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番外編 2
Taylor Richardson家 in モール 〜if〜
しおりを挟む※ヒデト28歳(社会人)、妹14歳・弟13歳(中学生)のif設定
【side 妹・弟】
「兄様っ!はやくはやく!」
「ちょっと、次は僕のゲーム選んでもらうんだって」
「それより私のヘアアクセでしょ!髪伸びたんだから」
「もういっぱい持ってるだろ」
「兄様から選んでもらうのは格別なの!」
広いモールで、黒髪の長身を間に挟みながら言い合う金髪の兄妹。
一昨日、久しぶりに兄様が家に帰ってきた。
海外のお土産をたくさん持って、相変わらずのぶっきらぼうで「ただいま」と言う姿。
ちゃんと知ってるもんね、これは〝ツンデレ〟って言うんだって。
こんなに私たちの好きな物ばかり買ってきてくれて、抱きついたら照れながらもちゃんと抱きしめ返してくれて。
優しくて優しくてかっこいい、世界一の私たちだけの兄様。
昨日は家族みんなで家で過ごして、今日は兄妹だけでショッピングに来た。
久しぶりすぎてテンション上がりっぱなし!
長く家を離れてたし、食卓で聞く海外支社を回った兄様の話はとても面白かったけど、やっぱり兄妹3人で水要らずしたいじゃん?
兄様も「好きな物買ってやるよ」って言ってくれたし。
あ~楽しい最高~~っ!!
「あれ? これはこれは、Taylor Richardsonのご兄妹ではありませんか」
「「??」」
目の前にヌッと現れたのは、しっかりスーツを着た大人の人。
「先日はお父様にお世話になりました。
今日はご兄妹揃われておいでなのですね。仲がよろしいことで」
「お世話になっています。父から話は聞いています、先日はありがとうございました。
あの催事場でのイベントはーー」
あぁ最悪、会社関係の人だったか。
捕まってしまった。こうなると話が長いのは幼い頃から知っている。
2人で顔を見合わせ「はぁぁ…」と溜め息。
兄様といる時間限られてるのにな、遠慮してくれないかな。
せっかく兄妹3人揃ってるのに……
「~~ですね。ははっ、はい。ではまたーー」
「にしても、本当に似ていないですな、貴方とご兄妹は」
((………は?))
両サイドがテンションだだ下がりしたのを察し早く会話を切り上げた兄様へ、笑いながら突然容赦ない一言がふってきた。
「顔も髪色も目の色も、年齢だって全く違う。それなのにこんなに懐いてらっしゃるのは、Padrick氏の教育の賜物なのでしょう。
中学生のご兄妹はお父様に非常によく似ておいでだ。Padrick氏もお若いんだから、自身の後継者選びはまだ先にされてもよいのに」
まるで、「兄様は後継者に相応しくない」という副静音が聞こえてきそうな言い草。
(誰 こいつ)
(Taylor Richardsonのなにを知ってるの?)
(僕らが〝懐いてる〟って言い方もなに? 動物か何かだと思ってる?)
(別に父様に教育されなくても兄様のこと大好きだし)
(〝貴方とご兄妹〟って分てるのも違う)
(ってかまだこんなこと言う人いたんだ)
(ほんと。ありえない)
兄様が大学を卒業して会社に入り、早6年。
メキメキと成長を遂げ、既に頭角を表してるとよく聞く。
後ろ盾なしの実力だけで一流大学へ進学し、単位もすべて取り切り父様の会社に入って。
『言われることは大体わかってる』と直向きに努力と挑戦をし続ける背中は、それはカッコよかった。
『所詮ただの連れ子』『親の七光り』と言ってた奴らが段々口を閉ざしていくくらいには。
社内評価も高いし、慕ってる社員も大勢いて人望も厚い。
これからの伸びしろを最も期待されてる。そんな人なのに。
ーーまさか、こんなこと言うバカが まだいるとは。
(バカにバカって言っても意味ないけどほんとバカ)
(こんなのと取引してるなんて最低。父様なにしてんの)
(ってかこいつスーツの着方下っ手くそじゃん。
カフスボタン自分でカスタマイズしてるわりにシャツの色と合ってないし、ネクタイもタイピンも全部主張しててガチャガチャしすぎ)
(全部ブランドもので固めるにしても色とか抜くとこ抜かないと難しいの知らない? 着てるT.Richardsonのスーツが泣いてんだけど。こいつに売ったの誰?)
(普通のスーツで十分じゃんこんなバカ。「黒は一色しかない」とか言ってそう)
(いや、流石にこの業界いるんだから黒と白くらいは分かるんじゃない? 後は知らないけど。
もう早めに手を引いたほうがいいよ、うち。こんなのと一緒に仕事しちゃ駄目だ)
(センスの欠片もない。
どこのブランド? どこの会社?)
(兄様の件も腹立つし早めに言いつけてやろ、父様に)
(寧ろ今から言う?)
(そうだね、言っちゃおうかーー)
「似ていないのは確かですね。ただーー」
目敏くこの人物を観察し始めた私たちを遮るように、兄様が一歩出る。
「ご存じの通りT.Richardsonは世界各国に店舗を構えています。値段はなかなか手が届きにくく予約もお待ちいただきますが、そこには国籍・性別・年齢・肌の色を問いません。弊社の社員も皆、そのような差別等一切なく雇用しています。
ーー〝血の違い〟など、もっての外」
「っ、」
「ましてや私はまだ入社6年目の新人です。
父は後継と言っていますが、あくまで〝候補〟で後継の座を狙う者はたくさんいます。
ですから、誰が次期社長になるは定かではありませんよ」
「あ、あぁそれもそうだったかっ」
「えぇ。
単に兄妹にもチャンスはあるということを仰ってくださったんですよね。ありがたいです、きっと勉強にも身が入ります」
「そうだなっ、いや、しかし2人とも既に学歴高い学園へ通っているし、今は十分遊んでーー」
「そうですね。では、私は今日2人と遊ぶ約束をしているのでこれで。
お話ありがとうございました」
「あぁ、また……っ」
ニコリと笑い、私たちの背中を押しながら去る兄様。
「ちょ、ちょっと兄様、いいの?」
「もっとちゃんと言うのがいいんじゃない? あれはないって」
「いいんだ、今は」
視線は前を向いたまま、どんどん歩いていく。
「こういうのは今に始まったことじゃねぇし、これでも数は減った。俺が実力つけて言わせなくすればいい、簡単なことだ。
ーーそれよりも」
チラッチラッと両脇へ視線。
「お前ら、なんもすんなよ」
「「えぇ!? なんで」」
「あれは俺に売られた喧嘩だ。
俺が買ってんだからお前らは手出しすんな。
親父にも言うなよ」
「えぇー…そんなぁ……」
「だってさぁ……」
「だってもクソもねぇ。
ほら、気持ち切り替えて。ショッピングすんだろ」
そう言われてもさぁー……
(でも、アイツ私たちの時間無駄にしたよね)
(兄様との貴重な時間減らした。あと嫌な気持ちになった)
(なら私たちにも喧嘩売ったことにならない? 手出してよくない?)
(筋通ってるよね? いい気がする)
……よし。
「なにが欲しいんだっけ、えっと…」
「ヘアアクセ!私に似合うもの選んで!
学校に付けてくからっ」
「あ、ずるい僕も学校に持っていけるものがいい」
「キーケースは? それかペンケースやキーホルダー」
「ペンケースとかはまだ気に入ってるのあるからキーホルダーにしようかな。
兄様お揃いの買おうよ」
「え、ずるい私も兄様とお揃いのもの欲しい!」
「残念僕とするんですー」
「私ともするよね? ね?」
「はぁぁ……3人でお揃いにすりゃいいだろ。
全部買ってやるから」
「「やったー!」」
やっぱり兄様は私たちに甘い。
でも、この甘さが私たちには嬉しくて、大好きで。
幼い頃から大事にしてくれて、なにより人との付き合い方や喧嘩の仕方を教えてくれた兄様。
今、私たちが普通の価値観を持ってるのは間違いなくこの人のおかげ。
(アイツみたいな鼻高になってなくて、よかったなぁ)
〝人は外面じゃなく内側で判断する〟
これは私たちの鉄則になっている。
血が半分しか繋がってないとか、歳が離れてるとか、そんなのは本当に関係がなくて
ただ家族として、この人の兄妹になれたのはラッキーなことだなと感じながら
「「兄様、大好き」」
今日も真っ直ぐな大きい背中を、ずっとずっと愛していたいと 思う。
(お前ら、なんかしただろ)
((え、なんのこと?))
(聞いてないフリすんな親父、加勢したな)
(ギクッ!)
(ギクッじゃねぇよ流行ってねぇってそれ…ったく……)
((に、兄様…))
(やっぱ、早めに仕事戻るか)
((えぇーそんなぁー!!))
fin.
リクエストありがとうございました!
自分の書きたいものも書き切ったので、またこの作品は【完結】とさせていただきます。
佐古の兄妹たちの名前が最後まで出てきませんでした。名前…なんにしようかな……Taylor Richardson家の話はBLではありませんでしたが、ほのぼの読んでくださると幸いです。
引き続きリクエスト等お待ちしています。お気軽にコメントへお書きください~
お気に入り・しおり・リアクション・コメント、いつも本当にありがとうございます。
これからもお付き合いくださると幸いです。
花町 シュガー
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