ハルとアキ

花町 シュガー

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中編: ハル編

sideハル: 初めての遠出と、別荘

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「「わぁ……!」」

遮るものが何もない高い空、からりとした空気と独特の磯の匂い。
そして、目の前に広がる青い海。

夏休みに入ってすぐ出発した。
宿題はあっちでやればいいから勉強道具も持って、そのまま学校から龍ヶ崎の車に乗り込んで。
丁寧な運転と適度な休憩を取りながら目的地まで進んでいって、たどり着いた場所。

(プライベートビーチって、こんな感じなんだ)

龍ヶ崎の別荘と、すぐ側にあるビーチ。
僕らが来るのを言ってたのか、綺麗に整備されててゴミひとつ落ちてない。
別荘の中にも使用人がいて、ご飯とか掃除洗濯身の回りのことをしてくれるそう。
まさに至れり尽くせり。

「うわー久しぶりに海来たね、カズマ!」

「そうだな。アキとハルは初めてだったよな、どうだ?」


「う、ん…なんか、想像よりもずっと綺麗……」


「だね……」


空と海の色が違うのは知ってたけど、実際はこんなにも違ってるんだ。同じ青なのに不思議。
海は太陽の光に反射してキラキラ輝いてて、その先の水平線まで見えてる。なんだか地球っていうのを感じてしまっておかしな感覚。
ザザ…ンと音を立てる波も、風によって速かったり遅かったり自然の作り出す独特のリズムで、それがすごく…心地よくて……

「クルーズもあるから、海に慣れたら乗るか」

「え、すごい!乗りたい!!」

「うわー僕らも乗りたい!会長いいですか!?」

「あぁ。月森もたまには羽伸ばせよ」

「あなたに気を遣われるのはすごく気持ち悪いですね。
ですが、まぁご一緒しましょうか。
よろしいですか? アキ様」

「ぁ、もちろんですっ!ハルは……」

「んー僕はまだわかんないや、もしかしたら参加するかも」

みんなと同じペースでは難しい。
だから、僕は見学で。
というかなるべく2人で過ごしてほしいから、そういうのは極力参加しないかな。
そもそも海でも泳げないし。

「……っ、あの、ハr」


「おーいみんなー!」


別荘から手を振りながら歩いてきたのは、これまた景色に負けてないくらい綺麗な金髪。

「無事着いたね、お疲れさま」

「先着いてたのか、ヨウダイ」

「まぁね。ちょっと病院寄って直で来た」

「こんたちはっ、先生」

「こんにちはーアキくん、相変わらず可愛いねぇ。
月森くんもこんにちは。
で、こっちが丸雛くんと矢野元くんだね」

「はい。丸雛イロハくんと矢野元カズマくんです」

「は、初めましてっ。えと、ハルの先生…ですよね?」

「そうそう主治医。龍ヶ崎ヨウダイ、よろしくね。
なんか怪我したとか気分悪いとかあったら、遠慮せずに言って」

「「よろしくお願いします」」

「んーふふふいいね。みんな若いなぁ、キラキラだ」

いや、確実にあなたが1番キラキラしてますけど??

別に出てこなくてよかったのに…なんか近くに明るいものあって眩しい。
寧ろ太陽がひとつ増えた? やめてよ1つで十分暑いのに。

(ってか打ち解けるのはやすぎ…あとなんでアキは「アキくん」なの)

毎回疑問なんだけどなに? なんで僕だけちゃん付け??
僕たち双子ですけど何の差? 本当意味わかんない。
いやそもそも存在自体がもう意味わかんないんだった、そうだ。
これでイロハやカズマも「くん付け」だったら…マジで腹立つやつ……


「はい!それじゃあ各々自由に過ごしといで。
荷物は使用人が運ぶからね、みんなはもう海行っても大丈夫だよ」


「そういうことだ。行くぞアキ」


「は? ぇ、ちょ、レイヤっ?」


グイッとアキの手を引っ張って、海の方向に歩いていく2人。
イロハとカズマも、その後ろを追っていって。


(……? なに?)


なんか、変な違和感。今になって強引?
腹落ちしない。アキも同じこと思ってるっぽいけど、何考えてるんだろうあいつ。

今回の旅行、レイヤはどんな意図で連れてきてるんだ。
まぁ、別に止めはしない…けどーー


「ハル様」


「っ、」


4人が去っていった後、すぐ支えるよう腰へ回された腕。

「もう大丈夫ですので、私に寄りかかってください」

「は…先、輩」

(やっぱり、流石月森だなぁ)

アキにももう少し距離近かったら気づかれてたかも。
よかった、すこし離れてて。

適度な休憩や丁寧な運転があっても、こんな長時間車に乗るのは初めてで。
遠くへ行くのも初めてだったし、多分緊張してたんだと思う。
あとは、景色が眩しすぎてちょっとクラクラすると…いうか……

「月森くん、そのまま運べるー?」

いつの間に移動してたのか、別荘の扉を開けながら先生が手を振っている。

「部屋はもうセッティング済み。そのまま2階の奥の部屋連れてって。
ちょっと氷とかもらって行くから」

「わかりました」

途中から横抱きになり、揺らさないようゆっくりと運んでくれる。

「…ぁの、せん、ぱい」

「無理に喋らずとも大丈夫です。
『ありがとう』も『ごめんなさい』も、もう貰っていますので。
……『ごめんなさい』は、要りませんが」

「っ、ふふふ」

月森先輩は優しい。
そして、本当に僕らの月森だ。

(要らないけど、受け取らないと僕が納得しないから受け取ったのかな)

確かに「ごめんなさい」って言うつもりだった。「ありがとう」よりも先に。
初っ端から迷惑かけて、運んでもらって
せっかくの休みなのにこんなの申し訳なさすぎて

ーーそういうのを全部、もう先輩はわかってる。


部屋について、ゆっくりベッドに下される。
適度な温度に設定されていたクーラー。
すごくふかふかで、思わずほぉ…っと息が漏れる布団。

サイドテーブルの飲料水まで、すべてが整ってて驚いてしまう。

「はい、ありがとう。
こっからは僕がするからね」

「私は外にいたほうが?」

「んー、どっちでもいいかな。見とく?」

「はい。いざというときの処置を学んでおきたく」

「おっけい。それじゃあこっちに来といてーー」


ヒヤリとした、いつも触れてくれる手。


(ぁ、僕熱があったんだ)


首筋に当てられるのが気持ちよくて、つい目を閉じてしまう。

「うん、そのままリラックスしてていいからねハルちゃん。
もう少し触るからねーー」


先輩とは違い、どこまでも落ち着いた甘ったるい声。

それを 聞きながら

ゆっくり息を吐いて、だんだん遠くなる意識を手放した。




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