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九章 初めての夏休み

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「アーネ……?」
 
 少ししてこちらに来た父様は、やっぱり驚いた顔をしている。
 そして隣のルカさんに気が付くと、一瞬固まってしまった。

「ひとまずこっちへ」

 人ごみの中、妙に人目を集めてしまったこの状況では引き続きお祭りを楽しむこともできず、父様の後をついていく。
 父様と一緒に何人かの人も来ていて、歩き出すとそっと横や後ろを守ってくれた。
 ちなみに絡んできた五人はかつぎあっげられて、どこかへと連れていかれた。
 
 少し歩くと、立派な建物が見えてきた。
 建国祭の本部がここらしい。

 とある部屋に通されると、席を勧められる。
 そして少し待ってろと言って父様たちはどこかへと行ってしまった。

「大丈夫ですか、ルカさん」

 いきなり騎士団の人が現れてごたごたしてしまったから、ルカさんの様子を見ていなかったけど……。
 心配になってそっと様子をうかがってみると、ぐっと手を握って少し震えている。
 そして拳の上にぽたり、としずくが落ちてきた。
 
 その様子に思わずぎゅっとルカさんを抱きしめた。
 きっと先ほどのような事態に陥ったことがなかったであろうルカさんだから、とても怖かったんだろう。
 少しの間そうしていると、ノックの音が聞こえた。
 その音に驚いて離れると、もうルカさんの涙は止まっていた。

「どうぞ」

「失礼いたします。
 お茶をお持ちいたしました」

「ありがとうございます」

 この時にはもういつものルカさんに戻っていて、微笑んでお礼を言っていた。
 その様子はさすがとか言えない。

「アーネさん、ありがとうござました。
 いろいろとご迷惑をおかけしてしまいましたわ」

「気にしないでくださいね」

 お茶をいただきながら、そうして話をしているとお父様たちが入ってきた。

「大丈夫でしたか、ルカミア様」

 そっとルカさんの前に膝をつき、そう尋ねる。
 こくりとうなずくと、ほっとしたような顔をした。
 さすがに王女様にけがを負わせるわけにはいかないもんね。

「アーネも大丈夫だったか?」

「はい」

 さて、この後また建国祭に戻るわけにはいかにだろうしな。
 せっかくルカさんと遊びに来れたのに……。

「さて、今日はもう帰った方がいいだろう。
 迎えをやろう。
 アーネは、一緒に帰るか」

「え、あのお仕事の方は大丈夫なのですか?」

「どうにかなる」

 本当に大丈夫なのか怪しいところだが、言いきられてしまってはこれ以上は何も言えない。
 ここはおとなしく帰ったほうがよさそうだ。

「ルカさん、お借りした服は必ず返しますね。
 今日は……」

「はい。
 また遊びましょう」

 申し訳なさを感じつつ、そう伝えるとルカさんは残念そうにそういった。
 せっかくのお出かけをこんな風に台無しにするなんて、本当に許せない。




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