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文化祭編
2
しおりを挟む「副会長さんっ」
「小鳥遊くん、こんにちは。黒板お願いしますね」
「はい」
放課後、イロハとカズマと一緒に実行委員会が開かれる教室へ足を運んだ。
実行委員会をまとめる業務は、副会長へ一任された。
レイヤが「お前もそろそろ仕切れんだろ、やってみろ」と副会長を推薦して、ハルがそれをサポートすることとなった。
ざわざわと各クラスから委員が集まって来る。
各クラスから2人だから、大体30人ちょっとの人数だ。
「小鳥遊様っ」「こんにちは、小鳥遊様」
「ん? ぁ、こんにちはっ」
ちらほらと親衛隊に入ってる生徒たちもいて、ちょっと安心する。
ーー?
(今、何か見られた……?)
ジィッと見られてる感じがして何となくそちらに目を向けると、ただ生徒たちが話してるだけ。
(………気のせい、かな?)
「小鳥遊くん、そろそろ始めますよ」
「はいっ」
「ーーそれでは、これより第1回目の実行委員会を始めます」
少し緊張気味の綺麗な声が、響き渡った。
実行委員会は、開催までに全3回行われる。
今日はその記念すべき第1回目。
各クラスの出し物の発表と、準備物の共有がある。
副会長が話し合いを進めて、それをカツカツと黒板に書いていった。
(レイヤの言ってた通りだな)
綺麗に1つ1つの案をまとめていく副会長は、既に人の上に立つ実力と人間性を持っている。
(サポートに着いたけど、俺別にする事なさそうだ……)
それぞれのクラスの発表を聞きながら、ひたすら黒板へ書くことに集中した。
「ーー以上となります、お疲れ様でした。
皆さん次回までにさっき言ったことよろしくお願いしますね」
「「「「「はい」」」」」
「有難うございました、小鳥遊くん」
「いいえ、僕何もやってないですよっ。全て副会長さんのお力です」
「そんな事はないです。後ろに知り合いがいるというだけで、全く違うのですよ?」
「ふふっ、有難うございます」
「副会長さんは先に戻って休んでいてくださいね」とお話しして、黒板に書いた事をノートへ写そうと席に座った。
「ーーハル様」
「? 月森先輩……?」
委員のみんなが教室から出て行くドアから、先輩がゆっくりと入って来る。
「こんにちは」
「こんにちは先輩。どうされたんですか……?」
「ふふふ、最近タイラや丸雛くんから〝ハル様に元気が無い〟とご報告を受けておりましたので、様子を見にまいりました」
「ぇっ」
ドキッと心臓が跳ねる。
(やっぱり、イロハからタイラには報告されてたか……)
で、タイラから先輩にいったんだな………
「ハル様、何かございましたでしょうか?」
目線を合わせるように、ゆっくりと片膝をついてしゃがまれた。
「な、何にもありませんよっ」
「……それは、本当ですか?」
真っ直ぐに目を見られて、ゴクリと喉が鳴る。
「っ、本当…です………」
ドクドクと嫌に音を立てる心臓。
カラカラになっていく口の中。
それでも、視線を逸らさないようにしっかり先輩を見た。
「……………」
「…………っ」
「………クスッ。 全く、貴方という人は……」
ふわりと、頬に手を添えられる。
「大丈夫ですよ、ハル様」
さわりさわりと、優しく頬を撫でられた。
「力を抜いてください。
別に言いたくないのなら、無理に言わなくても良いのです」
「ぇ………?」
「我々は高校生です。誰にも言えない悩みのひとつやふたつは、できるものでしょう。
小鳥遊様も1つの学期を終えて新学期となり、そういった悩みができて来る頃なのではありませんか?」
(ぁ……)
先輩は、勘違いをしている。
俺がこうして悩んでいるのは、思春期特有のものだろうと思っているようだ。
ーーそれに、乗っかった方がいい。
「っ、はい…ちょっとした悩み事で……
でも、本当に何もないんですっ、本当に。だから心配なんかしないでください」
「クスクスッ、それは無理です。私は貴方の親衛隊隊長ですので、心配させてください」
「せん、ぱ…い………っ」
優しく優しく微笑まれ、
どうしようもなく胸がキュゥゥッと痛くなって、泣きたくなった。
「ただ、いくら悩んでいるとは言え、食事を食べないのはいけません」
(先輩)
「ちゃんと、1日3食しっかり残さず食べていますか?」
(先輩、助けてください)
「ただでさえ文化祭で生徒会も忙しくなっているのですし、それでは体力が持ちませんよ?」
(毎日気持ち悪くて、食事が喉を通らないんです)
「皆んなも心配しています。勿論私だって」
(一生懸命どうすればいいか考えてるけど、もう、わからなくて……頭の中がぐしゃぐしゃなんです)
「それに、ハル様がそうですと、龍ヶ崎もきっと悲しみます」
「ぇ、レイ、ヤ……?」
驚いて先輩を見ると、苦笑して俺を見ていた。
「最近、龍ヶ崎と会えていないようですね」
「っ、はい……」
「寂しいですか?」
「……っ、寂しい…です……」
この頃、レイヤは学校へは来ているが放課後生徒会の集まり等には中々参加できておらず、迎えに来た龍ヶ崎の車で会議へ行ってしまう。
会いたくて、でも中々会えなくて……
会いに行きたいけど、でもそうしたら迷惑になってしまうんじゃないかって……
キュゥっと膝の上で両手を握ると、頬から手が離れふわりとその手を包まれた。
「実は、龍ヶ崎もなのです」
「っ、ぇ?」
「彼も寂しそうなんですよ、ハル様」
生徒会には顔を出せなくても、レイヤは授業の為にクラスには顔を出してる。
「その時に、訊かれるのです。
ーー〝ハルは元気か?〟と」
「ーーーーっ」
(嗚呼)
忙しいのに。
たくさんたくさん、忙しいのに。
それなのに、そんな中でもレイヤは、ハルのことを思ってくれていて。
(レイ、ヤ……っ)
ーーあのね、怖いの。
いっぱいいっぱい怖くて、もう、心が冷たくなりすぎて。
(暖めて、レイヤっ)
あの大きな手と優しい体温で、思いっきり俺を包んで欲しい。
ハルだと思われててもいいから……今は、それに縋りたい。
「ハル様」
キュッと強く先輩に両手を握られる。
「ハル様、寂しい時にはちゃんと寂しいとお伝えしましょう。
離れている時には、〝言葉〟が互いを暖めてくれるのです」
「言葉が、暖める……」
「そうです。貴方がたには言葉が足りない。生徒会の業務も確かに大切ですが、たまにはハル様から龍ヶ崎へ会いに行って、ご自身の気持ちをお伝えしてみてはいかがでしょうか?」
(気持ちを、伝える……)
会いたいと、寂しいと。
悲しいと、暖めてと。
ーー好きだと、助けてと、伝える……?
(っ、駄目だ)
それは、伝えられない。
でも…またちょっとだけ、自分に素直になっても良いかもしれない。
「……先輩、有難うございます」
「ハル様」
「僕……少しだけ、自分に素直になってみますね」
えへへと笑うと、安心したように先輩の顔も笑ってくれた。
「はい。そうしてみてください」
(本当、有難うございます、先輩)
ちょっとだけ、心が軽くなったような気がした。
「さて、生徒会室へ戻られるでしょう?」
「はい」
「お送りいたしますね」
「有難うございますっ」
黒板を書き終えるのを待ってくれ、一緒に教室を出る。
ーーっ!
「……? ハル様?」
今
(今、何かに強く睨まれた)
何? 誰?
もしかして、
ーーあの、変質者……?
バッと振り向くが、そこには誰もいない。
「ハル様、どうされましたか?」
「ぁ、いえ………っ」
「顔色が悪い……疲れましたか? もう少し教室で休まれてから歩かれますか?」
「いいえ、大丈夫ですので早く行きましょう、先輩っ」
(早く、早く此処から離れたい)
その一心で、心配する先輩を言いくるめて
急いで生徒会室へと戻った。
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