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五章 学園生活 1‐1

65 ランスの視点

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  アーネは大丈夫かな。
 ああして熱を出すのはまあ、よくあることだからきっと大丈夫なのだろうけど。
 うーん、と悩んでいたからか私はすぐそばまで来ていた存在に気がつかなかった。

「帰ったのかい、ランス」

 後ろからの声に、ばっと振り返るとそこには男性が一人。
 よく見慣れたその人は、私の父だ。

「父、さん。
 今戻りました」

 いまだに私は、この人の前では少し緊張してしまう。
 理由を聞かれても困るけど。

「アーネミリアはどうでした?」

「変わりない様子でしたよ。
 今は、魔力暴走で熱を出しているようですが……」

「そうですか。
 早く良くなるよに私も願っていましょう。
 ……、ところで、ランスはずいぶんとアーネミリアになついたんだな。
 はじめはあんなにも冷たい態度をとっていたのに」

 含み笑いをするような父の態度に、思わずむっとしてしまったのは仕方のないことだろう。
 そんな反応しなくてもいいじゃないか。
 自分でも、その変化を自覚はしている。

「ああ、早くアーネミリアを迎えに行きたいな。
 今はまだ八歳だったけ」

 そんな私の態度を父さんは一切気にした様子はない。
 それはもういつものことなのでいいんだけど。

「はい、そうです。
 時期はまだ早いかと思いますけど」

「そうだね、もう少し待たなくては。
 でも、私にとっては十年も二十年も一瞬のこと。
 楽しみだ、アーネミリアがどんなふうに成長するのか。
 真実を知った時、どんな反応をするのか。
 ああ、本当に楽しみだ」

 うっとりとしたように父さんはそう話す。
 その様子に私はぞっとした。
 あの人がいなくなってから、この人はどこかおかしくなってしまった。
 父さんにとって唯一無二の存在であるあの人。
 ごめんね、父さん。

 その言葉を口に出すことは今はできない。
 でも、いつかその時は来るだろう。

「そうですね。
 さあ、戻りましょう、父さん。
 アーネはすぐに成長しますよ。
 それまでは、見守りましょう」

 そうだね、と返した父さんの背を押しながら部屋へと向かっていく。
 

「お疲れ、ランス。
 父さんの相手もして、ありがと」

 父さんを部屋に送った後、仲間にねぎらいの言葉をかけられる。
 そんな悲しそうにしないでよ、そんな言葉も口にしない。
 きっと今の私も同じ顔をしているから。

「うん、ありがとう」

「ああ、俺も会ってみたいなー。
 アーネミリア、だっけ」

「そう。
 でも、会いに行かないでね」

「わかってるって。
 待ってるよ、ちゃんとここで」

 仲間は私の肩にぽん、と手を置くと去っていった。

 あの人がここからいなくなって、もうどれくらいの時間が経ったのだろうか。
 それでも、みんなが抱えた傷はいまだ、癒えないまま……。
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