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ペリット先生からの授業と並行して、私たちにはもう一つ授業が増えた。そこまで堅苦しいものではないけれど。それは平たく言えばマナーの授業。本来ならこれも専属の教師を招いたり、母親から教えてもらったりするらしい。だけど、私たちは事情が事情だ。知らない女性の大人は怖い。かといって今の母親であるセイラール様は、ね。うん。ほら、今身重だから。そう言えばもう臨月らしいので、そろそろ私たちに弟か妹が生まれるのだ。
と言うことで、では誰からマナーを教わっているのか。それは侍女長からだった。侍女長であるスザンナはもともと子爵家の出。マナー教師は伯爵家、侯爵家から招くことが多いらしい? けれど、まあ私たちとしても知らない人はね、遠慮したいから。
知らなかったのだけど、実は私たちが普段使っている食器は特別製の軽いものらしい。筋肉がなさすぎる私たちのために作ってもらった、と。まだ普通の食器は重すぎて使えないので、ひとまずはこの特別軽い食器でマナーを学ぼうと言われました。もっと力がついたら普通の食器となるみたい。つまりそれまでは外での食事、例えばお茶会とかは行けない。行きたくないから、これはむしろ大歓迎だけれど。
あとは礼なんかも私たちにはあまりに難しかった。だってね、体を支える筋力が! ない! まだましになったとはいえ、本当、まだまだ頑張らないとなって思わされた。だからひとまずはやれるところから、と始めてくれている。
ちなみに姿勢は初めから合格点でした。お察しの通りここはしつけられていたので。見栄えは良くしなくてはいけなかったものね、はい。
今日はいつもの通りペリット先生からの授業を受けていた。わずかでも理央の記憶がある私は例のごとく算数は楽勝。国語も侍女が頑張ってくれていたので楽勝。ちなみに外国語も割とすんなり理解した。地理と歴史は全て一からだったし、理央としても苦手だったけれど、ゲームの世界の詳細設定と思うとなんだかおもしろく感じた。もちろんペリット先生の教え方がよいのが一番の理由だけれど。
その結果、今はリテマリアとは少し違う内容をしている。地理や歴史は一緒に教えもらうのだけれど、他はそれぞれの進路に合わせて教えてくれている。この先生、本当に優秀。
「あ、まだ授業中だったのか」
集中して授業を聞いていると、不意に聞きなれた声が聞こえてきた。振り返ると予想通り、兄様の姿。後ろにはエミルークさんもいる。どうしたのだろう。
「こんにちは、アシェルタ。
ああ、もうエンペスリート公爵子息、と言った方がいいのかな」
「え、やめてくださいよ……。
いままで通りアシェルタ、でお願いします」
「そう?
わかった」
「え、あの、にいさまはせんせいとおしりあいだったのですか?」
「え、あ、うん。
学院での先輩だったんだ。
今は卒業されて、研究所に所属している、んですよね?」
「そうだよ。
まあ、一応本職は研究所になりますね。
家庭教師も、お二人にしかしていませんし」
「先輩が教えてくださるなら安心です」
にこりとほほ笑む兄様に、先生がおや、と眉を上げる。何か変なことを言っただろうか。
「うん、そうか。
安心してもらえているなら何よりだ。
公爵様からお話をいただいたときは驚いたけれど、お二人はいい生徒ですね。
話をお受けしてよかった。
家庭教師というのもなかなか面白いかもしれない、と思っているところですよ」
そんな風に思ってもらえていたなんて。ちょっと嬉しい。何を聞いても怒らずに答えてくれる先生だから邪険にはされていないとは思っていたけど、改めて聞くとほっとする。いい生徒になれているならよかった。
「さて、お兄さんのお迎えも来てしまったことですし、今日の授業はここまでにしましょうか。
また次の授業で」
「ありがとうございました」
「ありがございました」
手早く広げたものを片付けると、先生は図書室から出ていく。そう言えば、どうして兄様とエミルークさんはここに来たのだろう。
「邪魔をしてしまってごめんね。
ちょっと二人に話しておきたいことがあって」
「すみません。
実はセイラール様のことで。
しばらく私はセイラール様の方に付くことになりまして。
最近はお二人とも体調が安定していますので、朝晩の定期的な診察を中止したくお話に来たのです。
ただ、同じ屋敷内にはおりますので、何かありましたらすぐに呼んでくださいね」
「セイラールさんが……」
「もううまれるのですか?」
「はい。
お二人の妹か弟がお生まれになりますよ」
「たのしみです」
「じゃあ、そのためにもしっかりお姉さんにならないとね」
「はい」
とうとう生まれるんだ。ワクワクと目を輝かせていると、兄様とエミルークさんに笑われてしまった。赤ちゃん、絶対かわいいもの。まあ、セイラールさんが触らせてくれれば、だけれど。この家はどういう風に育てるんだろう。やっぱり貴族だから、乳母なのかも。
とにかく楽しみだ。
と言うことで、では誰からマナーを教わっているのか。それは侍女長からだった。侍女長であるスザンナはもともと子爵家の出。マナー教師は伯爵家、侯爵家から招くことが多いらしい? けれど、まあ私たちとしても知らない人はね、遠慮したいから。
知らなかったのだけど、実は私たちが普段使っている食器は特別製の軽いものらしい。筋肉がなさすぎる私たちのために作ってもらった、と。まだ普通の食器は重すぎて使えないので、ひとまずはこの特別軽い食器でマナーを学ぼうと言われました。もっと力がついたら普通の食器となるみたい。つまりそれまでは外での食事、例えばお茶会とかは行けない。行きたくないから、これはむしろ大歓迎だけれど。
あとは礼なんかも私たちにはあまりに難しかった。だってね、体を支える筋力が! ない! まだましになったとはいえ、本当、まだまだ頑張らないとなって思わされた。だからひとまずはやれるところから、と始めてくれている。
ちなみに姿勢は初めから合格点でした。お察しの通りここはしつけられていたので。見栄えは良くしなくてはいけなかったものね、はい。
今日はいつもの通りペリット先生からの授業を受けていた。わずかでも理央の記憶がある私は例のごとく算数は楽勝。国語も侍女が頑張ってくれていたので楽勝。ちなみに外国語も割とすんなり理解した。地理と歴史は全て一からだったし、理央としても苦手だったけれど、ゲームの世界の詳細設定と思うとなんだかおもしろく感じた。もちろんペリット先生の教え方がよいのが一番の理由だけれど。
その結果、今はリテマリアとは少し違う内容をしている。地理や歴史は一緒に教えもらうのだけれど、他はそれぞれの進路に合わせて教えてくれている。この先生、本当に優秀。
「あ、まだ授業中だったのか」
集中して授業を聞いていると、不意に聞きなれた声が聞こえてきた。振り返ると予想通り、兄様の姿。後ろにはエミルークさんもいる。どうしたのだろう。
「こんにちは、アシェルタ。
ああ、もうエンペスリート公爵子息、と言った方がいいのかな」
「え、やめてくださいよ……。
いままで通りアシェルタ、でお願いします」
「そう?
わかった」
「え、あの、にいさまはせんせいとおしりあいだったのですか?」
「え、あ、うん。
学院での先輩だったんだ。
今は卒業されて、研究所に所属している、んですよね?」
「そうだよ。
まあ、一応本職は研究所になりますね。
家庭教師も、お二人にしかしていませんし」
「先輩が教えてくださるなら安心です」
にこりとほほ笑む兄様に、先生がおや、と眉を上げる。何か変なことを言っただろうか。
「うん、そうか。
安心してもらえているなら何よりだ。
公爵様からお話をいただいたときは驚いたけれど、お二人はいい生徒ですね。
話をお受けしてよかった。
家庭教師というのもなかなか面白いかもしれない、と思っているところですよ」
そんな風に思ってもらえていたなんて。ちょっと嬉しい。何を聞いても怒らずに答えてくれる先生だから邪険にはされていないとは思っていたけど、改めて聞くとほっとする。いい生徒になれているならよかった。
「さて、お兄さんのお迎えも来てしまったことですし、今日の授業はここまでにしましょうか。
また次の授業で」
「ありがとうございました」
「ありがございました」
手早く広げたものを片付けると、先生は図書室から出ていく。そう言えば、どうして兄様とエミルークさんはここに来たのだろう。
「邪魔をしてしまってごめんね。
ちょっと二人に話しておきたいことがあって」
「すみません。
実はセイラール様のことで。
しばらく私はセイラール様の方に付くことになりまして。
最近はお二人とも体調が安定していますので、朝晩の定期的な診察を中止したくお話に来たのです。
ただ、同じ屋敷内にはおりますので、何かありましたらすぐに呼んでくださいね」
「セイラールさんが……」
「もううまれるのですか?」
「はい。
お二人の妹か弟がお生まれになりますよ」
「たのしみです」
「じゃあ、そのためにもしっかりお姉さんにならないとね」
「はい」
とうとう生まれるんだ。ワクワクと目を輝かせていると、兄様とエミルークさんに笑われてしまった。赤ちゃん、絶対かわいいもの。まあ、セイラールさんが触らせてくれれば、だけれど。この家はどういう風に育てるんだろう。やっぱり貴族だから、乳母なのかも。
とにかく楽しみだ。
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