ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
386 / 536
中編: イロハ編

sideアキ: 話を、聞いての……

しおりを挟む



(信じ…られない………)

要するに、イロハは男だけど家ではずっと女の子だったって事…?

それってなに? どういうわけ…?
丸雛の月森さんの判断で、丸雛側は社長であるイロハのお母さんを失わず救われただろうけど…ならイロハの気持ちは?

確かに、イロハはくるくるの柔らかい癖っ毛で、背だって低くてぱっと見女の子みたいだなって思うかもしれない。
でも体はちゃんと男の子で、心だってきっと男だったはず。

それ、なのに……
「周りと違う」って、「おれはおかしい」って自分で言ってたイロハの…心は?

ーーねぇ、イロハは丸雛の為に……犠牲になったの?



カタンッ

「すいません、遅くなりました」

「お邪魔しております」

「っ、ぁ……」

襖が開いて入ってきたのは、レイヤと月森先輩。

「こんにちは、龍ヶ崎さん。ようこそ」

「初めまして矢野元さん。龍ヶ崎レイヤです。よろしくお願いします」

軽く握手を交わすと、すぐにこちらへ来た。

「アキ」

「レ、イヤ…」

「ん。取り敢えず深呼吸しろ」

「ハル様もですよ。一旦目を閉じましょう」

「っ、せんぱい……」

隣に座ったその胸に、顔を押し付けられる。

(ぁ、レイヤの匂いだ…)

ガチガチに固まっていた体から力が抜けて、目の前の服を握りしめた。


ーー正直、心臓が冷えた。


俺と、重ねてしまった。
今でも思い出す…幼い頃の母さん。
俺の母さんは俺を怒っていたけど、イロハの母さんは笑ってたんだ。
イロハに、ただ笑いかけていた。自分がおかしい事にも気づかず、ずっとずっと……

俺たちの母さんは自覚があったけど、自覚も無くやられたら、されたほうはどんな気持ちなんだろう?
きっと、怒っても怒りきれないんじゃ……

「イロハは、今どうしてるんですか?」

ポツリとハルが聞く。

「今、ご自身の部屋に閉じ込められております……っ、」

「閉じ込め…ら、れて……」

イロハの母さんが是とするまで、部屋から出ることは出来ないらしい。

「そ、んな…っ、でも月森さんここまで来てるじゃないですか!ここに来るとき一緒にイロハも連れてーー」

「イロハ様に、拒否されてしまったのです」

「「………ぇ?」」


『カズマのところに?
んーん行かない。おれはここから出ないよ』

『イロハ様っ、ですが』

『スズちゃん、おれもう決めたんだ。
逃げないって言ったでしょ?』

『っ、』

『おれは、お母さんとちゃんと向き合いたいんだ。今まで逃げてた分、ちゃんと。
多分この機を逃したらおれまた逃げちゃうだろうからさ、ここにいるね?
大丈夫だよスズちゃん、心配しないで』

窓から伸びるイロハの手は、微かに震えていて

それなのに優しく…月森さんの頭を撫でたそうだ。


「私は、今までずっとイロハ様の心を顧みなかった。丸雛の為、ミサコ様の為、イロハ様を切り捨てた…っ、なのに、それなのに……っ!」

どうして…イロハ様はあぁも優しいの……?

「私はっ、わたし、は、っ、~~!!」

「スズ!」

声にならない声を上げ蹲る丸雛の月森さんを、矢野元の月森さんが支える。


「……うん。取り敢えず一時解散かな」

「そうね」

カズマのご両親が、静かに立ち上がった。

「後から来た2人は、襖の外から話を聞いていたかな?」

「気づいてらっしゃったんですね。入るタイミングが無かったもので、すいません」

「いいんだよ。
さて、この時間だと学校はもう終わっているね。皆さん今日は此処に泊まりなさい。まぁ、言わなくてもみんなイロハくんの事が解決しない限り戻りそうもないけどね」

「客室の準備をさせよう」と、一足早くカズマのお父さんが出て行った。


「ーーカズマ」


「…………」

「カズマ、私たちは貴方をその様に育てた覚えはありません。
〝これくらい〟で心を掻き乱して…お茶の世界ではどの様な事があっても心を落ち着かせるものです。
シャンと背筋を伸ばしなさい」

凛とした、カズマのお母さんの声。
先程から一言も言葉を発する事なく下を向いたままのカズマに、容赦なくかけられる。


「前を向きなさい。

強く、強くありなさい。カズマ」


厳しい言葉。
だが、その言葉はとても強くて、芯があって。

一向に顔を上げない息子を一瞥しながら、お母さんもまた…静かに部屋から出ていったーー





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

私の物を奪っていく妹がダメになる話

七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。 立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。

婚約破棄されまして(笑)

竹本 芳生
恋愛
1・2・3巻店頭に無くても書店取り寄せ可能です! (∩´∀`∩) コミカライズ1巻も買って下さると嬉しいです! (∩´∀`∩) イラストレーターさん、漫画家さん、担当さん、ありがとうございます! ご令嬢が婚約破棄される話。 そして破棄されてからの話。 ふんわり設定で見切り発車!書き始めて数行でキャラが勝手に動き出して止まらない。作者と言う名の字書きが書く、どこに向かってるんだ?とキャラに問えば愛の物語と言われ恋愛カテゴリーに居続ける。そんなお話。 飯テロとカワイコちゃん達だらけでたまに恋愛モードが降ってくる。 そんなワチャワチャしたお話し。な筈!

マルタン王国の魔女祭

カナリア55
恋愛
 侯爵令嬢のエリスは皇太子の婚約者だが、皇太子がエリスの妹を好きになって邪魔になったため、マルタン王国との戦争に出された。どうにか無事に帰ったエリス。しかし戻ってすぐ父親に、マルタン王国へ行くよう命じられる。『戦場でマルタン国王を殺害したわたしは、その罪で処刑されるのね』そう思いつつも、エリスは逆らう事無くその命令に従う事にする。そして、新たにマルタン国王となった、先王の弟のフェリックスと会う。処刑されるだろうと思っていたエリスだが、なにやら様子がおかしいようで……。  マルタン王国で毎年盛大に行われている『魔女祭』。そのお祭りはどうして行われるようになったのか、の話です。  最初シリアス、中明るめ、最後若干ざまぁ、です。    ※小説家になろう様にも掲載しています。

(完)お姉様の婚約者をもらいましたーだって、彼の家族が私を選ぶのですものぉ

青空一夏
恋愛
前編・後編のショートショート。こちら、ゆるふわ設定の気分転換作品です。姉妹対決のざまぁで、ありがちな設定です。 妹が姉の彼氏を奪い取る。結果は・・・・・・。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

異世界転生したプログラマー、魔法は使えないけれど魔法陣プログラミングで無双する?(ベータ版)

田中寿郎
ファンタジー
過労死したプログラマーは、気がついたら異世界に転生していた。魔力がゼロで魔法が使えなかったが、前世の記憶が残っていたので魔法のソースコードを解析して魔法陣をプログラミングして生きのびる・・・ ―――――――――――――――― 習作、ベータ版。 「残酷描写有り」「R15」 更新は不定期・ランダム コメントの返信は気まぐれです。全レスは致しませんのでご了承願います(コメント対応してるくらいなら続きを書くべきと思いますので) カクヨムにも連載しています。 ―――――――――――――――― ☆作者のスタイルとして、“戯曲風” の書き方をしています。(具体的にはセリフの前に名前が入ります。)あくまで “風” なので完全な台本形式ではありませんが。これに関しては私のスタイルとしてご了承願います。 個人的に戯曲が好きなんですよね。私は戯曲には抵抗はなく、むしろ面白いと感じるのです。 初めて読んだ戯曲はこれでしたね https://pandaignis.com/wp/66267.html 予想外に批判的な意見も多いので驚いたのですが、一作目を書き始める直前に、登場人物が8人も居るのにセリフの羅列で、誰が発言してるのかまったく分からないという作品を読みまして、このスタイルを選択しました(笑) やってみると、通常の書き方も、戯曲風も、どちらも一長一短あるなと思います。 抵抗がある方も多いようですが、まぁ慣れだと思うので、しばらく我慢して読んで頂ければ。 もし、どうしても合わないという方は、捨て台詞など残さずそっと閉じ(フォローを外し)して頂ければ幸いです。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...