ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
280 / 536
準備編

sideレイヤ: 俺の覚悟

しおりを挟む


『初めまして、龍ヶ崎 レイヤさん』

『僕は貴方をまだ婚約者とは認めておりません』

『シャンデリアの蜘蛛の巣お願いしますね!会長サマ』

『貴方、馬鹿ですか?』

『メダルなんてっ、貰ったの、初めてで……』

『なんて顔してるんですか、会長らしくもない』

『こわっ、怖くないから…だから、はなれてっ』

『花火、初めて見ました…綺麗……』

『ぎゅって、してくださいっ』


『貴方が好きです。レイヤ』



(俺はーー)






「あ、小鳥遊様と龍ヶ崎様だ!」

「こんにちは!」

「クスクスッ、こんにちは。元気ですねっ」

「そうなんですよっ、実は小鳥遊様に報告しなきゃいけないことがあって!あのーー」

2人で風紀室へ書類を出した帰り道、ハルの親衛隊だろう奴らに囲まれた。
テンション高めにわいわいと話しかけられて、和かに会話を返すこいつは一見何もない普通のハルだ。

それなのに、まさかこいつが今までのハルじゃないなんて誰が想像するだろうか。

「またお話しさせてくださいねっ!」と去っていく奴らに手を振って、見えなくなったとこでクルリと俺の方を向かれる。

「ちょっと、もう少し愛想よくしたらどう?」

「っ、」

「僕ら一応恋人同士なんだから、そんな仏頂面だと怪しまれるでしょっ。そ・れ・に、もっとシャンとする!そんなんだと〝アキ〟戻って来た時悲しむよ!」

「全くもう…ほら帰るよー」と先に歩き始めるこいつを、ただ見つめた。



〝今までハルだと思ってた奴は、ハルじゃなかった〟


聞いた時にはそれは驚いたが、一晩眠ると一気に自分が馬鹿らしくなった。

(はっ、俺今まで何やってたんだ一体)

ハルじゃない奴をハルだと信じ込み、ただただ一心に思い続け……愛を囁いた。

それなのに、そいつはハルじゃないとか…馬鹿じゃねぇの?

今まで俺が言ったきた言葉たちは、この想いたちは、


ーー全て、意味が無いものだったのか……?



「はっ…まじ笑える」


あいつに「内面を見てほしい」と言われて、内面を見るようになった。

そしたら、世界が一気に色づいた。

そこには、たくさんの感情と気づかなかった想いがあった。
お前の内側だって…ちゃんと見れていたと思っていた……

なのに、


『お前ってさ、春(ハル)より秋(アキ)って名前の方が、しっくりくるよな』


(あの時の、涙の意味は………)


なぁ、〝お前〟の気持ちは一体どうだったんだ……?







パタンと生徒会室のドアを閉め、そのまま自分の席に座る。

隣には、あいつの机。
でも座ってるのはあいつじゃない。

(意味わかんねぇ……)

この前、生徒会室で本物のハルから全てを聞かされた。
それに対して、俺はまだ自分の答えが出せていない。

理由は簡単。


ーー怖いのだ、あいつの気持ちが。


(ハッ、俺いつからこんなに弱くなってんだよ……)

あいつの外見が、好きだった。
でも、どんどん知っていくうちに外見なんてどうでもいいくらい内面が好きになった。

強いのに弱くて、厳しいのに優しくて、脆くて儚くて……

それなのに、そんなあいつは俺に嘘を吐いていた。
本物のハルの為の、嘘を。

(なぁ、一体どこまでが嘘だったんだよ)

俺への想いは?
嬉しそうなあの声は?
恥ずかしそうなあの表情は?

『貴方が好きだ』と言ったあの言葉は、本心か?

それとも、あれもーー


(っ、くそ……)


「あいつに会って真実を聞くのが怖い」なんて、本当どうにかしてる。
俺、いつからこんなに弱くなったんだ。
恋は…愛は、ここまで人を変えるものだったのか……



「ーーねぇ、レイヤ」


「……んだよ」


あいつそっくりな声で、名前を呼ばれる。

「何を迷ってるか知らないけどさ、いい加減シャキッとしたらどうなの?」

「は?」

「そんなんだと、いつまで経ってもアキは帰ってこないよ」

「っ、てめ」

(そんな事、言われなくても分かってる)

でもまだ一歩が踏み出せなくて、そんな自分に酷くイラつく。


「はぁぁ…しょうがないなぁ……
本当は答えが出るまで待ちたいけど、でもそんな時間ないから。

ねぇ、レイヤ。1つヒントをあげるよ」


「は? ヒン、ト……」


「アキが僕としてレイヤに想いを伝えた日は、いつだったの?」

「……文化祭の、後夜祭の日だ」

「その時のアキは、どんな仮装をしてた?」

「白い魔女だったな」

「白い魔女の、意味は?」

(意味……?)

あぁそう言えば、あいつの選んだ仮装が珍しくてあの後調べたっけ。

確か、意味はーー



「〝嘘を吐かない〟、いい魔女という意味だ」



(…………嘘を、吐かない?)



ちょっと待て。

あの時のあいつは、何と言っていた?


『今日だけは、白い魔女のように…なりたいから』


確か、そう言っていた。

もしかしてそれは……〝今日だけは嘘を吐きたくない〟という意味だったのか?

(いや、だが………)

後夜祭のルールは、誰か1人にだけ嘘を吐いていいというもの。
もし、その1人に俺を選んでいたとしたら。

あいつは「俺には吐いていない」と言っていた。
でも、それすらも嘘だったとしたら……?

分からない…あいつの本当の気持ちが。


「ねぇ、レイヤ。ここからがヒントだよ」

「?」

「後夜祭が終わってから屋敷に帰って来た時ね、僕、アキに言われたんだ。

〝嘘吐いてごめんね〟って」


「ーーっ」


「寝言でなんとなく言われちゃったから、アキは覚えてないだろうけど」と笑うこいつを、呆然と見つめる。

(どういう、事だ……)

アキは、ハルに嘘を吐いたのか?
確かに後夜祭のルールは、誰に嘘を吐いても構わない事になっている。
なら、ハルに嘘を吐いた意味は……?


『貴方が、好きです』


あの日、そう言って涙を流して俺の腕に抱かれたあいつは


(ーーまさか)


ハルと交わしていた「ハルになりきる」というものに嘘を吐き、今日だけは素直になりたいと白い魔女の仮装を見に纏った

〝アキ〟だったのか………?



「ーーーーっ、」



(俺は、馬鹿だ)


もっとちゃんと見とくべきだった。
あの日のあいつを、もっと見とくべきだった。

それなのに俺は、ハルと気持ちがやっと通じ合った事に舞い上がってしまって

あいつの変化に、気づいてやれなかった。



「……ふふっ、気づいたみたいだね。

ほら、これ」


固く握った拳を解かれて、その中にチャリ…と物を置かれる。

「僕のじゃないから返すよ。もっかいちゃんと渡してあげて?」

薄い緑色をした翡翠のペンダント。

それをぎゅっと握りしめる。


(っ、あの馬鹿が!)


絶対ぇ外すなって、言ったのに。


「それから、これ」

「?」

カサリと、小さな紙を渡された。

「アキから、僕らにだよ」

折し皺が付いているそれ広げると、そこには走り書きのような文字が小さく並んでいた。


〝幸せになって〟



「ーーっ、ハッ、馬鹿じゃねぇの」



ギリッ!と、紙も一緒に握りしめる。


(俺の幸せは、お前がいねぇとはじまんねぇんだよ)


「ふふふ。
ねぇ、アキはずっと敬語を使ってたでしょ?」

「ん? …あぁ、そうだったな」

「言っとくけど僕は使わないからね。僕はレイヤとは婚約者や先輩後輩みたいな関係になりたいんじゃない、友好関係を築きたいんだ」

(は? 友好関係…だと……?)

こちらを見て、ニコッとハルが笑う。


「僕ら、良い〝友だち〟になれそうな気がするんだけどな」


〝友だち〟


「ハッ、友だちどころじゃねぇだろ。
〝戦友〟だな」

「あははっ、いいねそれ。かっこいい」

楽しげに笑うこいつに、ニヤリと笑いかける。


ーー迷いは、もう消えた。


(もう……あいつが何を想っていても、いい)

俺が、それを大きく上回る愛で包んでやる。
だから、もう逃げんじゃねぇぞ。

直ぐに俺が迎えに行ってやる、だからーー


「おい、決行の日はいつだ」


「もう間も無くに…したいな。

アキが心配すぎて、もう僕が保たない」


「そうか。そうだな、分かった」


ガタッと、立ち上がる。


「少し学園を離れる」

「ぇ?」

「聞かなきゃいけねぇ事がある」

足早に生徒会室を出て行く俺に、「いってらっしゃい」と声がかかった。

ドアを閉めて、ポケットからスマホを取り出す。


「おい、俺だ。 直ぐに迎えを寄越せ」


(俺は、)


俺には、まだ



聞くべき事が、あるーー








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。 そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。 この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…? ※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

処理中です...