ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
224 / 536
文化祭編

sideアキ: 感情の在り方 1

しおりを挟む


「ハル、ちょっと外行く。明日の朝には戻っから」

「はぁーい、いってらっしゃいっ」

玄関まで佐古を見送って、パタンと閉まったドア。

(文化祭来てくれたからお礼言いに行ってくるって……すごくない?)

どんだけ真面目なんだよあいつ……
でも、外の友だちも佐古のこういう部分が好きで一緒にいるんだろうなぁ。

(好き…好き……か)

伝えないといけない、その2文字の言葉。
たった2文字なのに口に出すのを躊躇してしまっていて……

「はぁぁぁ……弱いなぁ俺」

せめて、一緒に文化祭回れたなら良かった。
それだったら「最後に思い出ができたから」って自分を納得させられるのに……

(もっと強くなんなきゃいけない、のに…な……)


ーーコンコンッ


「ん?」

凄く控えめな、静かなノック音。

『こ、こんばんわっ、ハルまだ起きてる?』

「イロハ……?」

もうすぐ消灯時間になるのに、一体どうしたんだろ……


カチャッ

「こんばんはイロハっ、どうしたの?」

「ハルっ。起きてたんだね、良かった」

いつもの元気な声のボリューム落として、えへへと笑っている。

「窓から佐古くんが外行っちゃうの見えて、ハル今1人なのかなって。カズマもね、今日は寝るの早くてもう寝ちゃったんだー」

「そうなんだっ」

「うんうん。

ーーだからね、ハルをデートに誘いに来たっ」

「へっ? デー…ト?」

「おれと、ちょっとだけ一緒に散歩しよ?」

「散歩……?」

「今日は月明かりが凄く綺麗なんだっ、だから行こう? ほらほら、なんか羽織って来てハル、急いで」

「ぇ、え? ぁ、はいっ」

急かされるまま、部屋にあるカーディガンを取りに行った。








「やっぱ夜は冷えるねぇ」

「そうだねっ、もう季節も秋だからかなぁ」

「ハル寒くない? 大丈夫っ?」

「クスッ、大丈夫だよ、有難うイロハ。イロハは平気?」

「もっちろん!こんなのへっちゃら!!」

そっと2人で寮を抜け出して、イロハに連れて行かれるまま話しながらゆっくり歩く。

(どこに、向かってるんだろう?)

でも、この道は知ってる。

多分…この先にはーー


「はいっ、とーちゃくー!」


「……森の中の噴水?」


イロハたちと出会った11個目の噴水の場所。

パタパタパタ…とイロハが噴水へ駆けて行って、その淵の砂をサッと落とした。

「ほらハルっ、ここ座って?」

「ぁ、う、うんっ」

言われた通り、イロハの隣にストンっと腰を下ろす。

(何か、ここ来るの久しぶりだなぁ……)

最後に来たのはいつだっけ?


ーーあぁ、そう。


(レイヤから、花火のプレゼントを貰った時だ)

あれから直ぐに新学期が始まって、文化祭準備に追われて来れてなかったんだった。

あの日も、何も告げられずにここまで歩かされたよな。
わけもわからず連れて来られ、他愛のない話をしてて、そしたら大きな音と一緒に大輪の花火が上がって……

思わず、暗い夜空を見上げる。

(凄く、綺麗だったなぁ……)

初めての花火は本当に綺麗で。
でも、何より嬉しかったのは…それがレイヤからのサプライズだったという事。

(あの花火は〝ハル〟に向けてのものだってちゃんと分かってるけど…でもちょっとだけ、俺も心の隅に置かせて貰っちゃだめかな……?)

あの出来事を、〝思い出〟として

心の真ん中じゃなくていいから、隅っこの方にだけーー


「………っ」


(だめだっ)


俺、本当涙もろくなった。
レイヤとのこと考えるだけで、涙が出てくる。

隣にいるイロハに見られたくなくて、上に向けていた顔を下に向ける。

と、


「ーーねぇ、ハル」


「っ、どうしたのイロハ?」


ポツリと、静かに発せられた声。
いつもの元気な声じゃなく、ただただ落ち着いた…凛としてる静かな声。


「〝ぼく〟ね、カズマのことが好きなんだ」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

処理中です...