上 下
252 / 261
最終章 

251 リディアとカルベア 8

しおりを挟む
「ねえ、リディア。
 そろそろ良いと思うんだ」

「そうね、カルベア。
 もう聖剣は完成したわ。
 これ以上待っているときっと間に合わなくなる」

「ああ。
 じゃあ、行こうか」

 静かに相談を終えると、私たちはとあるところへ向か始めた。破壊神の居場所はだいたいわかっていた。

「リディア、この戦いが終わったらさ、私と結婚してくれないか?」

 急に照れ臭そうにカルベアがそんなことを言うから、私は驚いて彼をみた。その瞳は気まずそうにしているけど、その奥に隠し切れない不安があって、ああ、彼も同じなんだって思った。

 怖いのだ、これから対峙する破壊神が。人々の心を惑わせ、優しいものが凶器すらもつように変えてしまう、そんな破壊神が。
 私たちは創造神によって力を与えられた。だから戦うしかないが、本当はどこにでもいる少年少女なのだ。
 怖くないわけがない。
 
「うん、いいわよ」

 だから私はそう答えた。平和が訪れた世界で、彼とそんな夢を見ていたかったから。
 そんな希望がないと不安に押しつぶされそうだったから。
 だから、カルベアが示してくれたそんな希望にすがったのだ。
 カルベアは本当に嬉しそうに笑うと、行こうかと手を差し伸べていた。その手を取り、私たちは一歩一歩終わりへと向かっていた。

 
 たどり着いたのは、もう人が訪れなくなってしまった洞窟の前。この奥に破壊神はいるのだ。
 
「覚悟はいいかい?」

 なんの覚悟か、そんなことはあえて聞かなかった。静かにうなずくと、洞窟の中に入っていく。
 一歩踏み入れてもわかる、まとわりつくような闇。

 聖魔法を己にまとわせながらないと、息すらままならないその空間をしたすらに進んでいく。
 

 そして、とうとう人の形をした何かに行きついた。

「破壊神のお出ましだ」

「ええ」
 
 この地上に降りたときに憑依したのであろう人間はかろうじて人型をとどめている程度のひどいものだった。思わず目をそらしたくなるけどそういうわけにもいかない。

「ややややや、っとおおおおおお、ききたあああかあああああ」


 壊れたもののようにキンキンとうるさい声で、それはそんな風に言ってきた。
 正直とても気味が悪い。
 持ってきていた聖剣を構えると、聖魔法をこの部屋に充満させた。

「うぅぅがぁぁぁぁぁぁ! 
 きさまらぁぁぁぁぁぁ」

 狂ったように叫びながら破壊神はこちらに襲い掛かってくる。聖剣で攻撃しようにもなかなか当たらない。
 
 そして、間合いを詰められ何か黒い霧のようなものをこちらに放ってきた。 とっさに避けるも腕にかすかに当たってしまう。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 靄が当たったところがえぐられるように痛んだ。
 痛みに動けなくなっていると、破壊神は重ねて襲おうとする。すぐにカルベアが助けに入ってきてくれたおかげで、何とか助かった。

「リディア、もう一度聖魔法を!!」

 聖剣で破壊神を切りつけ、動きを止めさせた後にカルベアはそう叫ぶ。それに私は必死に答えた。
 
「これでとどめだぁぁぁ!」

 二人の聖魔法をもろにうけ完全に動けなくなった破壊神にもう一度聖剣をつきたてる。抜けないようになるべく深くに。
 それが今私たちにできる精一杯のことだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やさぐれ令嬢

龍槍 椀 
ファンタジー
ベルダンディー=ファーリエ=クリストバーグは、グスターボ国の侯爵令嬢 五歳の時から、聖王太子の婚約者と遇され、御妃教育に頑張っていた。 18歳になり、マリューシュ帝国学院の最終学年。そして、最後の舞踏会。 舞踏会の後は、後宮に入り聖王太子の妻としての教育をさらに重ねる事に成っていた。  しかし、彼女は極めて冷めている。 実母が亡くなってから、この国に不満しかなく、やさぐれお嬢様になってしまった。 モチロン表面上(ねこかぶり)は大変お上手。 夢はこの国から出て行くこと。 何もかも投げ捨てて。  ベルダンディーに、望みの明日は来るのでしょうか?

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

処理中です...