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しおりを挟む『さて。
君もそろそろ友人の元に戻らないといけないだろう』
腕時計を確認しながら、目の前の人が笑う。
『そう…ですね……』
確かに、今頃はぐれた僕を探しているはず。
けど……
(せっかく逢えたのに…これでお別れなんて、)
そんなの、いくらなんでも寂しすぎる。
ずっと…これまで本当に僕はあなただけを探してたんだ。
なのに僕らはまだ自己紹介もしてなくて、互いの名前さえも知らなくて、そんなのってーー
『っ、ぁ…あの! ーーわっ、』
『ふむ、やはりよく似合うね』
ポフッと被せられたのは、手に持っていたシルクハット。
『この帽子は、私の数あるコレクションの中で最も気に入っている物なんだ。君に譲ろう』
『ぇ、い、いいんですか……?』
『勿論さ。お気に入りなんてまた探せばいい。
何より〝この帽子を君に譲った〟という思い出が残ることの方が、大きいんだ』
『ーーっ、』
慈しむようにじぃっと見られ、思わず帽子のつばを握る。
『私は、随分と無責任なことばかり君に言ってしまったな。全く……本当に酷い大人だ。
だから、せめて君が幸せになるための…生きていくための手助けをさせてくれないだろうか』
(手助け……?)
『私は君より随分長く生きている。そしてαな分、会社においてもそれなりの地位だ。
これから先何かあったら言いなさい。資金面やその他援助等、惜しみなくおこなおう。君は何も気にせず、行きたい場所やりたいこと全てしなさい』
『ぇ……でもっ、そんな、』
『遠慮は受け取らない。せっかく奇跡に近い確率で出会えた運命なんだ。にも関わらず番(つがえ)ない私の、せめてもの罪滅ぼしをさせてほしい』
スッと目の前に出された名刺。
思わず受け取ると、ふわりと笑われた。
『自己紹介はしないでおくよ。君に名前を呼ばれると、きっと私は君を手放せなくなってしまう。だからどうかその名刺は、私と別れてから見てほしい』
『ぁ、待ってくださいっ。僕も今紙に名前をーー』
『大丈夫』
手帳とペンを取り出した手を、ゆったりと止められる。
『悪いが、君のことを調べさせてもらいたい。私たちはこうして運命で繋がったし、きっと情報はすぐ見つけられるはずだ。
さっき話した通り、君にも幸せになってもらわないと私の気は治らないからね。君は人に頼ったりお願い事をするのが苦手な性格のようだから、私の援助は私からのタイミングでもおこなわせてもらおう』
『えぇっ!? そ、そんな……』
確かに僕はそういうの苦手だしよく奥手だって言われる。
けれど、僕なんかにそんな援助なんて…出会ってまだ少ししか話してないのに……
『っ、ははは! 本当に君たち日本人は奥ゆかしいな。
いいんだ、私たちには子どももいないし老後の蓄えも充分にある。それにこんなに可愛らしい子が使ってくれるのなら、これほど良い事は無い。寧ろ君が幸せを見つけるための足しになるのならば本望だ。
だから、そうだな……
ーー君は、まぁどこかのいい〝足長おじさん〟でも拾ったと思ってくれたまえ』
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