ハルとアキ

花町 シュガー

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番外編 1

3

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「……は?」

「サンタさん来るとこまちがえてるよね? ハルのへやは向こうだよ?」

純粋な大きな目が、なんの躊躇もなく別の窓を指差した。

「おれとハルはにてるから、サンタさんもまちがっちゃったね!ふふふっ」

「なんで」

「? なぁに?」

「なんで、間違ったと思うんだ?」

サンタクロースは、子どもに平等に訪れる御伽噺の人物。だから間違うもクソもない。
それなのに、どうして……


「だって、おれよりハルのほうがいい子だもん」


「っ、」


「あははサンタさんやっぱり見習いさんなんだねっ!
知ってる? サンタさんはいい子のとこにしか来ちゃいけないの。だから、おにいさんはハルのところにいくんだよ?」

「お前は…いい子じゃなかったのか……?」

「……うん。
だってね、いっつもおかあさんをこまらせちゃうんだもん」


「ーーっ、」


ギュゥッと、心が軋んだ。

「おれね、いつもおかあさんにおこられちゃうんだぁ…きっとおれがいけないことしてるからだと思う。
この前もハルといっしょに遊んでたらおこられちゃって……たぶんハルのこともっと考えて、遊ぶ時間もちょっとにしないとダメよっておこられたと思うんだ。でもね、その時は何でおこられちゃったのか分からなかったの。

おれっていけない子だねぇ」


(違う、それは)

ハルのことを考えると、確かにそうなのかもしれない。
でも、本当の理由は別にあって。
お前は何も悪くなくて、もう俺がいる時間線ではそれは解決してて、だからーー

「あ、ハルはね!すごくすごーくいい子だよっ!!
お熱はすぐ出ちゃうんだけどいっしょうけんめいがんばってるし、おれのあたまいっぱいなでてくれるの!」

「っ、そうか……」

「うんうん!だからね、ハルのところに行ってあげて? きっとすごーっくよろこぶと思うから!!」

目をキラキラさせながら精一杯笑うこいつは、精一杯に強がっていて。

(昔から、なのか)

自分より誰かのため。
いつだって自分のことは後回し。
今だって、サンタクロースが目の前にいんのに譲るのか?
本当は、喉から手が出るほど欲しいんだろ?

(あーあ、ったく……)


「なぁ」

「?」

「俺は、見習いのサンタだ」

見習いなのかサンタなのかも知らねぇが、いい。
あるものは全部使う、それが俺だ。

「見習いだから、お前のそれがいい子なのか悪りぃ子なのかの判別がつかねぇ。

ーーだから、お前にもハルにもプレゼントやるよ」


「……ぇ」


「お前は、何が欲しい?」


「ーーっ、」


ヒクリと小さい喉が鳴って、綺麗な目がこれ以上ない程見開かれた。

「ほら、言えよ」

「……ぁ、ぇ…と………っ」

あんなに元気だったのに、どんどん尻すぼみになる声。
視線も下を向いてしまって…自信なさげに背中が丸まる。

あぁ、今のアキと同じだ。
今のあいつもこういう質問に全然慣れてなくて、欲しいものを聞かれる度困ったように視線を下に向けてしまう。

それにクスリと笑って、両手で小さい頬を包んだ。

「っ、ぁ」

「ゆっくりでいい。焦んな」

視線を合わせて語りかける。
と……こいつの口から震えるように声が漏れた。

「ほ…んとに、いい、の……?」

「あぁ、いい。言ってみろよ」

なぁ、本当のお前は何が欲しいんだ?
その小さな心の中には、何が隠れてる?
微かに震える体の内側には、どんな本音があるんだ?

教えてほしい、俺の知らない日々のお前を……全部。


「ぁ…のねぇ……っ?」


ポツリと響く、小さな音。


「おれのこと、ぎゅってしてくれる人が…ふえたらいいなぁって思うの……」




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