66 / 261
五章 学園生活 1‐1
65 ランスの視点
しおりを挟む
アーネは大丈夫かな。
ああして熱を出すのはまあ、よくあることだからきっと大丈夫なのだろうけど。
うーん、と悩んでいたからか私はすぐそばまで来ていた存在に気がつかなかった。
「帰ったのかい、ランス」
後ろからの声に、ばっと振り返るとそこには男性が一人。
よく見慣れたその人は、私の父だ。
「父、さん。
今戻りました」
いまだに私は、この人の前では少し緊張してしまう。
理由を聞かれても困るけど。
「アーネミリアはどうでした?」
「変わりない様子でしたよ。
今は、魔力暴走で熱を出しているようですが……」
「そうですか。
早く良くなるよに私も願っていましょう。
……、ところで、ランスはずいぶんとアーネミリアになついたんだな。
はじめはあんなにも冷たい態度をとっていたのに」
含み笑いをするような父の態度に、思わずむっとしてしまったのは仕方のないことだろう。
そんな反応しなくてもいいじゃないか。
自分でも、その変化を自覚はしている。
「ああ、早くアーネミリアを迎えに行きたいな。
今はまだ八歳だったけ」
そんな私の態度を父さんは一切気にした様子はない。
それはもういつものことなのでいいんだけど。
「はい、そうです。
時期はまだ早いかと思いますけど」
「そうだね、もう少し待たなくては。
でも、私にとっては十年も二十年も一瞬のこと。
楽しみだ、アーネミリアがどんなふうに成長するのか。
真実を知った時、どんな反応をするのか。
ああ、本当に楽しみだ」
うっとりとしたように父さんはそう話す。
その様子に私はぞっとした。
あの人がいなくなってから、この人はどこかおかしくなってしまった。
父さんにとって唯一無二の存在であるあの人。
ごめんね、父さん。
その言葉を口に出すことは今はできない。
でも、いつかその時は来るだろう。
「そうですね。
さあ、戻りましょう、父さん。
アーネはすぐに成長しますよ。
それまでは、見守りましょう」
そうだね、と返した父さんの背を押しながら部屋へと向かっていく。
「お疲れ、ランス。
父さんの相手もして、ありがと」
父さんを部屋に送った後、仲間にねぎらいの言葉をかけられる。
そんな悲しそうにしないでよ、そんな言葉も口にしない。
きっと今の私も同じ顔をしているから。
「うん、ありがとう」
「ああ、俺も会ってみたいなー。
アーネミリア、だっけ」
「そう。
でも、会いに行かないでね」
「わかってるって。
待ってるよ、ちゃんとここで」
仲間は私の肩にぽん、と手を置くと去っていった。
あの人がここからいなくなって、もうどれくらいの時間が経ったのだろうか。
それでも、みんなが抱えた傷はいまだ、癒えないまま……。
ああして熱を出すのはまあ、よくあることだからきっと大丈夫なのだろうけど。
うーん、と悩んでいたからか私はすぐそばまで来ていた存在に気がつかなかった。
「帰ったのかい、ランス」
後ろからの声に、ばっと振り返るとそこには男性が一人。
よく見慣れたその人は、私の父だ。
「父、さん。
今戻りました」
いまだに私は、この人の前では少し緊張してしまう。
理由を聞かれても困るけど。
「アーネミリアはどうでした?」
「変わりない様子でしたよ。
今は、魔力暴走で熱を出しているようですが……」
「そうですか。
早く良くなるよに私も願っていましょう。
……、ところで、ランスはずいぶんとアーネミリアになついたんだな。
はじめはあんなにも冷たい態度をとっていたのに」
含み笑いをするような父の態度に、思わずむっとしてしまったのは仕方のないことだろう。
そんな反応しなくてもいいじゃないか。
自分でも、その変化を自覚はしている。
「ああ、早くアーネミリアを迎えに行きたいな。
今はまだ八歳だったけ」
そんな私の態度を父さんは一切気にした様子はない。
それはもういつものことなのでいいんだけど。
「はい、そうです。
時期はまだ早いかと思いますけど」
「そうだね、もう少し待たなくては。
でも、私にとっては十年も二十年も一瞬のこと。
楽しみだ、アーネミリアがどんなふうに成長するのか。
真実を知った時、どんな反応をするのか。
ああ、本当に楽しみだ」
うっとりとしたように父さんはそう話す。
その様子に私はぞっとした。
あの人がいなくなってから、この人はどこかおかしくなってしまった。
父さんにとって唯一無二の存在であるあの人。
ごめんね、父さん。
その言葉を口に出すことは今はできない。
でも、いつかその時は来るだろう。
「そうですね。
さあ、戻りましょう、父さん。
アーネはすぐに成長しますよ。
それまでは、見守りましょう」
そうだね、と返した父さんの背を押しながら部屋へと向かっていく。
「お疲れ、ランス。
父さんの相手もして、ありがと」
父さんを部屋に送った後、仲間にねぎらいの言葉をかけられる。
そんな悲しそうにしないでよ、そんな言葉も口にしない。
きっと今の私も同じ顔をしているから。
「うん、ありがとう」
「ああ、俺も会ってみたいなー。
アーネミリア、だっけ」
「そう。
でも、会いに行かないでね」
「わかってるって。
待ってるよ、ちゃんとここで」
仲間は私の肩にぽん、と手を置くと去っていった。
あの人がここからいなくなって、もうどれくらいの時間が経ったのだろうか。
それでも、みんなが抱えた傷はいまだ、癒えないまま……。
0
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
やさぐれ令嬢
龍槍 椀
ファンタジー
ベルダンディー=ファーリエ=クリストバーグは、グスターボ国の侯爵令嬢 五歳の時から、聖王太子の婚約者と遇され、御妃教育に頑張っていた。 18歳になり、マリューシュ帝国学院の最終学年。そして、最後の舞踏会。 舞踏会の後は、後宮に入り聖王太子の妻としての教育をさらに重ねる事に成っていた。
しかし、彼女は極めて冷めている。 実母が亡くなってから、この国に不満しかなく、やさぐれお嬢様になってしまった。 モチロン表面上(ねこかぶり)は大変お上手。 夢はこの国から出て行くこと。 何もかも投げ捨てて。
ベルダンディーに、望みの明日は来るのでしょうか?
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる