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花町 シュガー

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「はい、どうぞ」

「……どうも」

手渡されたのは苺のアイス。
俺の大好物。

着いた先は、よく行くショッピングモール。
「気分転換しよう!」とゲーセンいったりぶらぶら歩いたり、連れていかれるままただ楽しんで。
「少し休憩しようか」とフードコートへ寄って空いてる席に座った。

(なんで俺の好みを知ってんだ?)

男のクセに苺が好きなんて、普通思わない。
なのに、こいつはピンポイントでそれを買ってきてくれてる。
さっきのゲーセンだってそうだ。「これ好きそうだね」と指差された商品は確かに好きなやつだった。取れなかったけど。
一体、なんで……

やっばり俺は、こいつと会ったことがある…?
しかも、俺の好みを教えるくらい近くの距離にいた……?

わからない。

こんなに年の離れた知り合いなんて、本当にーー


「甘いものを食べてるとさ」


「っ、」


ポツリと、前に座ってるそいつが話し始める。

「すごい幸せな気分にならない?
これって凄いことだと思うんだよねぇ」

「……そう、だな」

確かに、甘いものにはえげつない力があると思う。
一瞬で人を幸せにするというか、笑顔にさせるというか。

「私も甘いものが好きなんだ。落ち込んだ時や上手くいかない時はよく食べてる。
いいよね。無条件でふわふわした気持ちにさせてくれるし、本当に魔法みたいなものだよ」

「ま、ほう……」

「君もその魔法にかかって、少しは頭が軽くなったかい?」

(ぇ……)

ハッと前を向くと、スプーン片手に笑いながらこちらを見ていた。


「君のその悩みは、とても難しいね。

君以外の誰にも解決できない。君が、君自身と向き合って考えないといけないものだ」


「ーーっ、」


「大丈夫、ゆっくりでいい。
答えはきっとでると思うよ」


「あんたは、」


無意識に震える拳を、ぎゅぅっと握る。



「あんたは、何者なんだ……?」



生田から告白されたことは、誰にも言ってない。言いふらしたくないと俺が思ったから。
告白場所もすごく静かなところで、誰にもみられてなかったはずだ。
なのに、こいつは知っている。
俺がなんに悩んでるのかを知って、話をしている。

(……怖い)

今までとは違う意味の恐怖。
不審者どころじゃ、ストーカーどころじゃない。
まるで心を読まれているようなこの感覚は、なんだ?

ーーこいつは、一体誰だ……?



「ぇーん、えぇーん、ママぁ……っ」


ザワザワしたフードコートにも関わらず、俺とおっさんの間だけ恐ろしいほど冷たいものが流れ始めた…矢先。
声のする方を見ると、幼い子どもが懸命に涙を流していた。

「ちょっと席立つ」

「うん、いってらっしゃい」

今の空気はすぐに何処かへ消えて、真っ直ぐその子の元へ向かった。

どうも前々から、困った人や助けが必要な人を見ると自然と身体が動いてしまうクセがある。
これまでも、通学路とかいろんな場所で何かあれば率先して動いていて。

「すいません!
うちの子が勝手にいなくなっちゃってて……」

「いえいえ、見つかって良かったです」

今回も、つい駆け寄ってしまった。幸い話を聞いてたらすぐお母さんがやってきてくれたけど。
「ありがとうぅー」と抱かれた腕の中からお礼を言うのが可愛くて、手を振ってから席に戻って。


「……? どうした?」


おっさんが、なにか眩しいものを見るような目で俺を見ていた。

「…いいや、なんでも。
あぁ、アイスが溶けてしまったね。今のご褒美にもうひとつ同じものを買ってきてあげよう」

「え、いいよ別に。溶けたやつ飲んでも美味いじゃん」

「あははっ、ヒーローにそれはさせられないなぁ」

ヒョイっとカップを取られ、再び立ち上がる姿。
まぁまた新しいの買ってくれるんならいっかと、特に止めずに見送る。


「……ねぇ?」


「?」

ふと、おっさんの背中が止まった。


「さっきの君は、とてもかっこよかったよ。

……本当に、かっこよかった」


「…? おっさん……?」

(って、行っちゃった……)

なんだ?
別にこういうのいつものことなんだけど。
友だちには〝お節介〟って言われるし。

てか、なんか今声震えてなかったか?
泣いてた? 背中だったから見えなかったけど。

というか、今のおっさんの声…誰かに似てたような……
声というかイントネーション?が誰かに似てたような……家族じゃねぇな、んん…もっと他の……

わからない。
まんまではないけど、何故か似てると感じる。

ふわふわしてて浮世離れした不思議な存在。
何故か俺のことを知ってて、俺に付きまとってきて……

ポツリ
「まじで、一体何者なんだよ。あんた」

店員と楽しげに話してるのを見ながら、ぐちゃぐちゃの思考にため息を吐いた。






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