ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
46 / 536
友だち編

sideアキ: 佐古との距離 1

しおりを挟む





プレートに生地を並べてクッキーをオーブンに入れた頃、丁度肉じゃががいい感じにできあがって。
「クッキー焼きあがるまで、先に食事済ませちゃお!」ということなった。

みんなで盛り付けて、テーブルに運んで。
4人で囲んだ料理はどれも本当に美味しくて。

「ハル、このキッシュ凄く美味しい!おれが今まで食べたやつの中で1番だよ!」

「野菜もいい具合にトロトロだな」

「本当に?よかったー、佐古くんは?」

「……うめぇ」

「良かったぁ…!」

佐古が素直に「美味い」と言ってくれた。
それだけで、今日は大成功だ。

「カズマの肉じゃがもいい感じに味が染みこんでて本当に美味しいよっ」

「普段より少し薄めに味付けしたからな。その分煮込んでみたんだ」

「そうだったんだ! 僕の為…だよね、ありがとう」

「いや。少ない調味料で普通と同じような味付けができることが分かった。 俺こそ有難う」

(うわぁ…カズマ優しいなぁ……)

嬉しい。
その優しさに感謝しながら佐古の方を向く。

「でも、佐古くんも一緒につくってくれたから美味しいんだよ? 自分でつくった料理って、何か美味しいよね」

「あ!それわかるー!なんでなんだろうね!」

「達成感みたいなものがあるんじゃないのか?」

「成る程ー」


そんな話をしているうちに、あっという間にお皿は空になった。

ガタッと佐古が立ち上がる。

(あ、部屋帰っちゃうかな)

まだイロハのクッキーもあるし止めなきゃ。

って、


「え?」


「……なんだよ」


佐古が向かっていったのは、キッチンのシンク前。

「…お、お前ら料理教えてくれただろっ、だから片付けくらい…俺がやる……」

佐古は、真っ赤になりながらふいっとシンクの方に向き直った。

(さ、)


佐古が

あの、佐古が


「デレtーー!!!!」


((イロハ静かにっ!!)) 


もがっ!と俺とカズマで口を塞ぐ。

(まじかよ……佐古ぉ!)

今日、料理教室して本当に良かった。どうしよう、本当に嬉しい。

「…おい」

「っ、はぃ!」

「俺、今洗う人になってっから濯ぐ人……してくんねぇの?」

「!!」

(洗う人と濯ぐ人、覚えててくれたんだ!)

「やる!僕濯ぐ人するよっ!」

パタパタと小走りでシンクに駆け寄り、佐古の洗った食器を濯いでいく。


「ねぇねぇ、洗う人と濯ぐ人ってなに?」

食べ終わった食器をシンクまで運んでくれながら、イロハたちが訊いてきた。

「片付ける人たちのことだよ。食器を洗うのが〝洗う人〟、それを濯ぐのが〝濯ぐ人〟。
僕の家で言ってたんだ」

「へーそうなんだ!じゃぁハルは誰かと2人で片付けしてたの?」

(ぁ、しまっ)

「っ、ぅん、そうだよっ」

「へー!お手伝いさんとかお母さんとか?」


(違う)


『はい!今日は僕が洗う人だからアキ濯ぐ人ね?』

『え、ハルこの前も洗う人やってなかったっけ?』

『いーの! 僕手があわあわになるのが好きだから、ね?お願いっ!』

『はぁぁ、もーしょうがないなぁ……』

『やった!アキありがとう!』

そうやってハルの手は毎回泡まみれになって、でもそれが楽しくて楽しくて。

それが、俺たちの遊びでもあって。

そんな……懐かしい思い出。


ーーだが、


ぎゅっと奥歯を噛み締めて、あははと笑ってみせる。

「ぅんっ、普段はお手伝いさんとやってたよ」

「そうなんだー!だからテキパキできるんだね!」

ねーねーおれたちも使おうカズマ!

ん、別に構わないが。

やったー!

わいわい2人の話す声が、遠くに聞こえる。


……今、顔がシンクの方を向いてて良かった。


後ろでテーブルを綺麗にしてくれてるイロハたちに、こんな顔見られることは無い。

「………っ」

俺の居場所は無いと自分に言い聞かせたような、思い出を自分で否定してしまったような。

そんなことを自分で、言って。

(っ、ハル……っ)

おれ、ちゃんといる…?


どうしようもなく、ハルに会いたくなった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

処理中です...