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番外編: 佐古
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しおりを挟む「ただいま………」
(今日も、誰もいない……)
2人が結婚してからは、それはそれは楽しい日々だった。
………でも、そんなのは初めだけだった。
新しい父さんの出席するパーティーへ必然的に母さんも参加するようになり、家を空ける事が多くなった。
華やかな衣装に身を包んだ母さんは、俺の知ってるエプロン姿の母さんじゃないみたいで……
ただ、〝怖い〟と思った。
俺は、パーティーへは参加しない。
新しい父さんに「勉強をしろ」と、言われているから。
『君には、将来私の後継としてしっかりやってもらわなきゃいけない。必要なものは全部、今のうちに叩き込むんだ』
多分、所謂英才教育とかいうやつを俺は今受けてるんだと思う。
座学は勿論、ピアノ・バイオリン・社交ダンスなど、多岐にわたる習い事をさせられてる。
『私が君くらいの頃はもっと出来ていたよ。さぁヒデト、努力するんだ』
『………っ、はい……』
友だちと遊ぶ暇なんて、無くなった。
その代わり、テストの点数はいつも100点満点。
(前だったら、母さんが喜んで俺の好物作ってくれてたのにな……)
『わぁっ、おめでとうヒデト!凄いじゃない!!今日は何食べたい? お母さん好きなもの作っちゃうわよ~』
(ーーっ)
ねぇ、母さん。
俺さ、母さんの手料理が食べたいよ。
料理長が作るレシピ通りのご飯じゃなくて、ちょっと塩加減が濃い母さんの味付けがいいんだ。
ハンバーグもステーキも、お味噌汁だって……全部全部母さんのものが食べたい。
それなのにーー
あぁ、あの小さな小さなアパートで身を寄せあって笑いながら暮らしてた日々が…懐かしい。
〝戻れるなら戻りたい〟なんて
そんな事を思い始めたのは、一体いつからだろう?
(父さん……っ)
今日も、天国にいる父さんに呼びかける。
母さんは…ちゃんと父さんの事、時々思い出しているのだろうか?
(っ、寂しいよ……父さん)
言いようのない悲しみに襲われて、ふと涙が浮かんできて
それをグイッと拭った、小学5年の夏。
その年、俺に〝妹〟が出来た。
「オギャァァ、オギャァァ」
忙しなく泣く、小さな小さな存在。
「まぁまぁ……何て可愛らしいのかしら」
笑ってその子を抱く母と、それを優しく見守る父。
(あれ? 俺ーー)
明らかな〝家族〟と、それを外から見てる〝俺〟。
これは、一体なに……?
ガラガラと…何かが崩れるような音が足元から聞こえたような気がした。
(俺は、一体〝何者〟なんだ……?)
それから、母さんと新しい父さんは妹に付きっきりになった。
俺のことは家庭教師やメイドたちに任せっぱなしで、全然こっちを向いてくれなくて。
(俺は………)
何でここにいるんだろう?
新しい父さんの後継の為?
それとも、母さんのただのお荷物?
『今まで、よくお母さんを1人で守ってくれたね。有難う。
ーーこれからは、私が君たちを守るから』
そう言ってくれたあの優しい声は、どこへ消えた?
(嗚呼、俺は………)
ーーーー俺は今〝1人〟だ。
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