ハルとアキ

花町 シュガー

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文化祭編

sideアキ: 大きなその手は

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サワリ サワリと、大きな手に髪を撫でられる感触がする。

気持ちよくて暖かくて、つい「もっともっと」というように擦り寄ると、その手が髪から頬に移動してきて優しく包むように触れてくれた。

ただただ、本当に幸せで

そんなふんわりした感覚で、ゆっくりと目を開けたーー



「ん、目覚めたか」

「……レイ、ヤ………?」

「ああ、俺だ」

「な、んで…ここは……」

(あれ? 俺何してたんだっけ?)

そうだ、確か授業中に急に体に力が入んなくなって、それで佐古が保健室まで運んでくれて……

「佐古は戻ったぞ。また帰りがけ迎えに来るそうだ」

ぼけーっと見上げる俺に「安心しろ」というように微笑んで教えてくれる。

「レイヤは…どうして、ここに……?」

(今日は、午後から家の会議が入ってたはずなのに…)

「月森が〝お前が倒れた〟と教えてくれたんだ。それで戻って来た」

「先輩が……」

「そうだ」

(俺、レイヤの邪魔しちゃったのか……)

邪魔しないようにと行動してたのにな……意味ないじゃん。

「謝んなよ、ハル」

「ぇ……?」

「別にお前のせいじゃない。俺が会いたくて戻って来たんだ。最近まともに会えてなかったしな」

「レ、イヤ……っ」

(あぁ、もう)

俺の言おうとしてることに先回りして釘刺されるなんて、優しさに胸がギュッと鳴ってしまう。

(レイヤだ… 直ぐそこに、レイヤがいる……)

貴方に会いたいと、ずっと思っていた。
体が、心が、レイヤのことを叫び続けていて…

無意識に、重い手が座っているレイヤへと伸びていく。

「ね、レイヤ……」

「ん? 何だハル」


「ぎゅって、してください………」


(身も心もボロボロで、貴方が足りないんです)

ベッドに寝たまま大きく両手を広げて見上げると、レイヤは一瞬大きく目を見開いて、それからクシャリと微笑みキツく抱きしめてくれた。


(嗚呼、あったかい……っ)


体の芯からじんわり熱が広がっていく感覚。
ずっと、ずっとこうされることを望んでいた。

暖かくて幸せが溢れて来て、涙が出そうになる。

「……ハル、痩せたな」

「そんなこと、ないです……」

「嘘。前と全然ちげぇぞ」

「レイヤの、気のせいですよ……最近会ってなかったですもん」

「ハッ、何が気のせいだよ、この俺を舐めんな。 こんなにクマなんか作りやがって……」

大きな手が労わるように目の下を撫でてくれて、くすぐったくてクスクス笑う。

(不思議だ……)

これまで、自分に何かが起こった時真っ先に思い浮かぶのはいつも〝ハル〟だった。
寂しくなった時や悲しくなった時…あの雷の時だって、ハルの名前が呼びたくて呼びたくてどうしようもなかった。

それなのに、今回真っ先に思い浮かんだのは〝レイヤ〟で、自分の中の変化に自分自身で驚いてしまう。

(本当、不思議……)


「ほら、寝るまでここにいてやっから、お前はもう少し休め」

「……ん、ありがと…ございます………」

もっともっとレイヤと話していたいのに、瞼が重くて重くてたまらない。


久しぶりの安心感に、眠気が一気にやって来て

自分の手を握る大きな手の暖かさを感じながら


俺は、再びゆっくりと目を閉じたーー





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