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紫薔薇の場合
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しおりを挟む「え、怪我!?」
「そうなんですよ、昨日の練習試合で」
いつものように出社するとすぐ、ラグビー部の顧問を務める先生に呼ばれた。
「大山は将来を見据えている選手なので、ここで無理はさせれないんですよね。だからしばらく休んでもらおうと思っていて。
それで、よければ放課後にマッサージとかってお願いできませんか? 六花先生確かスポーツ障害なども勉強してらっしゃいましたよね」
「あ、えぇ、そうですが……」
確かに、彼が入学してきたときスポーツ分野を知っておこうと、専門的なことを色々齧っていた。
まさか、それがここで役立つなんて……
「お願いできませんか? あいつもなるべく早く練習に復帰したいでしょうし、3年なので最後になる試合もあって……」
「そう、ですね……あの、専門の病院などを頼るのは」
「あいつ一人暮らしで通うのが難しいみたいなんです。
あとは、自分から〝六花先生に頼みたい〟って言ってきてて」
「………ぇ」
大山くんの、指名? 一体どうして。
顧問を見ても「なんででしょうね?」と首を傾げられるばかり。
そんな、なんで私を……私が何かした?
それとも、もしかして薔薇だと気づいたとか?
わからない。けれど、これは私がどうこう言ってる場合のものではないと思う。
青春がかかっている。彼の、もう二度と戻らない日々が。
それを怪我で塞がれてしまっているのであれば、教師としてやることはひとつ。
「わかりました。怪我に関して詳しく話を伺っても?」
彼のために動かねば。
少しでも、貴方の力になりたい。
「ありがとうございます!」という顧問に笑って、メモを取るため席を立った。
***
「失礼します」
「はい」
放課後の保健室。
カラリと開いた扉から入って来たのは、いつも眺めていた人。
「大山くん、今日からよろしくね」
「よろしくお願いします、先生」
松葉杖をつきながら、ペコリと頭を下げられた。
怪我をしたのは左足。
早速ベッドに足を投げ出すように座ってもらい、診察する。
「骨はくっついてるんだよね」
「はい」
「よし。じゃあ筋肉部分と、後遺症が残らないようにすることかな。今日は軽くマッサージしてみるから、痛かったら言って」
「わかりました」
平然を装ってるけど心臓はバクバク。
こんなに話をする機会なんて今までなかった。
怪我をしない子だし、ほんとに健康診断とかで一言二言話したくらい。
どうしよう、うまく喋れてるかな。不自然じゃないかな。
靴を脱いで同じくベッドに上がり、そっと怪我をした足へ触れる。
逞しくて自分よりずっと大きい。この足がいつも彼を支えてるのかと思うと、それだけで愛おしくなる。
「……先生? どうしました?」
「あぁいや!なんでもないよ。始めるね」
ほぉぉっと深呼吸しながら、目の前のことに集中すべく手を動かした。
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