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5章 視察(下)
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しおりを挟む「おい、お前はそのままいけ。
状況を伝えろ」
やっぱりこっちにくるか。しかも鈍い方じゃなくて、鋭いほう。きっとこの闇夜の中でも僕らを見つけられるのだろう。まずいな。もう一つまずいことがある。縄を切ってこうして脱出できたはいいが、めまいがするのだ。なんとか逃げ出し、走ることができるがそれでも魔法を使ったときの精度が落ちることに変わりはない。
さて、山の中に入ったはいいが、ここからどうする。予想以上に僕たちが逃げ出したことがばれたのが早すぎた。これじゃ追いつかれる。
「シント、止まって」
「アラン?」
「今こっちに向かってくる男、もう少し近づいたらできる限りの速さで逃げるんだ」
「え、それじゃあアランは?」
「僕は大丈夫。
剣はあれだけど、魔法はシントよりもできるって知っているでしょう。
近くに守る人がいない方が自由に使える」
「アラン……。
わかった、でも絶対に無事でいてね」
「もちろん。
あと、これを持って行って」
言いながら、なぜか回収されなかったナイフを渡す。シントにはもしかしたら魔法よりもこっちの方が使いやすいかもしれないから。今は少しでも無事でいられる確率を上げなくては。
「え、これ……」
「大切なものだから、絶対返して」
「え、あ、うん……、うん!」
よし、シントもおびえていない。きっと大丈夫だ。そうしている間にも男は着実にこちらに近づいてきていた。本当になんでこんなに正確にこっちの位置を把握しているのか。
「よし、行って」
ぐっとシントの背中を押す。シントもそれに逆らわずに走り出す。
「あっはは、かくれんぼは終わりか?」
もう少し、もう少しだけ近づいてから。どのみちこちらの位置はきっとばれているんだ。
「けなげだねぇ。
自分を犠牲にして殿下を、か。
なぁ、アラミレーテ、だったか?」
木の陰から数歩男に近づく。やっぱり正確にとらえている。この感性の鋭さは何なんだ。
「ねえ、おじさん誰なの?
なんで僕たちを狙う?」
「おじさん、ねぇ。
まあいいが。
なんでってそりゃ報酬がいいからだ。
そんで面白そうだった」
「ふーん。
いいの?
殿下、どんどん離れていくよ」
「別に。
どのみちお前が行かせてくれそうにねぇし、どちらかというと狙いはお前だからな」
僕が狙い? どういうことだ。ただの辺境伯の次男なんだけど。もう、いいか。シントは十分離れたはず。万が一この男を逃がすことになってもシントが逃げきれれば、まあいい。
「はっ、そんなにちらちらとそっちを見てたら教えてるようなもんだぜ?
この場を切り抜けたら何か報酬をやるとでも言われたか?
それとも、そうだな王子である自分が害を受けたら、共にいたお前にどんな罰が下されるかわからないとか?」
「そんなことは言われていない」
「ははっ、じゃあお前はただの友情ごっこでここにいるのか。
どうせ切り捨てられるくせに」
それはない。僕は自分で先に行くように言ったし、何よりシントは今誰よりも古くから知っていて、誰よりも信用できる人だ。まあ、そんなことこいつが知っているわけがないんだが。
それよりも気になることがある。
「どうして、会話に付き合う?
こうしているうちに殿下が死角からこちらを狙っているとか考えないの?」
「はっ。
それはねぇな。
お前がいなくなったのなら警戒するが、あいつはひどくわかりやすい。
近づいているならすぐ気づく。
つまり、お前は今完全に孤立しているってことだ。
……、そうだその勇気を賞して一ついいことを教えてやろう。
お前らを狙っている奴の親玉、それはもう一人の殿下だ。
かわいそうになぁ、なんでお前の方が恨まれているのか知らねぇが、弟ももういらねぇとよ」
「でもさっきは僕の方を狙っているって言っていたよね?」
「あ?
そうだったか?
んなこまけぇことはどうでもいいんだよ」
エキソバート殿下。確かに誰かがいらないことを吹き込んでいるといっていたっけ。でも、この状況で出てくる言葉を誰が信じる? ……普通の11歳だったら信じるのかも。まあ、あいにく僕はそれに当てはまらないわけだが。
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