ハルとアキ

花町 シュガー

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文化祭編

sideアキ: 久しぶりの、1人の生徒会室

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「…………静かだ……」

誰もいない、体育中の生徒会室。
いつもはレイヤがいるのに、今日は久しぶりに1人だ。


(〝会社の会議〟か)


夏休みが明けてから、レイヤは龍ヶ崎の会議へちょくちょくと出席するようになった。
「こういうのは早めが肝心だからね」と両親に言われているらしい。
だから、最近は時々学校にいない事がある。

(すごいなぁ……)

将来を期待されてるんだな。
まぁ、レイヤが社長になるとかすごい普通に想像できるけど。

(にしても、忙しいなぁあいつも……)

学校での授業に、文化祭準備に、龍ヶ崎の会議に……

ポソッ
「俺も、もっとしっかりしなきゃな」

忙しいレイヤを、支えなきゃ。
文化祭準備は手伝えるから、そこしっかりやろう。

「おし! この時間の業務するか!」




「へぇ……それぞれ面白そうな事するんだな」

各クラスの実行委員から提出された出し物の資料を確認していく。

毎年カフェや喫茶店は希望するクラスが多いらしく、早く提出した上位5組までと決まってるらしい。

(ハルのクラスは早めに書類提出したから、枠に入れてんな)

「別のクラスはスーツ喫茶とかやるのか…って〝T・Richardson(ティー・リチャードソン)〟着用!? やっば、気合い入ってんなぁ……」

T・Richardsonなんて、この世界に疎い俺でも知ってる。

正式には〝Taylor Richardson(テイラー リチャードソン)〟と呼ばれるそれは、予約が早くて3年待ちと言われる世界中から愛されている最高級のスーツのブランド。
そしてそこの社長である〝Padrick(パドリック)氏〟は、大人から子どもまで誰もが知ってる英国出身のハリウッドスターだ。
彼は日本の一般女性と結婚し、現在は日本を拠点に活躍しているらしい……が、

『それはどうやら表向きの情報でね?
本当は、その結婚したお嫁さんの連れ子さんと上手くいってないみたいだよ。それが原因で彼は日本に滞在する時間が長いんだって』

『夏休みパーティーに参加したんだけど、それがT・Richardsonスーツ着用必須のやつで。そこで聞いちゃったんだよね…』とイロハがこっそり教えてくれた噂。

(「連れ子と上手くいってない」かぁ……やっぱ、どんなに凄い人でも躓く場所はあるんだな)

まぁそりゃそうか、人間だし。
でも、そういうのは時間が解決してくれそう。

「ハルも持ってたなぁ。でもパーティーには行かなかったから着る結局機会は未だ無いけど……」

そして確かにこの学園の奴らなら1人一着ちゃんと持ってそうだ。でもそんな豪華なものを文化祭の出し物って……俺文化祭知らないけどそれくらい本気でするもんなの?

謎い…いや謎すぎるだろ……


(……ま、いいや)


取り敢えず提出順にカフェ喫茶店希望のクラスを並べて、選ばれた5組以外のクラスには再度提出をお願いして……

「飲食以外のクラスは特に被ってないな……」

被ってたらじゃんけんの予定だったけど、うまい具合に被ってない。

「恐怖のお化け屋敷に、劇に、合奏に、コスプレ貸出屋さんに、大規模隠れんぼに……」

それぞれの部活の出し物も、とてもユーモア溢れるものばかりだ。

(文化祭って、こんな感じなんだ)

楽しいな、何か本当にお祭りって感じ!
いや祭り行った事ないけど、こう…みんなでワイワイ出し物やって……多分こんな感じなんだろうなぁ。

「よし、書類分け終わったしpcにまとめるか」






キーンコーンカーンコーン……


「ん、終わりだ……」

(何か、1人だとやっぱり寂しいなぁ)

レイヤと話しながら、仕事がしたい。
せっかく席が隣同士なのに、うぅぅ……

「って、俺何考えてんだっ」

な、何か今すっごい乙女だった!
ひぇぇ……恋するとこうなるのか!? 
うわキモっ! やばいやばいカムバック昔の俺ー!

パンパンッと思わず両頬を叩く。

「おっし!教室帰ろ」

やりきった書類とUSBをレイヤの机に置いて、ガチャッと扉を開ける。

と、



ーーパサッ



「ーーーーん?」


開けた扉から、何かが落ちてきた。

これは……

「……手紙?」

(扉の隙間に挟まってたのか?)

生徒会室の扉にわざわざ挟んで来るなんて、
きっと、所謂…〝ラブレター〟ってやつだと思う。

誰宛だろう、まぁ生徒会役員みんな顔整ってるしなぁ。
副会長さんへか、はたまた会計さんへか、書記さんへか……

(レイヤにだったら、ちょっと凹む…かも……)

まぁ、あいつ確かにかっこいいしなぁ。
でもここにいる生徒はみんな〝レイヤはハルの婚約者〟って事を知ってるはずだし……
でもっ、知っててもあわよくばーってなる人は、いるよねぇ……

何だかキュゥッと心臓が縮まって、緊張しながら恐る恐る封筒の裏面の宛名を見る。

と、


「ーーぇ?」


(う、そ…だろ……)

そこには〝小鳥遊 ハル様〟という文字。
しかも、手書きではなくpcで打たれたようなもの。

え、待って予想の斜め上なんだけどこれ、まじ?
まさかのハルかよおい!
レイヤかと思った俺の心配を返せ!!

(ま、まぁ…取り敢えず……何か恥ずかしいから生徒会室で開けようかな)

この学園に来てから、こんな手紙貰うのは初めてだ。
え、これラブレターだよな!? え、どうしよ!

教室で開けるのは気まずいし、でも放課後まで待てないし……

初めてもらったから内心ちょっとワクワクしてしまって、早く開けたいなと思ってる自分が、


ーーこの時までは、確かに、いた。


ガチャリともう一度生徒会室に戻り、封筒を開く。

「ってか、何か分厚いな……」

何枚手紙書いてんだよこいつ、すげぇな。

ガサガサと封筒の中に手を入れて、入っているものを何の躊躇も無く思いっきり全部引っ張り出した。



「ーーーーぇ?」



バサバサバサッ!!と凄い音をたてて、取り出したものが全部、手からこぼれ落ちる。


生徒会室の真っ赤な絨毯に、大量に広がった:それ|は



「っ、な、なに…この……〝写真〟………っ」



ーー大量の〝写真〟だった。







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