元カレに囲まれて

花宮守

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第1章 新生活

新生活(4)

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「はーっ……」
 懐かしい部屋でベッドに寝転ぶと、頭も心臓も落ち着いてきた。
「もしかして今も……」
 私、先生のことが好き? ほかの人とうまくいかなかったのは、引きずってたから?
「わかんないよ……」
 その時、メッセージが届いた音がした。
「榊さん……」
『お疲れ様です。いよいよだね。緊張しすぎず、香原さんらしい笑顔で会えるのを楽しみにしています』
 とくん、とくん、と。明るい音がする。過去のときめきじゃなくて、未来の音。優しくて、あったかい人。別に私に特別優しいわけじゃないと思うけど、明日から毎日会えるのが嬉しい。
「好き、かも」
 先生に攫われそうな心を避難させるかのように、私は意識して榊さんで頭の中をいっぱいにしようとしていた。
「衣純ー、メシできたぞー」
 階段の下から、先生が呼んだ。駄目、そっちにはときめいちゃ駄目なんだから……。

「それで? さっきの、全然説明になってなかったんだけど」
 いただきます、と手を合わせてオムライスを味わいながら、向かい側に座った先生にまじめに聞いた。状況が分からないのは落ち着かない。
「先生とお母さんの関係っていうか、そういう関係じゃないのは分かった。なら、何でそんな、自分を縛り付けるようなことするの? 先生にとって何かメリットあるわけ?」
 自分の分にはまだ手をつけず、頬杖をついて私を見ている。そんなところも昔と同じで、ますます落ち着かない。
「メリットねぇ。こうやって、元気なかわいい女の子と食事ができる」
「ふざけないで」
「じゃあ……」
「次ごまかしたら、もう口きかないんだから」
 付き合っていた頃のような、遠慮のない口調になってしまう。昔は彼氏、今は義父。どっちが近いんだろう。お、と軽く目を見開いてクスッと笑う先生は、どっちでも同じみたい。私と七歳違いだから、今年で三十歳。生徒なんてみんなすごく子供に見えるんだろうな。いただきます、と言って食べ始める姿。左利きで、私を抱き寄せる時も左手で……って、何考えてんのよっ。
「縛り付ける、か」
 ぼそっと呟いた。
「だってそうじゃない……。正式にっていうか法律上の結婚、しちゃったんでしょ? この家、古いし、場所は駅近だけど売ってもそんなにお金にならないだろうし。騙して財産を掠め取ろうなんて、あのお母さん相手に、まず考えないだろうし」
「相変わらずお前は……刑事ものばっかり観てるだろ。本も」
「いーじゃない、ドラマが毎シーズン、刑事ものばっかりなんだもん。自然にそうなるでしょ。本は、最近は少しはミステリーじゃないのも読んでるんだから」
「そうか。おすすめの新作ミステリーを教えてやろうと思ったんだけどな。興味ないか」
「え、何? どんなの?」
「ハハッ、食いついてきた」
 釣られて私も笑ってしまう。取り繕わなくていい関係。元カレだし義父だし。何を言っても大丈夫な人って、滅多にいない。
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