16 / 42
エルバと、俺の過去 1
しおりを挟む「ん、んん……」
「っ、トア」
「ぁれ…エトシィール、兄様……?」
目を開けると、自室で兄が手を握ってくれていた。
「良かった、目が覚めた……
校内で倒れたと聞いてね、俺が連れ帰ってきたんだ」
「そんな…レスたちは……」
「まだ学校だよ。
新入生だから今日はやることが多いはず。帰ってきたらトアも教えてもらうといい」
「わかり、ました。
あの…兄様も授業中でしたよね、ごめんなさい」
「全然。これぐらいで謝らないで。兄弟なんだから心配するのは当たり前だよ」
「っ、はい」
「体調は平気? 眩暈とかない?」
「大丈夫です」
「そっか。じゃあレスたちが帰るまでもう暫くゆっくりしてるといい。
父様には俺から言っておくから」
「ありがとうございます」
軽く頭を撫でられ、部屋から去って行く。
「いい兄だな」
「っ、」
さっきまで兄様がいた位置に、エルバがいた。
「お前が眠ると同時に、消えたお前の魔力を不思議がった教師が入ってきてな。数分も経たぬうちにあの人間が飛んできた。
成る程、お前の兄だったのか」
「そう、だったんだ……」
全然記憶がない。不思議な感覚。
というか、口付けって本当に契約できるんだ。エルバは家まで付いて来てるし、消えることもない。
それに、なんか身体の中に誰かがいるような感覚がする。
契約ってこんな感じなんだ……
「さて」
「?」
ドカッとベッドに腰掛ける長身。
「契約は完了したが、まだあの部屋でしていた話は続いているぞ」
「え、」
「お前、一体何故変なんだ……?」
「ーーっ、」
胡乱げに見つめられ、グッと拳を握った。
「水と相性がいいのに怖いというのは分かった。
だが、あの精霊の言う通りまだ変わっているところがあるようだな。
どこだ? 教えろ」
「な、んで」
「契約を結んだからだ。互いの間に隠し事は無しだろう?
それに、興味がある。数百年生きているがこの様な違和感は初めてだ。
トアスリティカ、お前何故こんなにも不安定なんーー」
「ちょ、ちょっと待って!!」
問い詰めてくるのを、ベッドからガバッと起きて全力で止める。
待て、待て待て、今
「数百年って言った!?」
「あぁ、言ったな」
「数百年も生きてるのか!?」
「そうだ」
嘘だ、この精霊凄い年上じゃんか!
最初の精霊って子どもとかそういうのが多いって習ったのに、なんでこんなのが付いてるんだ?
どういうこと……?
「はっ、てか敬語」
「もう遅い。そのまま話せ」
「く、うぅ……っ」
「……はぁぁ。おい、今は我ではなくお前の話をしているんだ。少しは空気を読め」
「………俺…変?」
「変だな」
間髪入れずのど直球どストレートな回答。
けど、エルバに言われるのは不思議と嫌な感じがしない。
契約した相手だからか?
……俺も、いい加減腹を括る時か。
こっちの世界で生きぬくって決めたんだ。
だから相棒になってくれた精霊には俺の事を全部知って欲しいと思っていたし、話すつもりではいた。
「…引かないで、くれる?」
「あぁ。話の腰も折らぬようにしよう。
とりあえずは全て聞いた後だ」
「……わかった。
は、初めて話すから、上手く話せないかもだけど…ーー」
俺が目覚めるまでの14年間。
今でも鮮明に覚えている、日本での出来事。
それを、言葉に詰まりながらもひとつひとつ思い返しながら、聞かせていった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
芽吹く二人の出会いの話
むらくも
BL
「俺に協力しろ」
入学したばかりの春真にそう言ってきたのは、入学式で見かけた生徒会長・通称β様。
とあるトラブルをきっかけに関わりを持った2人に特別な感情が芽吹くまでのお話。
学園オメガバース(独自設定あり)の【αになれないβ×βに近いΩ】のお話です。
おとなりさん
すずかけあおい
BL
お隣さん(攻め)にお世話?されている受けの話です。
一応溺愛攻めのつもりで書きました。
〔攻め〕謙志(けんし)26歳・会社員
〔受け〕若葉(わかば)21歳・大学3年
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる