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期末テスト編
sideアキ: 通知表と、要相談の件
しおりを挟むガチャッ!
「ただいま、ハル!」
「おかえり、アキ!」
屋敷に着いて、いつも通りハルの部屋へ一目散に飛んでいった。
「じゃじゃじゃん!ハルの通知表を貰ってまいりました!」
「通知表っ!」
「わー見たい見せて!」とはしゃぐハルにどうぞと渡して、隣で一緒に見ていく。
「わぁ……オール5!! アキ流石だねっ」
「ふふっ、当たり前だろっ!ハルのなんだから俺がミスる訳ないじゃん」
今学期の成績は、全教科オール5という最高のスコアを貰えた。
(心配だった体育も5で、本当よかった……)
ハルは体育に一度も参加しない代わりに、その時間行なっている生徒会の活動が成績に考慮されていた。
1人づつ梅谷先生に名前を呼ばれて通知表を貰った時を思い出す。
『小鳥遊』
『はいっ』
『ほら。開いてみろ』
『…ぅ、わぁ……!』
『クククッ、体育も5で良かったな。心配だっただろ』
『はい』
『お前が生徒会に入ってから生徒会の雰囲気が良くなったと、風紀が言ってたぞ。副会長どもが真面目に仕事するようになって、会長も随分丸くなったそうだしなぁ』
『いえ、それは僕の力じゃなくてーー』
『それに、理事長も褒めてらっしゃったぞ』
『え?』
『決算報告書作成の件、聞いた。
ーーよく頑張ったな』
ポンッと頭を撫でられて。
『……っ、ありがと…ございます……!』
(あれは、正直嬉しかったなぁ……)
えへへ えへへ。
「ーーキ? アーキ。アキ?聞いてる?」
「ぁ、ごめっ、どうかした?」
「ん? んーん別に。
ふふっ、なにかいい事でもあったの?」
「ぇ?」
「思い出し笑いしてたよ?
なになに? もしかして会長と何かあった?」
「は、はぁ!?
なんで今レイヤが出てくんだよっ!」
「ーーレイヤ?」
「ぁ」
ギギギ…と隣に目を向けると、すごく楽しそうににんまり笑う同じ顔。
「アーキっ」
「っ、は、はぃ、ハルさん」
「ふふふっ、話聞かせてほしいなぁ!」
「はぃ………」
(あ、俺死なないかな、大丈夫かな)
あぁ神さま、アーメン。
「ーーふーん。そうだったんだ……」
取り敢えず、一晩一緒に過ごしたことや最近やたらキスされる事とかは全部はぶいて、
怒られるのを覚悟しながら雷の日の話をした。
「ハル…雷のこと、バレちゃってごめん……」
「ふふ、んーん、全然いいよ」
ふわりと抱きしめられる。
「雷って、あの雨が強かった日のことだよね? 僕もあの日アキのことすごい心配してたんだ、1人で震えてないかなって。 でも、会長と一緒に居たんだね。そっかぁ……
ーーよかった」
「っ、え……?」
ビックリする俺の頭を、懐かしい体温がよしよしと撫でる。
「ごめんね、僕が行けなくて」
「なっ、そんなのーー」
(ハルが気にすることじゃ)
「会長と、一緒で、アキが1人で泣いてなくて…、
………ほんとうに、よかったぁっ」
「ーーーーっ」
ぎゅぅっと強いくらいに抱きしめられて、
キュゥゥっと心臓が痛くなった。
(ーーあぁ、俺)
「ハル…ハル、ごめっ」
「クスッ、なんでアキが謝るの。今は僕の番だよ?」
「ちがっ」
(違うんだ)
俺……ハルの婚約者と、一晩同じベッドで過ごしちゃったんだ。
会長は…レイヤは、凄く大切に俺の事を包んでくれて。
俺…ついついそれに縋っちゃったんだ。
それに、最近レイヤはやたらと俺にキスしてくる。
初めはビックリしたし、慣れなくて気持ち悪いなって思ってたけど
でも、最近……少しだけ〝気持ちいいな〟と思う自分がいて。
(最低だ、俺)
ハルは、こんなにも俺の事を心配してくれてて。
抱きしめてくれて、優しく頭を撫でてくれてるのに。
それなのに、そんなハルの婚約者に、
俺は一体なにをしてんだ?
ーーーーなにを、思っている……?
ヒヤリと、心臓が冷えた感覚がした。
(っ、駄目だ)
も、やめよう。
最近、レイヤに微笑まれる度に感じる不思議な感情。
トクンと心臓が鳴ったり、何故か恥ずかしくなったり……
これはなんだろうと、ずっと考えていた。
でも、これに気づいてしまったら、いけない気がする。
ーー本能が、そう言っている。
(レイヤは、ハルの 婚約者だ)
そう、俺のじゃない、ハルのもの。
雷の時支えて貰ったのを機にいきなり甘くなったレイヤに、もしかして〝俺〟を見てくれたんじゃないかと少しだけ期待してしまっていた。
(ははっ、そんなわけないじゃん)
レイヤは、雷が苦手なハルに甘くなってるんだ。
ーーそれは、決して俺なんかじゃない。
雷が怖い〝ハル〟を支えて、
そんな〝ハル〟に心からの真剣な告白をして、
〝ハル〟への愛に溢れまくったキスを、たくさん送って……
(俺、馬鹿だなぁ……っ)
そこには、1ミリも〝俺〟はいない。
「っ、」
「……? アキ?」
(あぁ、泣きそうだ)
なんで泣きそうなんだろう?
わからない。
でも、その理由は……多分、知らないほうがいいものだ。
「アキ、アキ…? どうしたの? どこか痛いの?」
抱きしめられていた腕が解かれて、心配そうに顔を覗かれる。
「っ、んーん、違うよハルっ。大丈夫」
(俺は、ハルが大切)
生まれた頃からずっとずっと、いつも俺の味方だった。
そんなハルに、心から幸せになってもらいたいと、
そう思ってる。
ーーだから
「ハル、もーちょっと待っててね」
「え?」
「俺が、
レイヤをハルにふさわしい奴に、してみせるからなっ!」
「ーーーーっ」
元気よくニコッと笑うと、
今度は、何故かクシャリとハルの顔が歪んだ。
「……ハル?」
「…っ、んーん。 なんでも、ないよ」
俯いてしまったハルの頭をよしよしと撫でると、その手をグイッと引かれて、再びぎゅぅぅっと抱きしめられる。
(あぁ、あったかいなぁ)
俺の、大好きで大切な、体温。
いつもいつも、俺を包んでくれていた、大好きなハル。
(待ってて)
俺が、ハルの幸せな未来を、作るよ。
そうして、しばらくしてからいつも通り召使いが呼びに来て
俺は両親へ報告をして、学園に帰った。
これから、いよいよ夏休みが、始まるーー
[期末テスト編]-end-
***
生徒会室にあるハルの机の位置は、実は2人の心の距離を表してました。
アキが初めて生徒会室に入ったとき一気に離した机でしたが、体育大会後にその向きだけが変わり、この度ようやく距離感ゼロに……これから本格的にレイヤの猛攻撃が始まります。
アキも自分の立ち位置を再確認したところで、いよいよ夏休みです。
引き続きお付き合いいただけますと幸いです。
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