9 / 536
友だち編
3
しおりを挟む無意識に、撫でてくれてる手に頭を押し付けてしまってたらしい。
スッとその手が控えめに離れていく。
「ぁ……」
(やだ、もっと撫でて……)
離れていく手を目で追って。
「!!」
(っ、しまった……!)
そうだ、ここは学生寮。
屋敷じゃない。
(俺いま絶対変だった、どうしよう…っ)
さぁぁっと血の気が引いていく。
「ぁ、あのっ、すいませーー」
フワリ
「え……?」
両手で、優しく両頬を包まれた。
「大丈夫ですよ? 小鳥遊くん。
大丈夫、大丈夫ですから…」
優しげな顔で微笑まれて、今度は頬を撫でてくれて。
(ぁ……)
その人の手に自分の両手を重ねて、目を閉じる
あったかい、な………
(ハル……)
暫くそうしてくれて、ゆっくりと手が離された。
「さぁ、もう大丈夫でしょうか? 小鳥遊くん」
「ぁ、はいっ。その、すいません……」
(うわぁ、初日から俺何してんだろう)
かぁぁっと顔が赤くなって、クスクスと笑われてしまう。
「それでは改めまして、ようこそ学生寮へ。
私は寮監の櫻と申します。寮で何かありましたら私に何なりとお申し付けください」
「は、はぃっ。初めまして、僕はーー」
「小鳥遊ハルくんですね。本日到着されると連絡を受けていました。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそっ、お世話になります」
綺麗に頭を下げられ、同じくペコッと頭を下げる。
「クスクスッ、頭を上げてください。
長年こちらで寮監をしていますが、お世話になりますと頭を下げられたの初めてです。手持ちの荷物はこれだけでしょうか?」
「はい、そうです」
「かしこまりました。
それでは、部屋まで案内いたしますね」
ゴロゴロと櫻さんが荷物を押してくれて、それにもお礼を言いながら着いて行くと優しく微笑まれた。
「この学生寮は1階と2階が1年生、3階と4階が2年生、5階と6階が3年生、そして7階が生徒会や風紀・特待生などのフロアとなっています。
寮の中央と奥にエレベーターがありそれに乗って自由に行き来できますが、基本的に自分の学年以外のフロアで降りることは禁止です。
1階には、寮監室や救護室もあります」
「はい」
「談話スペースは中央エレベーターの隣にあり、消灯時間まで好きに使うことができます。
パソコンやコピー機などもそこにあるので、自由に使ってください」
「わかりました」
(うわぁ、何でも揃ってるんだなぁ…さすが……)
そのまま櫻さんの話をつらつら聞いてると、ピタッとその足が止まる。
「こちらが、小鳥遊くんの部屋ですよ」
「え、ここですか?」
まだ、そんなに歩いてない。
玄関に近いんだなぁ…と思っていると、クスリと微笑まれた。
「小鳥遊くんは生まれつき身体が悪く、あまり家からも出られなかったと聞いています。今日はここまで来るのも大変だったでしょう。
これから毎日ここを歩かなければならないので、少しでも近い方がいいかと」
1階の107号室。
目の前にはエレベーターがあって
直ぐそこに談話スペースもあって
そして、玄関から近い。
(櫻さん…ハルのこと考慮してこの部屋にしてくれたんだ……)
「……っ、ありがとうございます!」
素直に嬉しくて、また頭を下げる。
「ふふっ、顔を上げてください。当然のことをしたまでですよ。気に入っていただけて良かったです。
それでは、カードを渡しますね」
淡い緑色の107と書かれたカードが、櫻さんのポケットから出てきた。
「1年生は緑と決まっていますが、小鳥遊くんのカードは他の生徒とはやや違う淡い緑色です。体調を考慮して、万が一何かあった時の為に学校の保健室や寮の救護室などを開けることができるようになっています。
失くさないように、気をつけて」
部屋へは、カードをこのようにセンサーにかざしてください。
櫻さんの手がカードをセンサーにかざすと、ピッといってカチャッとドアが開く。
(うわぁ……お金持ちは違うな………)
呆然としていると、またクスクス笑われた。
「食堂などでもこのカードを使いますよ。そちらは、新しく出来るお友だちやウェイターに聞いてくださいね」
「は、はいっ」
今さらっと凄いこと聞いたけど食堂にウェイター!?
まじか……
「どうぞ」とドアを開けてくれる櫻さんにまたお礼を言って、部屋に入る。
「残りの荷物も時期届くと思います。届いたらまた連絡いたしますね」
「分かりました」
「それとーー」
パタン、と櫻さんも一緒に入ると部屋のドアが閉まり
そのまま、櫻さんは玄関で片膝をつきながら俺の手にカードを握らせてくれた。
「ぇ、と、あの……?」
「このカードは、私のいる寮監室も開けることができます。もし体調が悪くなくても、さっきみたいに不安になったり心細くなったりしたらいつでも訪ねてきてください。
………ね?」
(ぁ……)
心臓がぎゅーっとなって、泣きそうになる。
(今日の俺、何か変だ)
悲しくなったり、嬉しくなったり。
今まで誰かに優しくされるなんて
こんなに気にかけてもらえる事なんて
ハル以外にはなくて。
櫻さんのこの言葉はハルに向けてだけど
でもハルの中の俺に向けて言ってくれたような
そんな気がして。
「っ、ぁりがと、ござい、ます……」
お礼の言葉が、少しだけ、震えてしまった。
0
お気に入りに追加
352
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
当たって砕けていたら彼氏ができました
ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。
学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。
教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。
諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。
寺田絋
自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子
×
三倉莉緒
クールイケメン男子と思われているただの陰キャ
そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。
お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。
お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる