35 / 50
第4章 元カレとお世継ぎ問題
第11話
しおりを挟む
「レオッ」
扉を乱暴に開けて駆け込んできたのは、今一番会いたくなくて……恋しくてたまらなかった人。しゃがみ込んで泣きじゃくる僕を後ろから抱きしめた。撫でて、さすって、泣き止ませようとしてくる。
「レオ……レオ、泣くな。何も心配はいらない……」
「知り、ませんっ……」
振りほどきたいのに力が入らない。「いやだ」と「来てくれた」が頭の中で喧嘩してる。
「大丈夫だ、大丈夫……」
呼吸を合わせるように囁かれ、僕の体は学習した通りの反応をする。ラトゥリオ様のそばが、確かに僕の居場所なんだ、って。この状況にあっても信じたくて、涙が引っ込んでいく。絞り出そうとしても、脳が僕の言うことをきかない。駄目だなぁ……。
「顔を見せてくれないか」
「みっともないから、いや、です」
「では仕方がない」
抱き上げられて、ベッドへ。落ちるのはいやだから、ちょっとだけ掴まった。そっと寝かされ、彼が覆い被さってくれば、顔を見せないわけにはいかない。横を向くのがせめてもの抵抗だ。長い指が髪を直し、目元や頬を拭ってくれる。その指先をとらえて聞いた。
「いいんですか、こんな……。彼女が見たら誤解しますよ」
自分で言って、胸が抉られる。
「あいつは誤解などしない。事態を正しくとらえる女だ」
「……そうですか」
はぁ、とため息が出た。開き直られたら、呆れるしかない。やっぱり家出しよう。ちょんちょん、と鼻を突っついてくる彼は、僕の悲壮な決意に気付きもしない。
「何を勘繰っている。あいつは俺の妹だ」
は?
「い……もうと?」
「この前話しただろう」
海に落ちたアントス様を救った妹姫。名はアリシア様。十五年前の出来事……いやいやいや、待て。騙されるもんか。
「計算が合いません。アリシア様は、十五年前に十二歳だったんでしょう。さっきの彼女、どう見たって僕と同じか年下ですよ」
「ところがな、あれで二十七なんだ。女というのは分からん」
「……同感です」
早とちりだった。うわ、恥ずかしいっ。僕は毛布をまくり上げて自分に被せた。靴は、ぽいぽいっと脱ぎ捨てた。ごそごそ動いて、頭から足まで全部毛布に隠れるようにと試みる。
「レオ……」
ぽんぽん、と毛布を叩く手。優しい声。ああ、ラトゥリオ様だ。
「暑くはないか」
「少し」
「では、出てきてはどうかな。ん?」
「僕の情緒のために五分ください」
「ふむ……分かった」
五分間、彼は巨大な団子になった僕の横に座り、よしよしと撫で続けた。恥ずかしさが倍増して、五分は長かったと後悔した。
律儀に時間を計っていた彼は、「五分だ。いいな?」と告げ、毛布の包みを丁寧に開けた。丸まっていた僕は観念して起き上がり、ボサボサの頭で笑顔を見せた。キスして抱きついて、髪を直してもらった。
「いい子だ」
「大騒ぎしてごめんなさい……好きです」
「ああ。俺も愛している」
「ラトゥリオ様……」
これでまたお世継ぎ問題は先送りだ。でも、もし……本当に王妃様が登場することになっても、彼はきっと僕を必要としてくれる。必要とされる存在でありたい。長い髪を指に巻き付け、確かな温もりを分け合った。
扉を乱暴に開けて駆け込んできたのは、今一番会いたくなくて……恋しくてたまらなかった人。しゃがみ込んで泣きじゃくる僕を後ろから抱きしめた。撫でて、さすって、泣き止ませようとしてくる。
「レオ……レオ、泣くな。何も心配はいらない……」
「知り、ませんっ……」
振りほどきたいのに力が入らない。「いやだ」と「来てくれた」が頭の中で喧嘩してる。
「大丈夫だ、大丈夫……」
呼吸を合わせるように囁かれ、僕の体は学習した通りの反応をする。ラトゥリオ様のそばが、確かに僕の居場所なんだ、って。この状況にあっても信じたくて、涙が引っ込んでいく。絞り出そうとしても、脳が僕の言うことをきかない。駄目だなぁ……。
「顔を見せてくれないか」
「みっともないから、いや、です」
「では仕方がない」
抱き上げられて、ベッドへ。落ちるのはいやだから、ちょっとだけ掴まった。そっと寝かされ、彼が覆い被さってくれば、顔を見せないわけにはいかない。横を向くのがせめてもの抵抗だ。長い指が髪を直し、目元や頬を拭ってくれる。その指先をとらえて聞いた。
「いいんですか、こんな……。彼女が見たら誤解しますよ」
自分で言って、胸が抉られる。
「あいつは誤解などしない。事態を正しくとらえる女だ」
「……そうですか」
はぁ、とため息が出た。開き直られたら、呆れるしかない。やっぱり家出しよう。ちょんちょん、と鼻を突っついてくる彼は、僕の悲壮な決意に気付きもしない。
「何を勘繰っている。あいつは俺の妹だ」
は?
「い……もうと?」
「この前話しただろう」
海に落ちたアントス様を救った妹姫。名はアリシア様。十五年前の出来事……いやいやいや、待て。騙されるもんか。
「計算が合いません。アリシア様は、十五年前に十二歳だったんでしょう。さっきの彼女、どう見たって僕と同じか年下ですよ」
「ところがな、あれで二十七なんだ。女というのは分からん」
「……同感です」
早とちりだった。うわ、恥ずかしいっ。僕は毛布をまくり上げて自分に被せた。靴は、ぽいぽいっと脱ぎ捨てた。ごそごそ動いて、頭から足まで全部毛布に隠れるようにと試みる。
「レオ……」
ぽんぽん、と毛布を叩く手。優しい声。ああ、ラトゥリオ様だ。
「暑くはないか」
「少し」
「では、出てきてはどうかな。ん?」
「僕の情緒のために五分ください」
「ふむ……分かった」
五分間、彼は巨大な団子になった僕の横に座り、よしよしと撫で続けた。恥ずかしさが倍増して、五分は長かったと後悔した。
律儀に時間を計っていた彼は、「五分だ。いいな?」と告げ、毛布の包みを丁寧に開けた。丸まっていた僕は観念して起き上がり、ボサボサの頭で笑顔を見せた。キスして抱きついて、髪を直してもらった。
「いい子だ」
「大騒ぎしてごめんなさい……好きです」
「ああ。俺も愛している」
「ラトゥリオ様……」
これでまたお世継ぎ問題は先送りだ。でも、もし……本当に王妃様が登場することになっても、彼はきっと僕を必要としてくれる。必要とされる存在でありたい。長い髪を指に巻き付け、確かな温もりを分け合った。
37
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
必然ラヴァーズ
須藤慎弥
BL
ダンスアイドルグループ「CROWN」のリーダー・セナから熱烈求愛され、付き合う事になった卑屈ネガティブ男子高校生・葉璃(ハル)。
トップアイドルと新人アイドルの恋は前途多難…!?
※♡=葉璃目線 ❥=聖南目線 ★=恭也目線
※いやんなシーンにはタイトルに「※」
※表紙について。前半は町田様より頂きましたファンアート、後半より眠様(@nemu_chan1110)作のものに変更予定です♡ありがとうございます!
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる