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第4章 元カレとお世継ぎ問題
第16話
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柔らかい中にも、凛と響くものを持った声。アリシア様の登場に、みんなはまた大騒ぎだ。さらにその後ろから登場したのは――。
「アントス様!」
「南の王!」
十五年間、北半球を離れていた人の姿に、どよめきが広がっていく。アントス様は、僕の横へ来て肩を抱いた。
「レオのおかげでね。それに、長年僕を支えてくれたアリシアと……盟友ラトゥリオのおかげだ」
集まった人の中でも、大人はみんな、あの悲恋を知っている。それぞれ伴侶を得て、ようやく並び立つことができた。アントス様の言葉は、二人の切ない日々が終わりを告げたことを表していた。
「春には僕たちの次男のイレミオが、ラトゥリオとレオの養子になる。やんちゃだけどよろしく頼むよ」
「アストゥラ国はこの先も安泰です。どうかこれからも、私たちに力を貸してください」
アリシア様の言葉を合図に、四人で頭を下げた。恋の悲しみは過去のものとなり、未来を繋ぐ力も既に芽吹いている。国は、そこに住む人々で成り立っている。彼らを安心させるのが王家の務め。南の統治者夫妻は、僕にそれを教えてくれているんだ。大歓声が沸き起こった。
そろって顔を上げると、シルバーが「まだ?」と僕を見つめていた。
「レオ。はい、これ」
アリシア様は、ゾイさんから手渡された鞄を僕の肩にかけた。斜めがけで、けっこうずっしりくる。
「お弁当とお水は、二人で分けてね。日程と地図はこれよ」
「え?」
「何だこれは……どういうことだ」
「新婚旅行だよ。君たちは話し合いが足りなすぎるからって、アリシアが考えたんだ。手配も全部してあるから、君たちはこの子に乗っていくだけでいいんだよ。さあ、レオ。手を貸してあげよう」
流れるように、僕はアントス様に手を取られ、バルコニーの手すりを越えてシルバーの背中へ。とりあえず、首にしがみついた。
「お前たち……」
「ほら、君も乗って。後は任せるって手紙で頼んできたの、誰だっけ? 二週間くらいなら代わってあげるからさ」
「二週間だと!?」
声を上げた時にはもう、彼も銀の毛並みにまたがっている。僕を後ろから抱き、手すりの向こうの人たちに抗議した。それを見てフォローしたのは、下に集まった人たちだ。
「陛下、たまには休養なさってください」
「そうですよ、長いことお一人で頑張ってこられたんですから」
みんなの労りに、王様は頷いていいものかと躊躇っている。
「僕も同感です、ラトゥリオ様」
「レオ」
「一緒に行って、僕にこの世界のことをもっと教えてください。それに僕、あなたと空を飛んでみたかったんです」
「かわいいことを言う」
シルバーがいなないた。「もう行くからね!」と宣言したんだ。重なったのは、イレミオのかわいらしい声。
「ぼくもいくー」
「レオやお兄様とは、あなたはこの先ずーっと遊べるのよ。今は二人で行かせてあげましょう。ね?」
「はぁい」
シルバーはバルコニーを離れ、駆け始めている。
「イレミオ、ごめんね。アリシア様、アントス様、みんな、行ってきます!」
「では……頼む」
「気を付けて!」
アントス様の声と同時に、高度が上がった。お城の上をひとまわりして、最初の目的地へ進路を取る。優しく温かい人たちに見送られ、世界を越えて出会った僕たちの、新しい人生が始まった。
「アントス様!」
「南の王!」
十五年間、北半球を離れていた人の姿に、どよめきが広がっていく。アントス様は、僕の横へ来て肩を抱いた。
「レオのおかげでね。それに、長年僕を支えてくれたアリシアと……盟友ラトゥリオのおかげだ」
集まった人の中でも、大人はみんな、あの悲恋を知っている。それぞれ伴侶を得て、ようやく並び立つことができた。アントス様の言葉は、二人の切ない日々が終わりを告げたことを表していた。
「春には僕たちの次男のイレミオが、ラトゥリオとレオの養子になる。やんちゃだけどよろしく頼むよ」
「アストゥラ国はこの先も安泰です。どうかこれからも、私たちに力を貸してください」
アリシア様の言葉を合図に、四人で頭を下げた。恋の悲しみは過去のものとなり、未来を繋ぐ力も既に芽吹いている。国は、そこに住む人々で成り立っている。彼らを安心させるのが王家の務め。南の統治者夫妻は、僕にそれを教えてくれているんだ。大歓声が沸き起こった。
そろって顔を上げると、シルバーが「まだ?」と僕を見つめていた。
「レオ。はい、これ」
アリシア様は、ゾイさんから手渡された鞄を僕の肩にかけた。斜めがけで、けっこうずっしりくる。
「お弁当とお水は、二人で分けてね。日程と地図はこれよ」
「え?」
「何だこれは……どういうことだ」
「新婚旅行だよ。君たちは話し合いが足りなすぎるからって、アリシアが考えたんだ。手配も全部してあるから、君たちはこの子に乗っていくだけでいいんだよ。さあ、レオ。手を貸してあげよう」
流れるように、僕はアントス様に手を取られ、バルコニーの手すりを越えてシルバーの背中へ。とりあえず、首にしがみついた。
「お前たち……」
「ほら、君も乗って。後は任せるって手紙で頼んできたの、誰だっけ? 二週間くらいなら代わってあげるからさ」
「二週間だと!?」
声を上げた時にはもう、彼も銀の毛並みにまたがっている。僕を後ろから抱き、手すりの向こうの人たちに抗議した。それを見てフォローしたのは、下に集まった人たちだ。
「陛下、たまには休養なさってください」
「そうですよ、長いことお一人で頑張ってこられたんですから」
みんなの労りに、王様は頷いていいものかと躊躇っている。
「僕も同感です、ラトゥリオ様」
「レオ」
「一緒に行って、僕にこの世界のことをもっと教えてください。それに僕、あなたと空を飛んでみたかったんです」
「かわいいことを言う」
シルバーがいなないた。「もう行くからね!」と宣言したんだ。重なったのは、イレミオのかわいらしい声。
「ぼくもいくー」
「レオやお兄様とは、あなたはこの先ずーっと遊べるのよ。今は二人で行かせてあげましょう。ね?」
「はぁい」
シルバーはバルコニーを離れ、駆け始めている。
「イレミオ、ごめんね。アリシア様、アントス様、みんな、行ってきます!」
「では……頼む」
「気を付けて!」
アントス様の声と同時に、高度が上がった。お城の上をひとまわりして、最初の目的地へ進路を取る。優しく温かい人たちに見送られ、世界を越えて出会った僕たちの、新しい人生が始まった。
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