322 / 536
真実編
sideアキ: 仲直り
しおりを挟む「……ん、んぅ………」
ふと、意識が浮上する。
(ここ、どこだろ………)
見覚えのない真っ白い部屋に寝かされていて、訳もわからずぼぉっとする。
「ぁ、アキ……?」
「…………ハ、ル…?」
「っ! アキ!」
パッと視界に見知った顔が入っていて、涙目で笑っていた。
(あれ? 俺、何してたんだっけ……)
確か、学校の屋上で寝てたらレイヤが来てくれて……それから屋敷に帰って、そしたらみんながいて……それからーー
「ーーーーっ!!
わっ、」
「ぁ、ちょっ、アキ」
ガバッと起き上がったのに全然力が入らなくてふらついてしまう体を、ハルが支えてくれる。
「ハ、ル…ハル、だいじょうぶ……っ?」
(あんなに…血、吐いてた……)
「僕は大丈夫だよ、あんなの慣れっこだからねっ。まぁまだちょっとクラクラするけど、でも平気」
「っ、」
力強く笑うハルに、安堵して泣きそうになる。
「俺…どれくらい、寝てたの……?」
「丸2日かな。新しい場所じゃあんまり寝れてなかったみたいだね……」
「…ぅん。大きな雷が鳴って、それから、全然……」
「そっか…もう大丈夫だよアキ」
「ん、ありがとハル。ね、此処どこ……?」
「病院だよ。あの後僕らが運ばれた処」
「びょう…いん……」
「ふふっ。まだぼぉっとするねぇ、よしよし。
取り敢えず、アキが目覚めたら知らせるように言われてるから先生呼ぶね」
ハルの手が、近くにあるナースコールを押した。
「うん、君には今週いっぱい入院してもらおうかな」
「ぇ、」
病室に来てくれた年配の医者が、微笑みながら頷いた。
「このところ、体重が急激に減ったり増えたりしているだろう? 心当たりあるよね?」
「ぁ………」
(文化祭と、屋根裏部屋の雷……?)
文化祭では、ストーカーに嫌という程追い詰められて食べ物が喉を通らなかった。
それからハルと入れ替わる為たくさん食べて何とか体重を元に戻して、でも結局屋根裏部屋での雷の所為でまた食べれなくなって……
「だからね、君の体は少しびっくりしているみたいなんだ。
この辺りで一度しっかり落ち着いて、休んだ方がいい」
「は、はぃ、わかりました……」
「先生、僕も一緒にいていいですか?」
「勿論。この子が不安だろうからね、一緒にいてあげなさい」
「有難うございますっ!」
「それじゃあ、何かあったら直ぐに知らせるように。また来るね」と言って、先生は静かに出て行ってしまった。
「いい人だね」
「ね、優しいお医者さんだね」
「俺たちのこと知ってるの?」
「分かんない。月森さんが話をつけてたけど……多分良いように言ってるんじゃないかな」
「そっか」
月森さんの事だ。恐らく俺たちは首を突っ込まない方がいい。
「ね、ハル」
「ん?」
「ハルもこっち来て、一緒寝よう?」
ベッドの端にずれて、空いたスペースをポンポン叩いた。
「ハルもまだ本調子じゃないでしょ? さっきまだちょっとクラクラするって言ってた」
「っ、ふふふ、そうだね。じゃあお邪魔する」
スリッパを脱いで、同じ病院用の服を着た体が楽しそうに潜り込んでくる。
「なんか久しぶりだね、こういうの」
「うんうん、本当に久しぶり……
ぁ、ってか、俺ハルに謝らなきゃいけないことがあっtーー」
「あっ、ちょっとストーップ!」
続きを言おうとする俺の口を、ハルの手がもごっと抑えた。
「喧嘩のこと……だよね?」
「ん、ん!」
「あれはさ、もういいよ。僕もついカッとなっちゃって……
でもアキの言い分ね? あの後考えてやっと分かったんだ。アキも、どうして僕が怒ったか分かったんでしょう?」
コクコクッと頷くと、笑って手を離してくれる。
「……ハルは〝俺がみんなにちゃんと愛されてるよ〟って言いたかったんでしょ?」
「うん、そう。
アキも〝僕はひとりじゃないよって…ちゃんと愛されてるんだよ〟って言いたかったんだよね?」
「うん、そう」
ベッドへ横になったまま互いに両手を繋ぎあって、コツンとおでこをぶつけた。
「あの時は全然わかんなかったけど……ちゃんと分かったよ、ハルの言い分」
〝みんなが、ハルの中の俺に気づいてくれていた〟
この事実をレイヤが教えてくれたからこそ、分かることができた。
(俺は、ひとりじゃなかったんだ……)
ずっとずっと独りよがりだと思ってた。
みんなの思い出の中にいるのは俺じゃなくハルであって、だから俺はひとりだって……
でも、そんなのはただの思い込みだった。
だからみんなは本物のハルと入れ替わった時違和感を感じてくれたんだ。
「僕も、みんなと初めて会って分かったんだよ。みんなに本当の事を言っても、ちゃんとみんなの中にハルが…〝僕〟が残ってたんだ。
あぁ、僕1人じゃなかったんだなぁって…本当に涙が出ちゃって……
あ、あのね? イロハとカズマが友だちになってくれたんだ!後タイラも。みんなみんな凄くいい人たちだね」
ふふふと一緒に笑いあって。
「ごめんなさいアキ、僕強く言っちゃったね」
「んーん、俺もごめんなさいハル。傷つけちゃったね」
「おあいこでしょっ。
ね、喧嘩なんて初めてしたね」
「そうだな、これからもっとするのかな」
「してもこうやって仲直りしていこうね?」
「うん、するっ」
今は、まだお昼の時間帯。
みんなは学校に行っていて、「終わったら来るって言ってたよ」とハルが教えてくれた。
「ふ、あぁ……
なんか、安心したら眠くなってきた………」
「ん、僕もねる……」
布団をかけ直して、互いに身を寄せ合って手を握りながら
ストンと、一緒に眠りに落ちて行ったーー
***
このシーンの挿絵を「まりぃさん」・「なぁさん」よりいただいています。ありがとうございます!!
・まりぃさん
・なぁさん
0
お気に入りに追加
353
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる