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九章 初めての夏休み

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「次はなにを見ましょう?」

「あ、あのお店はどうでしょうか」
 
 聞かれてぱっと目に入ったのは手作りの小物を売っているお店。
 置いてあるものはどれもとても可愛い。
 
「行ってみましょうか」

「いらっしゃいませ! 
 ゆっくり見て行ってくださいね」

 にこやかに店主さんが笑う。
 思っていたよりも若い人が店主だった。
 目に入ったのは糸を編んで作られたバラの形の髪飾り。
 ピンクの色も鮮やかだし、これはルカさんに似合いそうな……。

「ルカさん、これなんてどうですか?」

「とてもきれいですね。
 丁寧に編まれています」

「ありがとうございます。
 一つ一つ丁寧に作っているので、そういっていただけるととても嬉しいです!」

 本当に嬉しそうに笑われると、何もしていないのにいいことをした気持ちになってくる。
 今は庶民のふりをしているから、この人にとって私たちはただの小さいお客さんなのにこうして言葉をちゃんと受け止めてもらえるのはなかなかないことなのでは、なんて思う。
 この人はきっととても素直な人なんだろうな。

「どうかしましたか、アーネさん?」

「あっ、いいえなんでもないです!」

 そうですか? とルカさんに不思議な顔をされてしまった……。
 気を取り直してまたお店を見ていると、これはどうでしょう? とルカさんから留め具が差し出される。
 そこには先ほど私がルカさんに見せたものと色違いの、私の瞳の色のバラが付けられていた。

「可愛いです!」

「せっかくなので、買っていきませんか? 
 私もこちらの留め具の方を……」

「そうですね」

 ルカさんが手に取ったのは、先ほどのピンク色のバラのブローチバージョン。
 確かに髪飾りをつけるのは基本外に出る時であり、ルカさんがここで買ったものをつけないだろう。
 ならばまだ室内でも使うものを買った方がいいかもしれない。


「あの、でもそちらのものは少々高い、ですよ?」

 少し気まずそうに店主さんがそういう。
 そっか、この値段は普通この年齢の子が買うには高いのか……。 
 現金をもっての買い物とかしたことがないから相場が全く分からないや。

「大丈夫ですわ。
 ちゃんと持ってきておりますので」

 そんな店主さんの言葉に、きっぱりと返すルカさんはさすがというか。
 そしてルカさんがお金を払うと、少し戸惑いながらも店主さんがお金を受け取り留め具を包む。
 ルカさんが商品を受け取ると、すぐに私もお金を払い商品を受け取る。

「ありがとうございました!」

 ぺこっとしてお店をあとにすると、慌てたように店主さんがそう返した。
 驚かせてしまったみたいでなんだか申し訳なかったな。

「可愛いものが買えてよかったですわ。 
 寒くなってきたらぜひ使いましょうね」

「はい」

 少し上機嫌に歩き始めた。
 すこしこの人ごみに慣れてきて気が緩んだころ、明らかにごろつきと思われる5人組が目の前に現れた。


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