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1章 日常になっていく日々

1話 

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 かつりかつり、と足を踏み出すたびに小気味よい音が響く。その音に隠しきれないほどにひそひそと何かを言っているのが聞こえてくる。陰口なんてもう慣れた。逆に2年も飽きもせずよく人の悪口を思いつくものだな、と感心しているかも。

 後悔は、ない。あの日、お姉様から生まれた子の母親になると決めたこと。

 お姉様が大切だった。自分にとって唯一の家族だと思っていたから。でも、お姉様がジェラミア様、隣国から嫁いできたベルク殿下の妃に盛られた毒で倒れられた後、私に残されたのはあの子しかいないと、そう思った。そしてあの子になんの裏もなく愛情を注いであげられるのも私しかいないと。だから、覚悟を決めたのだ。お姉様の代わりに、あの子を立派に育ててみせる、と。

 ならばと私がひとまず目指したのは、しっかりとした地位を確立すること。これは今現在も目指していることだけれど。私の才能は魔法に大分振り切れている。なので、学園を卒業した今、魔法師団で何かしらの地位につくことを目標にしています! まだまだ新人でなかなか気の遠くなる話しだけれど。

 それにしても今思えばなんとも的外れな発想だよね。私がいなくてもあの子の周りにはふさわしい人が用意される。私は叔母として愛してあげればよかったのだけれど。まあ、もう今更考えても仕方ない! 現に私は今殿下の宮に住まわせてもらっているのだから。


「おはようございます」

「お、おはようウェルカ。
 今日もまた何か言われてきたの?」

 ララさんもよくずっと面白がっていられるよね。こうしておもしろがってからかってくれる人がいるから気が楽というのはあるのかもしれない。あれを、重いものとして受け止めなくていいって。

「ええ、まあ。
 きっと明日は何をいってやろうかって考えているのでしょうね」

「いいね~、暇な人は。
 さて、忙しい我々はさっさと仕事を始めましょうか」

「そうしましょう」

 さてさて、今日は何からやらないといけないかな。えっと、王城内の結界の乱れの確認とあとは……。



「ウェルカ!
 もう今日は上がったらどうだい?」

「あ、副団長」

 カリカリと書類仕事をこなしていると、不意に声をかけられる。もうそんなに時間がたっていたんだ。

「そうそう、待ちきれなくてかわいいお迎えが来ているわよ」

 くすくすと笑いながらララさんが指さした先には……。

「レン⁉
 どうしてここに?」

「あ、申し訳ございません、ウェルカ様。
 その、どうしてもウェルカ様に会いたがって」

 そこには困った顔でレン、レベルナートを抱いたクルトラ子爵夫人が立っていた。会いたがって、という言葉は本当なのだろう。なんだか目が赤くなっているし、ぐずぐずしている。これは遅くなってしまったな。隣にはヴァークもついてきたんだね。

「いいえ、こちらこそ申し訳ございません。
 もうすぐで切りがいいので、少しだけ待ってください」

 あわてて今確認している書類を終わらせる。うん、これで間違いはない。

「すみません、今日はこれで失礼します」

「ええ、また明日ね」

 ばいばい、とララさんはレンに手を振ってくれるけれど、肝心のレンはもう私に手を伸ばしている。すみません、と小さく謝ると気にしないで、と笑ってくれた。

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