ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
290 / 536
準備編

sideレイヤ: 龍ヶ崎の思惑と決意

しおりを挟む




「ーーは?」


「ふふふ、以上だよレイヤ」

「なんだ、それ……
お前ら、そんな昔から小鳥遊の息子と俺を会わせる為に動いてたのか?」

「うん、そうなるなぁ」

「シェア独占して業界1位になって、次の目標は小鳥遊と提携を兼ねた婚約だった…てのか……?」

「そうだね。業界は違えど、私はあの企業をライバル視していたよ。向こうもそうだったかもしれないが」

「それで両者一歩も譲らず1位であり続け、遂に婚約を兼ねての提携を結んだ、と」

「そうなんだよ!いやぁ長かったなぁ。ずっとラブコールしていたんだよこっちは。うちも小鳥遊も有名企業だからね、婚約兼ねての提携なんて結びたい会社は引く手数多だ。その中から龍ヶ崎が選ばれた時には、もうそれは喜んだものだ」

「ねー!」と互いにニコリと笑い合う両親。

(おいおいおいちょっと待て。って、ことは……)


「要するに、俺はお前の手の中でずっと転がされてるだけだった、と」


「クスクス、そうかもしれないねぇ」


(なんて奴だ)

前々から親父は食えないタヌキのようだと思っていたが、まさかここまでだったとは……

小鳥遊とめでたく婚約者の関係を勝ち取り、
小鳥遊の子と俺を会わせ、
それによって俺の心は驚くほど変化した。

(全てが、親父の思惑通りに動いたってわけか……?)


「でも、果たして転がされてるのはどっちだろうねぇ」


「は?」

「もしかしたら、転がされているのは私たちの方かもしれないよ、レイヤ」

相手はあの小鳥遊の社長だ。
腹の底など、まるで見えない。

もし、小鳥遊に何らかの憶測があって、その為に龍ヶ崎と提携を結んだとしたら?

「利用されているのは、こちらかもしれない。

ーーだがね、レイヤ。 
私は、これは恐らくいい展開だと思っているんだ」

「あぁ? なんでだよ」

「小鳥遊は〝守り〟に入っている。あの子が正式に公言されてないところを見ると、もうずっと。
いい加減にこの現状を変えたいと思っているのではないかな?その為に〝攻め〟である龍ヶ崎が使われたのだとしたら、それはとてもいい事だ」

〝守りの小鳥遊と、攻めの龍ヶ崎〟
その話をあの社長が覚えていて今回使ったのだとしたら、それは絶好の好機だ。

「クスッ、ねぇレイヤ。
小鳥遊はどうして〝小鳥遊び〟と書いて〝たかなし〟と読むか知っているかい?」

「小鳥が遊べるとこにはタカが来ねぇから、安心だって意味だろ」

「そうだね、タカがいないから安心して小鳥が遊べる。だから〝小鳥遊〟。

ーーいやぁ、まさかそんなところにタカどころじゃなく〝龍〟が出るなんてなぁ。

実に面白いことだとは思わないかいレイヤ?」


「……そうだな」

ニヤリと笑う親父を眺めながら、ひたすらに思考を張り巡らす。

親父の話の中にあった〝愛は人を変える〟という言葉。
それは、俺自身も身を持って実感した。

『空っぽのような心は、愛によって驚くほど彩られていくものだ。人生とは、そのように出来ているのかもしれませんね』

(あいつらの親父の言葉にも、納得ができるな)

どうしてここまで似ている家同士なのに、こんなにも違うのか……

「ハル君は〝夫人があの子を嫌っている〟と言っていたんだよね? それと夫人の薬の件」

「そうだ」

「ふむ…我々は小鳥遊には〝何か大きな出来事があって、何かを守ってる〟ということしか掴めてはいなかったが、もしかしたらそれが〝夫人〟なのかも知れないね」

「…〝あいつらの母親からあいつを守る為〟に、正式に公言してないとか……」

「うーん…どうして公言しないことが守ることに繋がるんだろうねぇ……」

(意味が、分からない)

だが、少し。

後もう少しで、集まったピースたちがはまりそうーー


「…とりあえず、我々はここまでかな。後はレイヤ次第だね」

「あぁ、望むところだ」

いい情報が聞けた。

・小鳥遊には何か大きな出来事が起こったということ。
・それによって、小鳥遊は前に進むことを辞めて守りの体勢に入ったということ。
・あいつの事を正式に公言していないのは、何かから守る為である可能性が高いということ。

ここまで聞ければ、もう充分だ。



「……ねぇ、レイヤ」


ずっと黙っていたお袋に、ポツリと名前を呼ばれる。

「ん?」

「あの子の名前は、何て言うのかしら? 私たち、あの日結局名前を聞けていなくて……」

「〝アキ〟だ」

「そう、〝アキくん〟って言うの………」

噛みしめるようにそう呟いたその瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちた。



「いい、名前ねぇ……っ」



「っ、」


(後、少しだった……)


『お前ってさ、春(ハル)より秋(アキ)って名前の方が、しっくり来るよな』


後、もう少しでお前に気づくことができた。

なのにーー


ギリッ!と奥歯を噛み締めながら俯く俺を、ふわりとお袋が抱きしめた。

「ねぇ。全てが終わったら、たくさん呼んであげましょうね」

「っ、あぁ」

「たくさんたくさん…もう耳にタコができちゃうほどに、いっぱい呼んであげて…甘やかしてあげて……っ」

「~~っ、」

(くそ、)

お袋のが移ったのか、俺もじんわりと視界が滲んでくる。

「レイヤ。これから皆んなと小鳥遊へ行くんだろう?」

「っ、そうだ」


「龍ヶ崎の、全てを使ってくれてかまわないよ」


「ーーぇ、」


驚いて親父を見ると、その顔はニヤリと笑っていて。


「大事な大事な私たちの息子が、人生で大一番の勝負に出るんだ。あるものは全て使って挑みなさい」

「会社のことなんてね、気にする必要ないわっ。どうせこの人がなんとかしてくれるんですから!」

「っ、」


(あぁ……)


思えば、いつだって両親は自分を応援してくれていた。
やりたい習い事は全部させてくれて、辞める時も辞めさせてくれて。

(暖かいな)


ーーなぁ、アキ。

俺がこんなことに気づけたのも、全部お前のお陰なんだぜ?


「ありがとう、親父、お袋」


(これで、全てが整った)

目頭をグッと抑えて涙を拭い、ニヤリといつもの笑みを浮かべる。


「行っておいで、レイヤ」


「ハルくんとアキくんを、救ってらっしゃい」


「ーーあぁ、任せろ」


(待ってろ、アキ)


今から、ハルやみんなと共に



ーーーー助けに、行くからな。















[準備編]-end-

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

処理中です...