ハルとアキ

花町 シュガー

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リクエスト番外編 1

その3: 佐古と外のダチの話

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◯リクエスト
佐古と外の友だちの話を、出会いから
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※アキがハルとして生活している時の時間線です。



【side 佐古】


「お!佐古じゃん!!」

「よぉ」

「うおー久しぶりだな!」

「なになに、最近来てねーからもう来ねぇのかと思ったわ」

「何言ってんだ、まだ居なくなんねぇよ」

いつもの溜まり場に行くと、いつも通りのメンバー。
知らない顔もちらほらあるが気にせず話をしていく。

こいつらの場所は、居心地がいい。

〝来る者拒まず、去る者追わず〟

余計な詮索はせず、誰でも全て受け入れて楽しむ。
別に居なくなっても誰も追うことをしない。
それがこいつらのスタンスだ。

「今日どーするよ」

「んんー久しぶりに佐古いるしな…散歩でもしに行くかぁ!」

「いいね、行こ行こ!!」

賑やかだなと眺めていると、グイッと肩に腕を回される。

「よぉ佐古じゃん!久しぶりだなぁ!!」

「よぉ、久しぶり」

「なに、がっこー抜けて来てよかったの?」

「最近クソ真面目だったからな…金曜の夜くらいなんて事ねぇだろ、明日休みなんだし」

「ほぉぉそっかぁ!じゃぁまたがっこー戻るときは乗せてってやるよ」

「サンキュ」

「あっはは!いいってもんよ!!」

よく笑うこいつとは、何となく1番仲がいいと思っている。

「何なら迎え行ってやろうか? 来るとき連絡入れろよ」と言われたが、それは流石に断った。

(お人好しなんだろうな、バイク持ちだからよく後ろ乗せてくれるし)

いつも明るくて周りには人がいるような奴だ。

「おっし!じゃぁ行くか!!」

仕切ってる奴の一声で、皆んなが一斉に動き始めた。





思えば、こいつらの輪の中に入ったのはいつだった?

あぁそう、あれは中2くらいだった筈。
やっと外の世界の夜のルールが分かってきはじめて、俺自身も強くなってきた頃。
たまたま出会ったこいつらに声をかけられたのが、始まり。

『よぉ!お前最近有名になったやつだよな?』

『本当だ!赤髪の一匹狼だ』

『ピアスもクソついてるし制服はあの金持ちのとこのだし、お前だな』

『……あぁ? 誰だテメェら』

やんのか?と拳を固めると『ちげぇちげぇ!』と腕でばつ印を作られた。

『なぁ、お前いつまで1人でいんだよ』

『良かったら俺たちんとこ来ねぇ?』

『は?』

『他のチームと違って、別に余計な詮索とかしねぇよ?』

『深くまで知ってもだりぃだけだしな』

『来る者拒まず去る者追わずだしぃ? 別に合わねぇと思ったら抜けてくれてもかまわねぇし』

当時1人で外をうろついてた俺は、よくチームへの誘いが舞い込んできてた。
だが、1人になりたくて外へ出たのにチームなんぞにまた縛られてたまるかと、その全てを断っていた。

(こんな言い方で誘われたのは、初めてだな)

『……辞めとく』

ま、入る気ねぇけど。

『そっか。まぁ俺らこの辺によくいるからさ、気が変わったら来いよ』

驚く程あっさりと身を引いてわいわい去って行くあいつらにビックリして、思わずあのチームの顔を覚えてしまった。



(それから、確かちょくちょく会うようになったんだよなぁ)

街ですれ違っては『よぉ赤髪!』『今日もやってんなぁ』と声をかけられた。
敵意は全くないのでフル無視して、手を振られても振り返すことは無かった。

そんな時、大きなケンカをふっかけられた。

俺が前に断ったチーム。
やたらプライドが高いチームだったらしく、俺が断ったことに腹を立てチーム全員で襲いかかってきた。

(1対なんだよっ、これは!)

お前ら俺より年上だろ?高校生とかじゃねぇのかよ。
ちょっと大人気なさすぎなんじゃねぇの?

ーーあぁ、こんなクソみたいな奴らには負けたくねぇ。

腹の底から沸き立つ闘志に、思いのまま拳を奮った。


『っ、はぁ…はぁ……』

(後、何人だ?)

地面に転がる奴らを踏みつけながら、まだ立ってる奴らを睨みつける。

はっきり言って、数が多すぎた。
体はとっくの昔に限界を迎えていて、握りしめている血に濡れた拳には、もう感覚がない。

『流石に強えぇな、赤髪。ーーだが』

『っ!?』

ザリッ…と後ろで音がした。
瞬時に振り向いたが、もう遅い。

『これで終わりだぁぁっ!』

鉄パイプを持った奴が、大きくそれを振りかぶっていた。

(これをもろに食らったらやべぇ!)

顔を前で腕をクロスして、何とか頭だけでも守ろうと防御に入る。

だがーー


ガキィィンッ!!

『は……?』

鉄同士のぶつかる、大きな音。
慌てて目を開けると、そこにはいつものあのチームの奴が、鉄パイプで襲いかかって来るそれを受け止めていた。

『おいおい、こんな大勢で1人を襲っといて流石に鉄パイプはねーんじゃねぇ…の!』

突然の事に気を取られていた敵の腹を思いっきり蹴飛ばして、クルリと笑いながらこちらを見る。

『よぉ、派手にやってんなぁ』

『なんで…ここに』

『こんだけデケェことしてたら誰だって気になって見に来ちまうよ。ほら、俺以外にもいんぞ』

『よー赤髪!』

『やっべぇな、お前これ1人でやったのかよ!!』

『な…お前ら……』

どんどん どんどん。
気がついたらあのチームの奴らが全員目の前にいた。

『おい!!なんだテメェらは!』

『これは俺たちの〝喧嘩〟だ!部外者が横から首突っ込んでんじゃねぇ!!』

『ーーへぇ、〝喧嘩〟ねぇ』

『1対何人だよ、これ』

『ははっ、流石に喧嘩じゃねぇだろ。笑わせんな』

『〝リンチ〟って言葉の方が正しいぜ? まぁ、見事に失敗してるみてぇだがなぁ??』

『っ…の野郎が……!』

(不味い)

奴らの矛先がこいつらに向いていくのが分かる。

『っ、おい、お前らーー』

『赤髪。俺たちにカリ作っとけ』

『お前もう戦えねぇだろ、そんな拳じゃ』

『とりあえずカリ1な!そこで見てろよ』

『は? って、おい!』

一斉に飛び出していく奴ら。
俺も後に続こうと足を上げたが、それを元に戻した。

(ーーーー強い)

一人一人が無駄なく動いていて、ただ強かった
どんどん敵チームの奴らが倒れていく。

こんなに強いのに、何であいつらは有名じゃねぇんだ?
あんまり喧嘩をしねぇから?
何で喧嘩しねぇんだ?その為のチームなんじゃねぇのかよ……

考えてる間に、バキィッ!と此処一番の大きい音を立てて敵のトップが殴られ、沈んでいった。

『はい、しゅーりょー』

『おい赤髪、行くぞ!』

『は?』

『怪我とか手当てしてやるよ。それじゃあの金持ち校に帰れねぇだろ』

『っ、』

(確かに……)

カリを作ってしまった事もあってこいつらに頭が上がらなくなり、しぶしぶついて行った。



『『『乾杯ー!!』』』

『は?』

怪我の手当てをしてもらった後、『おし!行くぞー!』とグイグイ引っ張られて、たどり着いた飯屋。
『ひっさびさ動いて腹減ったわー!なんか食わして!!』と声をかけているあたり、多分奴らの溜まり場かなんかなんだと思う。

『いやぁ…にしてもやっぱお前強えぇな!俺たちが来る前にあんだけ倒してたのか!!』

『あれ、ここらじゃ結構上のほうのチームだったよな?』

『お前怖いもん知らずかよ!やべぇわ本当、ぶっ飛んでんなぁ!!』

わいわい声をかけられ、何故かナチュラルに馴染んでしまってる感じがする事に違和感を感じながら聞いてみる。

『お前らだって充分強えぇじゃねぇか。何で喧嘩しねぇんだ』

(何でこんなに強いのに、のし上らねぇんだ?)

『いやだってさ、別に俺ら暴れたくてつるんでんじゃねぇの』

『そう。まぁ確かにたまには喧嘩してぇなぁー!ってなる時はあるけどさ?』

『どっちかというと、

ーー〝居場所〟が欲しいんだよな、俺たちは』

『っ、』

ドクリと、心臓が鳴った。

〝居場所〟が欲しい。

(確かに、俺もあの学園に自分の居場所が何処にもなくて…馴染めなくて外へ飛び出してきた)

もしかして、形は違えど似たような境遇なのか……?

ストンとこのチームをまとめてる奴が隣に座ってきた。

『夜に飛び出してくる奴らはさ、大抵昼間の人生に何か抱えてんだよ。それで飛び出してくんの』

『でもさ』と咥えてたタバコを口から離しフゥーっと煙を吐く。

『いつかはさ、それと向き合っていかなきゃいけねぇじゃん?俺ら』

人間、いつまでも逃げられないものだ。
人生における大きな壁を乗り越えるか、それを避けて他の道を行くか……
その決断を何回も何回もして、人は生きていく。

『どうせ俺たちもこんな馬鹿やってっけど、真っ当な人間になってくんだよ、いつかは』

いつまでも夜の世界を抜けれず喧嘩ばかりしてる人たちだっているが、このチームにはそんな奴らはいないのらしい。

みんなそれぞれに何かを抱えてて、乗り越えたら知らないうちに顔を見せなくなる。
そして、そのまま何も言わずにいなくなるのだそうだ。

『そんなチームなんだよ、俺らは。居たけりゃ居たいだけいて、楽しむだけ楽しんで、それからまた昼間の生活と戦って……
区切りが着いたら何も言わずに去っていく。余計な詮索はしねぇし、まぁ居心地だけはいいとは思うぜ?』

わいわい盛り上がってるメンバーを見ながら、ニヤリと笑いかけられた。

『お前に声かけたのも、何か考え方が俺たちに似てそうだなと思ったからなんだけど…どう?あってるか??』

『まぁ答えなくてもいーけどな。ははっ、乗り越えれるといいなぁ、お前も俺も、あいつらも』と呟いてメンバーの輪の中へと戻って行った。




(それから何となくあのチームの事が気になり始めて、何回か一緒に暴れて飯食って、ーーそれから今、か)

俺が来てから、このチームも大分メンツが変わった。
このチームにいた奴らは本当に何も言わずに来なくなる。
だが、誰1人余計な詮索はせず消えて行った奴らの話をする事もない。
その時その時をただ全力で楽しんでいる…そんなチームだった。

(だから、喧嘩も強いんだろうな)

それぞれにタイムリミットがあるからこそ、だらだらと夜の世界に入り浸ってる奴らよりその一瞬にかける思いや楽しさが強いのだろう。

俺を誘ってくれたチームをまとめていた奴も、知らぬ間に居なくなっていた。
今チームをまとめてる奴に、一言「後はよろしく頼むわ」と言い残していったらしい。
年齢的に、今はどっかでリーマンとかしてんじゃねぇだろうか?

(俺も、いつかは乗り越えれるのだろうか)

あの学園の事にクラスの事、それから……家族の事も。

まだ、今は分からない。
だがその兆しは、同室者のあいつによって見え始めているような気がする。


だから、


だから今は、もう少し


(ここでこいつらと、馬鹿やっててぇなぁ)


「おい佐古!行くぞー!!」と声をかけてくれるあいつらに、

俺は、笑って「おう」と返したーー





fin.





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