ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
501 / 536
中編: ハル編

sideハル: 決戦のとき 1

しおりを挟む



「ねぇアキ、イロハ、僕おかしくない……っ?」


「うん全然!すごく似合ってるよ!!

というか…」


「これもなんかデジャヴだよな……」


「ね。おれ去年もこれ言った気がする」


「え、そうなの?」


後夜祭、当日。
緊張でガチガチな僕へ、面白そうに2人が笑う。

「まさかこんな使い方するとは。
ちゃんと仕舞っててよかった……真っ白だからシミとか付いたらどうしようと思ってたんだよな。
去年とおんなじだ。綺麗」

「アキ本当にいいの?
レイヤも去年と同じ仮装だし、〝ハル〟がこれ着てたっていうのは分かるけどアキが着たほうが…」

「んーん、俺はもう普通のでいい。
それよりも、今はハルに必要なものだから」

「おー、揃ってんな」

僕らがいる校門前に、レイヤと月森先輩が歩いてきていた。

「矢野元が後夜祭の挨拶立派におこなったぞ。来年はお前らの誰かがやれよ。
……と、へぇーやっぱ懐かしいなそれ。似合ってる」

「クスクス、えぇ本当に。去年が懐かしいですね」

先輩から忘れていたコートを受け取り、フードまでしっかり被る。
去年はマントだったらしいけど、今回は真っ黒なコート。足の付け根まで隠すほど長いのに、軽くてあたたかい。

「今日あいつ病院泊まるらしいから、そのまま病院行け。
夜勤とかじゃなく普通に泊まるんだと。案外仕事熱心なんだな」

「既に手配は済んでますので、着いたら正面でなく裏口へ回ってください。そこにいる警備員に〝龍ヶ崎〟の名を言えば、すぐ案内してくださいます」

「親父がすげぇ楽しそうに手回し手伝ってくれた。
次会ったら絶対なんか言われると思うから、覚悟しとけよ」

「わ、かった…」

想像以上に万全な準備。
というか、元はと言えばそもそもマサトさんが僕とあの人を引き合わせたんだった。

(やっぱり、手のひらの上で踊ってたのかな僕は)

くそう。なんかしてやられた感。
でも、もうなってしまったものはしょうがない。


「ハル様」


コートを握る手を、先輩の手がそっと掬った。

「大丈夫です。きっと、いい方向にいきます。
あの方がハル様の想いを踏みにじるなど、決してありません。
受け止めてくれますよ。絶対に。

だから安心して、ちゃんと話をされてきてください」


「っ、せん…ぱい」


「お帰り、お待ちしていますね」


「ーーっ、はい」


先輩にも多分、上手く転がされた。
結果的にいい兆しというのが、見えてるのかもしれない。

(でも、もうそんなものは)


ーー他の人がどう考えてるとかは、いい。


話が終わったタイミングで、黒塗りの車が後ろに止まる。

それに乗り込み、窓を開けてみんなを見て

「それじゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃいハルっ!後夜祭のことは任せて!」

「気をつけてな、絶対大丈夫だから!」

「安心して行ってこい」

「いってらっしゃいませ、ハル様」

見送られながら、学園を後にした。








(うわ、思ったより寒いな……)

病院の薄暗い廊下はひんやりしていて、思わず両手で体を抱きしめる。

言われた通り病院に着いてすぐ裏口に回り、龍ヶ崎の名で入れてもらった。
案内してくれる警備員は僕の事情を知ってるのか、かなりゆっくり歩いてくれて安心する。
普段の僕のスピードよりもゆっくりだけど、逆に落ち着けるし周りが見れるからいい。

ここが、あの人の職場か。
いろんな病院へ行ったことがあるけど、ここは初めて。
かなり大きくて広い。
そして裏口から難なく通してくれるのを見ると、有名人から企業の大御所までたくさんの人を患者に抱えてるんだろう。

たくさんの人を…患者に……


(これが終わったら、案内してもらおう)


僕が校舎内を案内したように、普段使ってる部屋や周ってる病室・よく使う廊下・テーブルや椅子まで全てを教えてもらいたい。

ここで、あの人がどう過ごして 生きてるのかーー


「この先のドアです」


エレベーターを出て角を曲がったところで、警備員に言われる。
どうやらここまでが指示だったらしい。お礼を言って、戻る姿が見えなくなってから大きく深呼吸した。

(大丈夫…落ち着け……)

レイヤと月森先輩は、「本人には伝えてない」と言っていた。
だから、今僕がここにいることを、あの人は知らない。

「すぅぅ……はぁ……」

何度も深く呼吸して、バクバクうるさい心臓を落ち着ける。

みんなが手伝ってくれた。
話を聞いてくれ、背中を押して送り出してくれた。
何度も何度も「大丈夫」だと、言ってくれた。

それなら、きっと

きっと 僕は



「ーーっ、」



意を決して近づき、コンコンッとノックする。


『空いていますよー。入ってください』


職場の人と思ったのか、敬語での返答。

それに、クスリと笑いながら


「失礼します」



「っ、は……え………?」



ガラッと音を立てて、大きくドアを開けた。


しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...