ハルとアキ

花町 シュガー

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さよなら編

sideアキ: そして、初めての……

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ガチャッ


「ただいま!ハル!」

「おかえり!アキ!」


(なんか、行事が無いとこんなに早く時間が進むんだなぁ)

つい最近帰ってきたような感覚になる。
パタパタパタッとベッドまで近付いて、ぎゅぅぅっといつも通り抱きしめ合った。

「わ!アキ大分太ったねっ!すっかり元どおりだ!」

「なっ、その言い方なくない? ちょっと傷つく……」

「あははっ、ごめんごめん。でも良かった」

「ん。俺もハルが元気そうで良かった」

「ふふふ、元気だよー」

クスクスといつものように笑い合う。

「あ、そうだ。今日はハルにプレゼントがあるんだ」

「え?」

ゴソゴソと持ってきた学校の鞄から、例の箱を取り出した。

「はいっ、これ」

「わぁ…綺麗な箱……なにこれ?」

「ふふっ、いいから開けてみなよ」

ハルの手が「高そう」って言いながら紐を解いて、「それ俺も思った」って言ったら「やっぱり?」って笑い出して。
そのまま、パカッと蓋を開ける。

「っ、わぁ………」

「ふふふ、驚いた?」

「う、ん…とても……綺麗……」

本当、何度見ても華やかな春色の和菓子たちが顔を見せた。

「これ、まるひな?」

「そう、まるひな。イロハがハルにって。この商品は企画からデザインまで全部イロハがやったんだって!」

「へぇぇそうなの!? 凄いっ!
僕これ何時間でも見てられそう……」

「それ貰った時俺も言った」

「あ、やっぱり?」

「もー真似しないでくれますかー?」

「えぇっ、しょうがないよー僕たち双子なんだし」

「クスクスッ、そうだなっ」

それから暫く、2人で綺麗な和菓子を見つめていた。



「さっ、見てるだけじゃイロハに申し訳ないねっ!」

「うんうんっ、召し上がれハル」

「ふふっ、うーんアキはどれから食べたい? 選んで選んで!」

「えっ、俺食べないよ?」


「ーーえ? どうして……?」


「だって、これハルのだもん」


(こんなハルへの愛情がこもったお菓子、俺が食べていいわけないじゃん)

それに、別に半分こなんかしなくてもカロリー低いんだしハル1人で食べられる。

「だから、全部ハルが食べなよっ」

クスクス笑いながら、どうぞとハルに箱を近づけた。


ポツリ

「ーーーー嫌だ」


「……ぇ?」

「嫌だ、食べない」

「ハ、ハル…?」

「僕だって食べないよ、それなら」

「っ、何で……」


「ーーだってアキがそんな顔してるんだもん!

だから、僕だって食べたくないっ!」


「ぇ………?」


キッ!と俺を睨んだまま、ハルは何故か泣きそうな顔をしていて。

「どうして僕だけ食べなきゃいけないの…? 僕宛のプレゼントだから? でもそれを貰ったのはアキだよ。そんなアキが食べないっていうなら、僕だって食べない」

「なっ、違うよハルっ!俺はハルなんだから俺が貰ったわけじゃない。これは全部ハルのなんだよ」

「違うでしょ!!」

「っ、」

(何で、そんなにハル怒ってるの…?)

まるで意味がわからない。

「大体、母さんや父さんが買ってきてくれた和菓子は半分こしてたのに、どうしてこれは半分こしないの?
これが全部春色だから? 僕宛のものだって一目で分かるから?

ーーそんなの変だよっ」


「なっ、変……?」


プツンと、頭の中で何かが弾ける音がした。


「俺は何も変じゃない!
ハル、イロハがどんな顔でこのお菓子プレゼントしてくれたか知らないでしょ!? 凄く嬉しそうだったんだよ…それなのに、どうして受け取ってくれないの……?

ーーハルだっておかしいよ!」


「っ、え………」


呆然とする、ハルの顔。

でも、俺の口は止まらなくて。

「ハルは全然分かってない! イロハがハルにって一生懸命作ったものなのに…それなのに、どうしてその努力を踏みにじるような事を言うんだ!?」

「っ、アキだって全然分かってない!そんなこと言うなら、どうして泣きそうな顔して笑うの…? 
嫌だよっ、僕はアキにそんな顔して欲しくない!」

「俺は関係ないだろっ!?」

そう、俺は関係ない。
俺は初めからこの物語には存在してなかった。

母さんや父さんの愛だって、全部ハルのもの。
イロハやカズマ、佐古だって、みんなみんなハルの友だち。
月森先輩やタイラも、ハルの為に仕えてくれる。
梅谷先生と櫻さんも、ハルを気にかけてくれていて。

ーーそして、レイヤも…ハルを深く愛している。

なのに、

(どうして分かってくれないんだ!?)

これは、イロハがハルの為にといちから計画を立てて作ってくれたもの。
だから、ハルが貰って当然。

(それなのに、どうして……っ)

「大体、今まで貰ったものは全部が全部ハルのものなんだ!俺のものなんか何ひとつない!1学期の成績表も、体育大会のメダルも、レイヤから貰ったこのネックレスだって…全部全部、ハルのものなのに……っ」

「違う!確かにそれは僕の名前だとは思う…だけど、でもアキがいなかったら貰ってなかったものでもあるでしょ!
この和菓子だって、アキが頑張ったからーー」

「俺は何ひとつ頑張ってない!!」

「ーーっ、」

(そうだ、俺は何ひとつ頑張っちゃいない)

学園で過ごした約半年間の記憶は、全てハルのもの。
俺のものなんか…何ひとつ、無い。

(後夜祭だって、所詮はおれの独りよがりの記憶だ)

みんなの中では、ちゃんと〝ハル〟だった。

だから、俺はハルで、何にもなくて。

(だから………っ)


自分と同じ顔が、譲らないというように目に涙を浮かべて睨んでいる。

俺も、多分今同じ顔をしているんだと思う。


やがて……先に動いたのはハルだった。


「ーーアキのわからずや!もう知らない!!」

お菓子をテーブルの上に出したまま、ベッドの中にもぐりこまれる。

「っ、俺だって…ハルのことっ、もう知らない!!」

ガチャッ!と思いっきり扉を開けて、

初めて、メイドに呼ばれる前にハルの部屋を出て行った。







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