元カレに囲まれて

第１章 新生活

新生活（１７）

　車の中が、だいぶ暖かくなってきた。先生は運転席から身を乗り出して、抱きしめた私の髪を撫でている。どんな顔をしてるのか見たくて、顔を上げた。強い瞳の輝き。学校の先生の仮面の下に押し込めていた、情熱的な若い男性。この先生も好き。もっと、いろんな顔を知りたい。私のことも、知って――。

　じゃあまずは唇からな、と返事をするかのように、甘いキスが始まった。
　ファーストキス。嬉しくて幸せで、勝手に滲んでくる涙を、温かい指先が拭う。触れるだけのキス、唇に、頬に、目尻に。頭も体も心も溶けて、先生に全部吸い取られてしまいそう。

「衣純……」
　下の名前で呼ぶ声も、私をとろとろにしていく。
「先生……」
「俺は今、お前の先生じゃない……」
「じゃあ……恭一郎さん」
　名前を呼んだことが恥ずかしくて、胸に顔を埋めた。