ハルとアキ

花町 シュガー

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夏休み編

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ドキリと、心臓が嫌な音を立てた。

「……変? 一体何が………?」

「いや、何か夏休み入る前お前が実家帰った時から、様子がおかしいなと」

(っ、うそ)

何で、気づくんだ……?
みんなには何も言われなかったのに……

さぁぁっと一気に血の気が引いて、口の中が乾いてくる。

「そ、そんな事ないですよ? レイヤの気のせいでは……」

「そうか? にしてはお前、宿題会とかの時俺を避けてたよな」

「っ、」

確かに、何だか気まずくてわざと遠くの席に座ったり自分から話しかけなかったりはしてた…けど……

(ど、しよ……)

何て言えば、いい?

今回の:これ|は、
多分〝ハル〟じゃなくて〝俺〟に関する問題。

しかも、まだ、その答えは出てなくて。

(やばい……っ)

ぐるぐる ぐるぐる、必死に頭の中を巡らす。


「はぁぁ………ハル」


ビクッ
「は、はぃ」

「別に俺は責めてるわけじゃない。安心しろ」

フワリと、大きな手が頭に乗った。


「……お前がそう俺のことを避けるのは、俺のせいか?」


「ぇ?」

「俺が突然抱きしめたり、キスしたりするからか?」

やけに弱々しい……いつものあいつからは想像もできないような声。
びっくりして隣を見ると、やや不安そうに俺を見ているレイヤの顔があった。

「な、んで……」

「思い返してみたがこれといって特に何もねぇし、前と変わったことといえばそれくらいだろうが」

(う、そ)

この俺様が、俺がこうなったのは自分のせいじゃないだろうかと過去を振り返ってた…だと……?

「……嫌だったか?」

「っ、え?」

「抱きしめられたりキスされたりするの、嫌だったか?」

ポツリと不安そうに問われて、ぎゅぅぅっと心臓が強く締め付けられて。

咄嗟に、頭へ乗せられてるレイヤの手を取って両手でギュッと握った。

「そ、そんな事ない、です!」

(レイヤが反省する事じゃ、ない)

これは〝俺〟の問題で、だから俺が反省すべきで。
レイヤはなんにも悪くなくて、反省する必要なんか全くなくて。

だから、

「大丈夫ですっ!」

「……本当、か?」

「はい!」

「俺が何かやったからじゃねぇのか?」

「違います!」

「じゃぁ、これからも抱きしめたりキスしたりしてもいいか?」

「もちろんっ! ………って」

(ん、ちょ、待って…あれっ?)

「……ぷはっ、お前顔にしまったって書いてあるぞ」

「なっ!」

クククッと目の前の顔が楽しそうに笑い始めて、ちょっと安心する。

「なぁ」

「は、はい」

「俺とのキス、好きか?」

「ぇ…っと…… き、嫌いじゃない…です……っ」

「〝嫌いじゃない〟ねぇ……

ーーそうか」


安心したように柔らかく微笑まれ、何故かブワワッと急に体温が上がり始めた。


(っ、何だこれ……)

キュゥっと心臓が鳴って、ドクドク凄い音を立ててる。
緊張するような、むずがゆいような、そんな感覚。

顔が火照ってきて、見られたくなくて思わずバッと下を向いた。


「………ハル」


「な、何ですかっ」

「膝の上、乗せていいか?」

「へ、? 

ーーわっ!」


握っていたレイヤの手にいきなり力が入り、
グイッと引き寄せられてレイヤの膝の上に向かい合うように乗せられた。

「っ、」

びっくりして顔を見ると、ニヤリと笑われる。

(ぇ、待って待って)

これは、謂わゆる〝だっこ〟とかいうやつなのでは……

支えられるように、レイヤの力強い両腕が腰や背中に添えられる。

「ははっ、ほっせぇ腰だなぁ」

「なっ」

膝に乗せられてる分俺の方が座高が高くて、覗かれるように下からレイヤに見上げられる。

「ーーなぁ」

「な、何ですか」

「かがんで?」

「ぇ?」

「キスしてぇから、かがんで」

(は?)

「お前がかがまないと届かねぇじゃねぇか。ほら、早く」

ククッと楽しそうに微笑まれて、火照った顔が更に赤くなった。

(ぇ、俺からいくのか!?)

決算時期の帰り道を送ってくれてた時、最後にお礼で俺からキスはした、けど……
でも、あれはもうする事無いだろうかって思って勢いでしたやつであって。

(も、もっかいやるとか聞いてないっ!)

「ククッ、ほら早く」

どうやら相変わらず、レイヤは逃がしてくれないらしい……
ってか逃げようにも体が両腕で固定されてて動けない。

(………っ、くそ)

心臓がドクドクと早くなっていくのがわかる。
緊張しすぎて、体が熱くてジワァッと何故か涙目になってしまって。

「んな固まんなよ。大丈夫だ、あの時みたいに舌入れたりはしねぇから、な?」

よしよしと、背中を大きな手が優しく撫でてくれる。

安心させるように微笑まれて、何故だかそれにキュゥゥッと強く胸が鳴ってしまって。

その顔へ吸い寄せられるように、ゆっくりとかがんだ。

そうしてそのまま、


ーーふわりと、再び優しく唇が重なった。


暫くして、それはまたふわりと離れていって。

「…………っ」

恥ずかしすぎて真っ赤な顔をフイッと背けると、レイヤの肩に顔が押し付けられるようにぎゅぅぅっときつく抱きしめられた。

「嗚呼、たまんねぇな……」

耳元で、優しく囁かれる。


「もう愛おしいが溢れすぎてやべぇ。

本当、好きだ……


ーー〝ハル〟」



「ーーーーっ」


ドクリと、さっきとは違う種類の心臓の音がした。

さっきまであんなに熱かった体が、今度は一気に冷えていく。

『本当好きだ、ハル』

(そうだ、レイヤはハルが好きなんだ)

今、こいつは俺をハルだと思ってて。
此処に居るはずの〝ハル〟に向かって、ただただ真っ直ぐに自分の想いを伝えていて。

「ハル、ハル。 ーー好きだ」

「っ、」

思わず、ギュッと目の前の体に抱きついた。
それに答えるよう嬉しそうに抱きしめ返してくれる、暖かい体温。

多分、レイヤは俺が赤くなった顔を見られたくなくて抱きついた時思ってる。

でも……

(ちがっ)

違う、違うんだレイヤ。
俺はハルじゃない。

(ごめ、なさ……)

こんな歪んだ顔見られたくなくて、もっともっときつくレイヤにしがみつき、その肩口に顔を埋める。

(ごめんなさぃっ、レイヤ……)

こんなに優しい体温で包んでくれてるのに。
こんなに純粋に、愛の言葉を投げかけてくれているのに。


(俺、ハルじゃなくて…ごめんね………っ)


ーーごめんなさい、偽物の俺で。

それすらも伝えることができなくて、本当にごめんね。


(~~~~っ!)


「ハル、好きだ」

何回も何回も囁いてくれる優しい声と、抱きしめてくれる大きな体温に

声にならない言葉で

ただ必死に、謝り続けた。




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