ハルとアキ

花町 シュガー

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リクエスト番外編 2

その2: アキと梅谷先生の話

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◯リクエスト
アキと梅谷先生が絡む話を。
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【side アキ】



コンコンッ

「先生、日誌持って来ました」

『入れ』

放課後の現国準備室。
扉を開けると、パソコンに向かってカタカタ仕事をしている先生がいた。

「そうか、今日はお前が日直だったな」

「はいっ。お願いします」

「ん。ご苦労…… と、アキ待て」

「?」

日誌を手渡すと、ちょいちょいと近くの椅子に座るよう指示される。

(? 俺なんかしたかな……)

取り敢えず、大人しく「失礼します」と座った。

「どうだ学校は。慣れたか?」

「はい、初めと比べると大分。まだ戸惑う事も多いんですがクラスメイトはみんな優しいし有り難いです」

「ん、そうか。

ーーで、本音は?」


「ぇ、」


びっくりして先生を見ると、ニヤリと笑う顔。

「本音と建前ってもんは確かに大事だ。だがこの部屋では必要ない。放課後だし誰も来ねぇよ。ここ職員室からも離れてっしな」

あ、成る程。
ちゃんと俺自身の事を話せって…ことだよな……?


「……バレるんじゃないかって、まだ不安が…あって、あんまり上手く笑えてない…かも……」


「そうか」

言葉にすると情けなくなってしまって、下を向いた。

正直……ハルだった時の時間がバレたらどうしようというヒヤヒヤで、知り合い以外には極力自分から話しかけに行ってない。

イロハやカズマやハルが居てくれはするけど、でもやっぱり怖くて……
それに、もし何かしらのボロが出た時…俺の為に頑張ってくれたみんなの努力が全部水の泡になってしまう、から

だからーー


「……ったく、お前はなぁ」


「わっ!」


頭にポンっと乗った大きな手に、ぐしゃぐしゃぐしゃ!と髪を掻き回される。

そして、そのままわしっ!と頭蓋骨を掴まれ上を向かされた。

「おいアキ、いいかよく聞け?
俺はお前の何だ」

「せ、先生…です」

「先生だけど、それだけじゃねぇよなぁ?」

「たっ、担任の、先生」

「そう。担任だ。この意味わかるか?」

「へ……?」


「自分のクラスの全責任を、俺が持つってことだ」


「ーーっ、」


担任とは、自分の持っているクラスの責任を取る立場の先生のこと。

(でも、それは確かにそうなんだけど…それとこれとは違う気が……)

「はぁぁ…お前はなぁ、ちっと思考が大人びてんだよな。ハルも。
いいか? 学生ってのは親や先生に迷惑かけて当然なんだよ。まだ子どもだからな」

寧ろ迷惑かからない子の方が、将来どうなるかわかったもんじゃない。

「だから、お前も俺にたくさん迷惑かけろ。
大丈夫だ。別にボロが出てバレたって問題はねぇよ」

「で、も…もしそうなったら、絶対……やば、い」

「だからやばくねぇって言ってんだろうが。寧ろ俺はお前がパンクすんじゃねぇかって、そっちの方が大事だ。
いいか? バレたらそん時きゃそん時だ。別に誰もお前を責めたりしねぇよ。絶対にな」

そん、な……これは俺の…小鳥遊の問題なのに、どうしてそこまで庇ってくれるの?

ーー担任の先生、だから………?


「もし…もしバレたら、どうするんですか?」


「んーそうだな…… 

ま、それはそん時考えっか」


「はっ?」

え、嘘だろ。
そんな感じでいいの!? そこ結構重要だぞ!?

「ククッ、後ろ向きに考えてたってどうしようもなんねぇだろ。視点が下がってっからんなマイナスなこと考えんだ。おら、前向け前」

「え、でも、これはーーー」


「後ろは俺がサポートしてやっから。な?」


「ーーーーっ!」


強く笑われて、頭から手が離された。


「分かったら勉強に励め学生。時は金なりだぞ?」


「……っ、クスクスッ、あはははっ」


ドヤ顔する先生が面白くて…頼もしくて、笑いと一緒に涙が出そうになる。

(ほんっと、俺って恵まれすぎてんじゃないかな)

「そうだその顔だ。ったく辛気臭せぇ面しやがって……
お前は心配すんな。心配すんのは俺の役目だ。高校生活なんて短ぇぞ? 一瞬の光陰矢の如しってな。
だから、折角の学園生活しっかり楽しめ」

「~~っ、はい、梅ちゃん先生!」

「なっ、だからその呼び方やめろっつってんだろうが」

「あはははっ!」

先生には、俺の不安が丸わかりだったみたい。

担任の先生ってこうなのかな?
ちゃんと見てくれてて、なんだか恥ずかしいけど…嬉しい。

「おし、もう帰るんだろ? 誰か待ってんのか?」

「はい。イロハが教室に」

「そうか。気をつけて帰れよ」

「ありがとうございます、先生」

「ん、また明日。アキ」

俺たちが双子って分かった瞬間から、梅谷先生と櫻さんは下の名前で呼んでくれるようになった。
それが嬉しくて…まだちょっと聞きなれなくて。

初めて先生を見た時が懐かしいな。
やっぱり人は外見によらない。
こんないい先生、他にいないや。

明日からは、もう少し自分からクラスメイトに声かけてみようか。
警戒してるのが伝わってたのだろうか……でも転入してきたばかりってことになってるから、あんまり怪しまれてない?

ま、取り敢えず明日からはもっと笑ってみよう。

ちゃんと見てくれてる人がここにも居るんだって分かって、嬉しくなって。

そのままの緩んだ顔で、「失礼しました」と準備室を出た。






fin.


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