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中編: イロハ編
sideアキ: カズマの部屋で
しおりを挟む「……カズマ、大丈夫…?」
あの後、夕食とお風呂を頂いて。
レイヤたちと同じ部屋を用意されたけど、カズマのことが心配で一緒にカズマの部屋に泊まらせてもらうことにした。
まぁ、レイヤも「矢野元さんと少し話してくるから」とカズマのご両親の処へ行ったし、先輩も「同じ月森と話してまいりますね」と丸雛と矢野元の月森さんの処に行ったしで、どの道バラバラに過ごすことになったっぽいけど……
カズマは一向に下を向いたまま、夕食時も口を開くことはなかった。
チラリとハルと視線を合わせる。
ど、どうする…? そもそも、どうしてこうなってるの……?
イロハのことがショックだった?
丸雛の月森さんが丸雛を優先したことに、苛立ってる?
それは俺も苛立ったけど…でも月森の立場を考えるとなんとも言えなくなる……けれど………
丸雛の月森として、彼女の優先順位の付け方は正しかったのだと思う。
けれど、どうしてもイロハの友人として、その決断を肯定することはできない。
(ハル……)
同じことを考えてるみたいで、隣の顔が小さく頷いた。
「ね、カズマ。何に悩んでるのか…ショックを受けてるのか分からないけどさ、顔あげようよ。
苦しいかもしれないけど、カズマは1人じゃないよ」
そう、1人じゃない。
ハルがカズマの左手を掴むのと同時に、俺も右手を掴んだ。
「カズマ、俺たちだけじゃない。レイヤも月森先輩も…梅谷先生や櫻さんだっているよ。
後、佐古も」
「ぁ、そう、佐古くんもいたね!」
「……っ、さ、こ…?」
微かに反応があって、クスリと笑う。
「そう、旅立つ前言われたんだ。
〝丸雛の事付き合ってやれなくてすまねぇ〟って」
『丸雛の事、お前と一緒に〝待ってる〟つったのに付き合ってやれなくてすまねぇ。何か手伝えることあったら、連絡くれれば行くから』
別れる前、小声で「頼むわ」と約束した。
本当真面目というか人情味あふれるというか…いい奴。
「離れたけど、遠くで佐古くんも心配してる」
「連絡したら来てくれると思う。だから大丈夫、カズマは1人じゃない。
ね、だから…今何考えてるのか、話してみない……?」
口にすることで楽になることもある。
何かに答えが出ることもある。
ぐちゃぐちゃになってる考えを整理することができる時もある。
だからーー
「「それに、きっと今イロハはカズマのことを思ってるよ」」
これは、絶対的な自信。
きっと今…イロハは誰よりもカズマに逢いたくて、頑張ってる。
『全部が解決したら、今度はおれから告白するんだ』
『待たせてごめんね』って、『まだ間に合いますか?』って。
もうずっと待たせてしまっているカズマに、しっかりと謝ってから話をしたいと…後夜祭前の夜の噴水前で言ってた。
(っ、イロハ……)
あの時、もっと詳しく話を聞いてれば良かったのかな。
俺もあの時は自分の気持ちにいっぱいいっぱいで、気が回らなかった。
じぃ…っと、ハルと一緒にカズマを見つめる。
「………うん。あぁ…そうだな」
ポツリと、カズマの口から言葉が漏れた。
「悪い、心配かけて」
「んーん平気。ずっと一緒にいたもんね、当たり前だと思うよ」
「ゆっくりでいいからさ、何考えてたか話せるか…?」
「あぁ、大丈夫……悩みというか考え事というか、そんなんじゃないんだ。
どちらかというと〝後悔〟だな」
「「後悔……?」」
「あの時にこうしていれば…もっとあぁしておけばっていう後悔ばかりが押し寄せて来て、もうどうしようもない」
やっと顔を上げたカズマは、泣きそうな顔をして苦笑していた。
「でも、いくらそれを重ねた所でもう過去には戻れないし、やっぱり母さんに言われた通り心を落ち着けて前を向かなきゃいけないんだ」
いくつもの〝もしも〟を重ねても、過去はどうにもならない。
それよりは〝これから〟の話をしなければ。
頭では、ちゃんとカズマも分かってる。
ただ現実になると…いかんせん脳と心がバラバラになってしまうもので。
「なぁ、さっきは丸雛の月森が話しただろう?
次は俺が…イロハの話をしてもいいか……?」
「うん、勿論」「カズマとイロハの話、聞きたいな」
それで少しでも気持ちが軽くなるなら…前を向く原動力となるのなら。
「お茶を用意するよ」と席を立ったカズマを手伝う為、俺たちも立ち上がった。
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