オイレンベルク卿も同じだったはずだが、最後は拒絶した彼を無理矢理犯そうとしたから、食べるという選択をしたのだ。
「そっか……残念。でも、それならせめて君が食べてもいいと思う日まで傍に居たいのだけど」
微笑み掛けると、赤い瞳が真っ直ぐに僕を見詰めたまま沈黙が続く。驚いているのだろうか。拒絶もしないなら勝手にいいように解釈してしまうけど。
「そのためには色々考えないとね。君が食べた人間はこの国の一領主だ。殺されたことが分かれば、何が何でも犯人を探し出して晒し首にするだろう。それが例え、人間じゃなくても」
一歩後退る。殺されるかもしれない恐怖に震えている。
「大丈夫、誰にも殺させやしないさ。僕が君を守るよ。命を懸けて」
とは言ってみたものの状況は悪い。オイレンベルク卿の死をできるだけ知られないようにしたいが、今オイレンベルク卿が戻らなければ、「ミロ」の関与を間違いなく疑われる。そうなれば、「ミロ」を追い掛けていくうちに様々な「人間の消失」事件も浮き彫りになって、「怪物」に行き着くのは時間の問題だ。
せめて、オイレンベルク卿の死を偽装できれば――。
「ねえ、君は誰の姿にもなれるの? さっきの少年以外にも……例えばオイレンベルク卿、とか」
「……あの人なら、多分……俺が食べた、記憶に残っている人間の姿には、なれる、から……」
「そうか、それは朗報だ。どうにかこの困難な状況を乗り越えられそうだよ」
辺りを見回すと幸いにも脱ぎ捨てられたオイレンベルク卿の服と少年の服が残されていた。
「では、君には日が変わるくらいまでオイレンベルク卿の姿になってもらう。その後は――」
僕は彼に思い付いた偽装工作とその計画を手早く伝えた。早く馬車に戻らなければ、いくら何でも心配した御者か従者が様子を見に来るだろう。
その巨体をどうしたらそうなるのか、彼は小さく身体を折り畳むように縮ませ、人間の皮で包むようにしてその中に納まった。目の前には全裸のオイレンベルク卿が立っている。目に光が無いのは、もう死んだ人間だからなのか。
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