10 / 536
友だち編
side櫻: 儚い子
しおりを挟む〝儚い子〟だとーー
下手すればすぐに消えてしまいそうな
そんな子だと思った。
「それでは失礼します」と声をかけ、パタンとドアを閉める。
今日は、あの有名なTAKANASHIグループのひとり息子が寮に到着する日だった。
その子は生まれつき身体が弱く、パーティなどに出席されたことは一度もない為誰ひとりその姿を見たことはない。
それ故、数々の噂が流れていて。
グループの方々に大変過保護にされているからとても我儘な性格だとか、容姿が非常に美しいだとか、その逆だとか……
『TAKANASHIグループの息子が今年からこの高校に通うそうだ。あそこの息子は生まれてこのかた体調が麗しくないそうでな。この学校で万が一のことがあり、あの会社を敵に回したら堪ったもんじゃない。
そこで、このカードで救護室の他にお前の部屋も開けられるようにしてくれないだろうか』
理事長にそう言われた時、この人は何を言ってるんだろうかと耳を疑った。
長年この学校の寮監をしてきて、ここの特色やそれに伴う自分の容姿等も自覚している。
(その子に自分の部屋を開けられるだと…? それこそ堪ったもんじゃない!)
見ず知らずの子に毎日のように来られたら
そういう意味で詰め寄られたら
……それはとてつもなく大変な事になる。
(だが、理事長に言われたのなら…しないわけには……)
それから、緊張して今日を迎えて。
近づきすぎず遠からず、あくまでも寮母としての立ち位置で話そうと
理事長には悪いが、自分の部屋も開けられることはやはり言わないでおこうと
自分が気に掛けていれば何も問題はないだろうと
そう思って、彼を待っていた。
……だが、
『か、かわ!? ゃ、ぇと、そのっ』
キラキラした目でポーッとシャンデリアに見惚れている姿や
それを見られていて恥ずかしかったのか『あっ、ぇっと』と一生懸命挽回しようと慌てている様子に、自然と笑みが浮かんできて
思わず、彼の頭を撫でてしまっていた。
「………」
自分の両手を見つめる。
(あの時、)
私の手にグリグリと頭を押し付けられ、嫌だったかと思い手を離した時の…彼の顔。
嬉しそうな、悲しそうな、何かを懐かしむような……そんな切ない顔で。
何故だか目の前の彼が消えてしまいそうな気がして、思わず両手で頬を包んでしまった。
(必死に「大丈夫」と繰り返したけど、何が大丈夫たったんだろうか……)
自分でもよくわからない。
でも「大丈夫」と言ってあげなければいけない気がした。
あの子の細い身体が、そう見せるのだろうか。
本当に儚い雰囲気を漂わせる…そんな綺麗な子で。
気がついたら、自分からこのカードで私の部屋も開けられるということを教えてしまっていた。
警戒していたような子では、全くなかったから。
寧ろ、その逆だった。
とても素直で……
「クスッ、今日会っただけで私は何回〝ありがとうございます〟と言われたのでしょうか」
荷物を代わりに運んだ時、寮の事を説明した時、ドアを開けてあげた時……
「お世話になりますっ!」とペコリと頭を下げられたのを思い出す。
きっと何もかもが、初めてなのだろう。
生まれつき身体が弱く外に出ていない彼にとっては、見るもの感じること全てが初めてなのかもしれない。
安心して、沢山のことを学んで欲しい。
まだ会ったばかりなのに、たったこれだけの時間であの子を助けたいと思っている自分がいる。
私は、どうしたのだろうか……
こんなこと今まで一度もなかった…彼の危うさが、そうさせているのだろうか。
もっと心を開いて、懐いて欲しいと思う。
(って、あの子は動物じゃない)
でも、話している最中何となく警戒されている感じが…じぃぃっと伺っている感じが
人肌に慣れていないような、あの感じが
なんとなく、野良猫っぽい……
(クスッ、これからが楽しみだな)
Prrrrrr……
ポケットのスマホが震えて、確認して笑みがこぼれた。
「もしもし」
『例の奴どうだった、もういろいろと終わっただろ?』
「はい。想像していた子と全く正反対の、とても可愛らしい子でしたよ」
『…お前がそう言うのも、なんかムカつくな……』
はぁぁぁ、と向こうからため息が聞こてクスクス笑う。
『まぁ、俺は自分で会わないと信じねぇたちだし会ってから考える。お前ももっと危機感持て! まだ少し会っただけだぞ? あいつはお前の部屋開けられるカード持ってんだし、本気で気をつけろ。
なんかあったらすぐ俺に言え。いいな?』
(ふふ、確かに少ししか話す機会は無かったが、あの子に限ってそれは無いと思うんだけどな……)
それでもこんなに真剣に心配してくれるこの恋人が、嬉しくて。
「はい」と少し嬉しそうな声音で返事をしたら、また呆れられたように溜め息を吐かれた。
0
お気に入りに追加
352
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
当たって砕けていたら彼氏ができました
ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。
学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。
教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。
諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。
寺田絋
自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子
×
三倉莉緒
クールイケメン男子と思われているただの陰キャ
そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。
お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。
お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる