ハルとアキ

花町 シュガー

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反撃編

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今、なんて………?

父さんの顔が、嬉しそうに微笑んでいた。

「あぁ、充分〝足りた〟な。
そう思わないか月森?」

「そうですね。もう充分すぎるかと」

「クスッ、いやぁ大分予想はしていたんだがな。レイヤくんとヒデトくんにはやられた」

「T・Richardsonが出てくるのは流石に予想がつきませんでした。表情からして皆さんも同じのようですが」

「まさかのどんでん返しだ。ハハッ、実に面白い」

(ぇ、え?)

目の前で楽しそうに2人が喋ってるのを、呆然と見つめる。


「アキっ」


「っ、ハル……」


パタパタとハルが近づいてきて、俺の腕をキュッと握った。

(ぁ………)

握られたところから懐かしさがこみ上げてきて。

「ハ、ル……っ」

「っ、アキぃ……」

泣きそうな顔をしたハルに見つめられる。
多分、今俺も同じ顔をしてるんだと思う。

「「~~っ、」」

言わないといけないことがたくさんあるのに、どれも言葉にならなくて。


「小鳥遊社長」


そんな俺たちの後ろから、レイヤが声をあげた。

「〝足りた〟とは、どういう意味でしょうか」

「そうだね。
〝ハルとアキを守るに値する力があるかどうか〟といった意味かな」

「守るに、値する……?」

「あぁ、そうだ」

コツ コツ と父さんが俺たちに向かって静かに近づいてくる。

「既に知っているだろうが、私はもう随分と長いこと2人に辛く寂しい思いをさせてしまっている。
守る為には仕方のない事だと…この子たちは互いが互いを支え合っていけているから、私はもう一つの方を集中して支えようと、そう思っていた。

だが……」


コツンと、目の前で止まった。


「現状は一向に回復せず、それどころか悪化する一方。
龍ヶ崎を婚約者に選んだのは、そんな現状を打破する〝何か〟を外部からもたらしてくれるのではないかと思ったんだ。君のヨミ通り、私は君の父親と交わした短いあの会話を覚えているよ」

「やはり、そうだったんですね」

「あぁ。あんなに面白い人物に会ったのは久しぶりだったからな。忘れるわけがない。

ーーねぇ、ハル」


「は、はぃ」


「私の書斎や部屋を調べ尽くしているのは前々から知っていた。お前が皆んなをここまでまとめあげ、今日此処へ来る計画を立てたのか?」

「そう…です。でも、みんなもたくさん、手伝ってくれました」

「クスッ、そうか。 ーーねぇ、アキ」


「は、はぃ」


「お前が、レイヤくんやヒデトくんをここまで変えたのか?」

「俺が変えたのかどうかは、分かりません……
でも、いっぱいぶつかっていっぱい話をして、たくさん…同じ時間を一緒に過ごしました」

「うん、そうか。

ーーーー本当に、2人ともよく成長した」


「「ぇ?  ーーわっ、」」


ポンっと、頭に大きな何かが乗っかる。

驚いて見上げると……それは、父さんの手で。


「ーーーーこんなにもいい息子〝たち〟なんだ。

もういい加減、私たちの元から解放してあげたくてね。
その為に、君たちにはどれだけの力があるのかを見させてもらった」


ニコリと父さんがみんなを見ながら微笑んだ。


「2人を思う気持ちはよく伝わった。だが、感情論だけでは時として守れない場面も出てくる。
そんな時、力となるのは権力だ」

丸雛、矢野元、月森、龍ヶ崎、更にT・Richardsonまで加わった。

「龍ヶ崎までは予想していたのだが、2人を任せるにはもうひとつ何か大きなものが欲しいと思っていた。そして今、そこに申し分ない家が味方に付いている。これほどまでに完璧な事は無い。

私は、安心して息子たちを任せる事ができる」

「貴方が、アキたちと一緒にいるという選択肢は……」

「無いな。これまでもそうしてきたが、両者を苦しめる一方だ。残念ながら私までがそちら側に付いてしまうと、愛しい者がひとりになってしまうのでね。私はこちら側に残るよ」

「「っ、とお…さん……」」

「ハル、アキ。これまで辛く寂しいをさせてしまったな。今も、驚かせてしまった。 だがね? 私にも意地があるんだよ。

ーー大切な息子達を任せるんだ。生半可な気持ちでいられたら困る」


「「ーーーーっ!」」


〝大切なハルを任せるんだ。生半可な気持ちでいてくれたら困る〟
その言葉は、俺が1番はじめにレイヤに抱いていた思いと、全く一緒で。

(父さんも…こんな気持ちだったの……?)


「~~~~っ、」


思いが言葉にならなくて、声が出てこない。



「話そう、全てを」

「っ、いいんですか……?」

「あぁ、もう充分だ。この子たちの為にも、これからの未来の為にも……

〝今〟話すべき時が来たのだろう。 ーーアキ」

「は、はぃ」

「これまで隠していてごめんね。全てを話し終えたら、お前を正式に告知しよう」

「ーーっ! いい、の……?」

「あぁ、いい。
もうお前には私の他に守ってくれる存在がいるからな」

「~~~~っ、アキっ!」

「わっ、ハル…っ、ハ、ル……」

涙声のハルにガバッと抱きつかれて、俺もじんわりと視界が滲む。


「………さて、立ち話はなんだ。

とても長い話になるんだ。そこのソファーに座ってくれないか? 月森、皆んなにお茶をーー」





「ーーーーあら?

何を、しているのかしら?」




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