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婚約者編
3
しおりを挟む「僕の、体の事……?」
「そうだ。先ずは担任として、お前に何ができて何が出来ないのかを教えて欲しい」
出来れば食べ物のアレルギーとか、そういったのも全部教えてくれ。
メモを取るらしくpcを片手に俺と向き合った。
その瞳は、とても優しくて真剣で。
(ーーあぁ、この人は)
佐古くんと同じように、外見は置いといて内面は凄く優しい人なのかもしれない。
がっつりホストだけど、いい担任なのかも。
改めて、俺も真っ直ぐ先生の方を向く。
「わかりました、先に体調面についてお話ししていきますね。僕はーー」
ハルのことを思い出しながらゆっくりと話していく俺に「成る程な」と相槌をして、先生は質問をしてくれて。
(真面目な人だな)
ちょっとだけ、信じてみてもいいかもしれないと思った。
「ーー以上か?」
「はい」
「後で『実は……』とか、んな事言わねぇだろうな?」
「あははっ、言いませんよ。本当にお話しした事で全てです」
そうか、ならいい。
じゃぁこれで終わりにすっか。
パタン、と先生はpcを閉じた。
「ぁ、あのっ」
「ん?」
「ありがとうございます。僕のこと気にかけてくださって…」
(初日から、お時間いただいちゃったな……)
外を見ればもうすぐ夕方近くなりそうだ。
もう先生たちの勤務時間は終わっているだろうに、梅谷先生は付き合ってくれている。
「はぁぁぁっ、たく、お前なぁ……」
「わっ」
ガシッと頭を掴まれる。
「いい加減に自分が小鳥遊って事自覚しろよな?お前に万が一があったら俺たちがやべぇんだよ、わかっか?
それにだ、俺はこう見えてちゃんと〝先生〟なんだよ。自分のクラスの生徒くらい把握しときてぇんだ」
掴んだ俺の頭をわしゃわしゃかき混ぜながら「おわかり?」と訊かれる。
(確かに小鳥遊なら、ハルに何かがあったらこの学園を敵に回して戦いそうだ……)
この学園の人たちも、どうやらそれを分かっているらしい。
「わ、わかりました! なにか異常があった時は直ぐにお知らせしますからっ」
「おー頼むぞ。最悪お前のカードキーに着いてるボタン押せばいいから」
わかればよろしい、と、頭の手を退けてくれた。
「ぁ、それについて質問が。
このカードキーって、ボタン押すと誰のスマホが鳴る仕組みなんですか?」
「あぁ、これは担任の俺と各学年の学年主任の先生方・保健室の先生・寮監。
ーー後は生徒会長と風紀委員長だ」
「……は?」
先生達と寮監さんは分かる。
風紀もまぁまだ分かる、雰囲気的に。
(どうして、生徒会長も……?)
俺の疑問が顔に出たのか、梅谷先生が「あぁ」と話してくれる。
「なんかお前のカードキーを作る際、会長が言ってきたんだとさ。
『生徒に関わる管理は風紀と同様に我々もしているから、そこに俺が入るのはさも当然だろう』とな」
(………な)
なんて意見だ…
ただ入りたかっただけだろそれ、絶対。
……と言うことは、これを押したら生徒会長が俺の処まで来てくれる? いやいやいや、無理。
絶対押すもんか。
本気で万が一って時しか押さないようにしよう。
いつもはイロハ達と一緒にいるから、きっと大丈夫だ。
あのスピーチを聞いた直ぐ後だからか?
あいつの手なんざ借りたくないと本気で思ってしまう……
はぁぁ…まったく……小鳥遊という名字に、婚約者に……
やらなきゃいけない問題ばかりだ……
「おい小鳥遊。そこで百面相してるのもいいが俺は帰るぞー」
「ぁ、すいませんっ、僕も帰ります!」
既に帰る準備を済ませて、先生がドアの所で待っててくれていた。
「帰りは何処も寄らねぇだろ?寮まで送ってやるから着いて来い」
そう言って俺の隣を歩いてくれる先生は、
それはそれはゆったりとしたスピードで。
なんだかイロハ達と初めて出会った時を思い出して、クスッと笑ってしまった。
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